「私らしいって、どういう意味?」
「お待たせしました。ショートケーキと赤ワインのボトルでございます。ドリンクバーは、あちらからお取りください」
私が、皇に問いかけたのと同時くらいに、店員さんが注文したワインやケーキを持ってきた。
「おっ!来たか!ミラ、このケーキはお前が食えよ。ジュースは何が飲みたい?」
「わーい!ケーキなのだ!えーとね、ミラはオレンジジュースが良いのだ」
「オレンジジュースか?分かったぜ」
そう言って皇は、ドリンクバーコーナーからオレンジジュースを持ってきてくれた。
「あの皇、さっきの話……」
「その前に、乾杯しようぜ?ほれ、来夢の分だ」
皇から、赤ワインの入ったグラスを受け取る。
「それじゃ乾杯!」
「か、乾杯」
「乾杯なのだー!」
〝チーン〟
「プハー!美味え!もう一杯!」
一気にワインを飲み干した皇は、2杯目を注ぐ。
「フフ。相変わらずオヤジ臭いわねー!それじゃ、彼氏なんか出来ないよ?」
「あーん?アンタには言われたくないよ来夢!……対バン決闘の話だけどさ、〝来夢のロック〟なんだなって思ったよ」
「私のロック……?」
「そうだよ。アンタ、バンド結成するくらい特撮ヒーローの主題歌めちゃくちゃ好きなんだろ?その大好きな音楽を〝格下〟と侮辱されたからキレたんだろ?そういうブレないのが〝来夢のロックな生き方〟じゃねーか。アタシは来夢のそういう所は好きだね。それに音楽やってる人間は、世間からどう思われようと〝自分自身の中にあるロック〟だけは捨てちゃダメなんじゃねーの?逆にオーヴァーの奴に、来夢がヘラヘラしながら『そうだよね。特撮ヒーローの主題歌なんか古臭くてダサいよね〜』なんて言ってたら、少し軽蔑してたな」
「ま、まあね!特撮ヒーローのように(逃げちゃダメだ)と思ったからね!」
「ったく、そういう風にすぐ調子に乗るのがダメなんだよ!まっ、アタシがオーヴァーに同じ事を言われてたら、ビンタくらいは食らわせてやるけど、対バン決闘までは受けてねーかな!?」
「そ、そうだよね。ごめん……」
「ライ様。ケーキ少し食べるか?」
ミラが落ち込んだ私を元気づけてくれようと思ったのか、自分のケーキを勧めてくる。
「だ、大丈夫。ありがとミラ」
「対バン決闘に負けても生命まで取られる訳じゃねーんだし、この世の終わりみたいな顔すんな!アタシらもいつかはバンドを辞める時が来るわけだし、もしも負けたら〝
「す、皇ー!あ、ありがとう!」
私は、思わず皇の手を握り締めて感謝の言葉を伝える。
「こんな時に、タイムマシーンでもあればな〜。菜々子を対バン決闘を受ける前の時間にタイムスリップさせて、来夢を止めさせるのが1番手っ取り早いんだろうけどさ!タイムマシーンなんか特撮やアニメじゃねーんだから、現実には無いしな!キャハハ!」
「いや、一応、
「ライ様!シーッ!」
「あっ!ごめん!」
「あん?よく聞こえなかったけど、何か言ったか?……まあいいや、アタシも勝手に対バン決闘を受けた事には、半分だけムカついてんだ。だから、〝2つの事〟が出来たらチャラにしてやるよ」
2杯目のワインを飲み干した皇は、真剣な表情をしながら話を続ける。
「まず1つ目は、〝菜々子に許してもらうこと〟だ。菜々子、来夢が来る前に『ミュージックフェス、凄い楽しみだね!3人でお客さんに楽しんでもらえる演奏しようね!』って、言ってたんだ。菜々子の気持も考えてケジメつけてやんな」
〝菜々子に許してもらうこと〟それは、皇に言われるまでもない!私も同じ事を考えていたからだ。
「うん!分かった!絶対に許してもらうよ!約束する。……でも、でも、菜々子バンド辞めるって言ったらどうしよう?」
「……多分、それは無いよ。店を飛び出す時に『
皇の予想は外れてるかもしれない。けど、今は菜々子がバンドを辞める気は無いと信じて行動するしかない。
「それで、もう1つの事は?」
「……それはな、それはな。1つ目よりも、すっげぇ事なんだよ。実はな、実はな……」
皇は急に神妙な顔をして、声のトーンを落としながら話す。
菜々子に許してもらう以上に、大きな事なの?それって何なのよ!?
「ここの会計、ぜーんぶ来夢が奢って!」
〝ズコー!〟
私は皇の言葉を聞いて、頭から店の床に盛大にズッコケてしまった!
「お、来夢、そのリアクション良いね〜」
「あ、あんたね〜!マジな顔して何を言うかと思えば!私が悪いんだし、今日は奢るわよ」
「よっしゃー!ゴチになります!これで残るは〝1つ目の事〟だけだな。もう、20時30分か。ガキもいるんだから、そろそろ帰んなよ。アタシは1人で、もう少し
伝票を手にとって総額を確認する。ゲッ!結構高いな。そっか、ワインをボトルで頼んだからか。
まあ、でもこればかりは仕方ない。ピッタリ払えないので、少し多めの金額を皇に渡す。
「おっ、釣りは五百円か。菜々子の置いてった五百円玉を持ってけよ」
私は、テーブルの五百円玉を手に取る。
この五百円玉は、絶対に使わない!菜々子に許してもらった時に、私の手から菜々子に返すんだ!
「ミラもケーキ食べ終わったみたいね。それじゃ、帰ろっか?」
「はーい!それじゃスメ様、またねなのだ」
「ああ、またな。おい来夢!菜々子の件で、アタシに手伝える事あれば言えよ!アタシも昨日のライブハウス出禁になった事では、菜々子に迷惑かけてるしな」
「うん。ありがと!」
私達は店を出て、アパートに向かう。
「それじゃ、次の曲を聴いてください」
帰り道の途中、アコギを持った見知らぬストリートミュージシャンが、路上ライブをしてる姿が目に入った。
うんうん。お互い頑張ろうね!……うん?アコギ?アコースティックギター?ギター?
「あーーーーー!」
ヤバい!ヤバい!菜々子との事や対バン決闘以前に、
「ギギギ……!」
「どうしたライ様?突然大声出したと思ったら、白目剥いて『ギギギ』なんて呟いて。『は◯しのゲン』でも読みたくなったのか?」
「ヤバーい!
「えー!?それじゃ演奏が出来ないのだ!もう負け確定なのじゃ」
昨日から色んな事があり過ぎて、すっかり忘れてたけど、昨日ライブハウスを出禁された時にギターを無くしてたんだった(※)
どうしよう?タダでさえ生活カツカツだから、新しいギターを買う金なんか無いわよ!ポイズン!
「あれ?〝泥酔して喧嘩してライブハウスから出禁されたあげくギターを無くす〟、〝勝手にバンド解散を賭けた対バン決闘を受ける〟、〝ベースの菜々子は怒らせる〟。もしかしたら、私ってギャルバンのリーダーとして
「えっ?それって正直に言っていいのか?それともオブラートに包んだ方がいいのか?」
「正直な方でいいわよ」
「うむ!今のライ様は〝
ミラは、そう言って笑顔でサムズアップする。
「あ、あんた、ハッキリ言うわねー!しかも、QOKなんて変な略語まで付けてー!」
「だって、正直な方で良いって言ったからなのだ」
えーい!こうなりゃ最後の手段!クズはクズらしく困った時の〝ベガ星の超科学アイテム〟頼みよ!
「ねえ〜?ミラトラマンタロウ!〝ベガタブ〟でお願いしたい事あるんだけどな♡」
私は、自分でも気持ち悪いと思うくらいの猫撫で声を出して揉み手しながら、ミラに擦り寄る。
「こういう時って〝ミラえも〜ん〟って言うのがパターンなんじゃないのか?先に言っとくけど、ベガタブで
え?そ、そうなの?朝、ミラが使った〝今日は思い
「うおおおー!帰ってこーい!私のマイギター!」
打つ手が無くなった私は、絶望のあまり路上で絶叫してしまった!
「うるせーぞ!姉ちゃん!」
「ライ様、〝私の〟と〝マイ〟は同じ意味なのだ」
私には、通りすがりの酔っ払いの怒声やミラのツッコミに言い返す気力が無かった……。
※第1曲目(3/4)参照。
〜次章予告!〜
町祭り内のミュージックフェスに出演する事が決まった喜びも束の間、〝Queen Of Kuzu〟こと味蕾来夢の後先考えない行動で、スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズは、最大のピンチを向かえた!
無くなったギター。怒りのあまり去っていったベーシストの菜々子。
どうする来夢?君がいらん事ばっかしたせいで、ミュージックフェスの前に片付けなきゃいけない問題は多いぞ!
そんな来夢の前に「
(え?読者様人気を得るため、どさくさに紛れて流行りの正統派ガールズバンド作品に路線変更しようと思ったこの流れで、レディースが出てくるの!?)
来夢のアパートに勝手に住み着く新たなる居候の登場!事案か!?
(大家に見つかったら怒られるぞ!そんでもって追い出されたら、次章が〝ホームレス編〟になっちゃうじゃねーか!)
なんか、ミュージックフェスから、どんどん脱線していってないか?作者の頭は大丈夫か?
『ギャルバンで昭和特撮ヲタの私が、ひいおばあちゃんになった話』
次章、「第4曲目 バンド回キター!ヤバい!ギターが無い!……え?話そこから?」お楽しみに~♪
波乱と笑撃でSF(少し不思議)な〝ミュージックフェス編〟、本格始動!!……の予定♡