私は、廊下に落ちてる茶色の薬品瓶を目にして〝1つの作戦〟を思いついた。
でも、本当に上手く行くかしら?
「Hey!You!Meと
両手を左右に大きく広げたナツミが迫ってくる!もう、考えてる時間は無い。後はコイツのノリの良さに賭けるしかないわ!
「ちょっと待ったー!私の体を賭けて勝負しない?どうせなら、その方が面白いと思わない?」
私は、そう言ってナツミの顔の前に、パーの形に広げた右手を出して、その動きを止めようとする。
「
やった!ノッてきたわ!ルー語で喋る時点で、何となくノリが良い性格してるなと思ってたのよ〜。
「⋯⋯お前さんが、廃病院に住み着く〝
「⋯⋯Meの
「なるほど、
私は、ナツミのツッコミを無視して言葉を続ける。
「You、人の
「残念だけど、おナツさん。アンタの腕前は
「Talkが
「ヒュ〜♪チッチッチッ!」
私は、口笛を吹きながら右手の人差し指と中指を立てて、自分の顔の前で左右に振る。
「フッフッフッ!」
続けざまに、私は満面の笑みを浮かべて右手の親指で自分の顔を指す。
「Youが、ディス・イズ・シティーでNO1の薬瓶投げの
これぞ〝来夢流薬瓶投げ腕自慢対決〟よ。
説明するわ!『快傑ズバット』 では、毎回登場する悪人のボスに雇われてる凄腕の用心棒が出てくるの。
その特技はナイフ投げとか拳銃使いとか様々だけど、早川健様は彼らの腕前を「日本では2番目」扱いし、自分こそが日本で1番と言う。
そんでもって、早川健様と用心棒の特技対決が始まるんだけど、早川健様が用心棒以上の凄技を見せつけて、勝利するのが毎回のお約束だけど熱い展開なのよー!⋯⋯って、さっきから私は誰に向かって説明してるのかしら?
こう見えても小学校の時は、ソフトボールクラブのピッチャーしてたから、投球には自信あるの!この勝負に勝ってこの場を切り抜けるわよ。
「よーし、ちょっーと
ナツミはそう言って、パッと消えてしまった。
⋯⋯⋯⋯5分くらい経過したのかしら?ナツミは戻ってこない。
廃病院の2階の薄暗い廊下には、私と果音とサユリの3人が横並びで立っている。
誰も喋らないので、廊下は静寂に包まれてるわ。
うう!こうして静まり返ってると、1人じゃないとはいえ、怖いな〜。
「あのー、総長、来夢ちょっといいスか?」
その沈黙を破ったのはサユリだった。
「あん?何だよ?どうかしたか?」
果音が、ぶっきらぼうな感じで答える。
「さっきから気になってたんスけど、どうして
「「あ⋯⋯!ホンマやーん!!」」
サユリの言葉を聞いて、私と果音が同時に〝その事〟に気がついた。
「サユリー!そんな大事な話は、もっと早く言いなさいよ。そうすりゃ、今頃この廃病院から逃げられてたじゃないのさ!!」
静まり返った廃病院の廊下に、サユリに対して少しキレ気味な私のツッコミが響く。
私だって、幽霊に取り憑かれたくないから、逃げれるなら逃げたかったわよ!
「来夢の言う通りだぜ!オメェ、何考えんてだよ!!」
同じく、少しキレ気味になった果音のツッコミが、続け様に廊下に鳴り響いた。
「いやいや!自分が言う前に、そんな簡単な事くらい気がつかなかったんスか!?アンタらアホなんスかーい!!」
私らに、ツッコまれたサユリが逆ギレ気味に反論してきたわ。
〝パッ〟
次の瞬間、両手で男性の人体模型を抱えたナツミが私達の前に現れる。
右半分が裸で、左半分が神経や骨が透けて見える造りになってるという学校の保健室とかに飾ってあった模型ね。
久々に見たわ〜。
⋯⋯って、今のうちに逃げときゃ良かったわよー!!
「フフフ!ハァハァ!Youたーち。ウェイトさせたーな。ディス・イズが、薬瓶投ーげ対決に
そう言ったナツミは、よほど疲れたのか肩で息をしてる。
幽霊も重い物を運んで来ると疲れるのね。初めて知ったわ。
「おーい!そこのモヒカンヤンキーガール、ディス・イズ・ヒューマンモデルを廊下の端に
ナツミが、サユリに人体模型を廊下の端に置くように指示する。
「わ、分かりましたス」
サユリは、言われたように人体模型を置いた。
「ラーイム、この廊下の
ナツミは、廊下に落ちてた薬瓶を1つ掴んで、私に対決方法を説明する。
「分かったわよ。そのルールで、やってやるわ!」
私達3人とナツミは、2階廊下の真ん中くらいの位置まで移動する。
スマホのライトを、廊下の端に置かれた人体模型に向けて照らす。
薄暗くて正確には分からないけど、見た感じ、ここから人体模型までの距離は20メートルくらいかな?
「フフフ!それじゃーあ、Meからスタートさーね。ホーイ!」
〝ビビューン〟
石森章太郎先生が原作で、1976年7月6日から1977年3月29日まで放映された全36話の特撮ヒーロー番組『超神ビビューン』の主人公・ビビューンのような音を立てて、ナツミの投げた薬瓶が人体模型目掛けて飛んでいった。
〝バチコ〜ン〟
スマホのライトで照らした人体模型の頭部に薬瓶が命中したのが、確認出来たわ。
「どうーだい?ラーイム。Meの腕前ーは」
ナツミは両腕を組んで、ドヤ顔で言う。
「お見事!次は、私の番ね」
ここは早川健様みたいに、ナツミ以上の瓶投げの技を見せて、降参させてやるわよ。
私は、片手でギリギリ持てるくらいの大きさの薬瓶を1つ拾うと同時に、思い切り床に叩きつける。
〝ガシャーン!〟
激しい音を立てて、瓶が粉々に砕け散った。
その中から尖っていて手頃な大きさの破片を6個選び、それをナツミに見せる。
「ホワット?そーんな
「まあ、見てなさいよ」
精神集中!精神集中!フー!行くわよ来夢!
〝ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!〟
精神統一した私は、6個の破片を縦一列に手裏剣のように投げつける。
人体模型の頭部の〝天中〟、鼻の下の〝人中〟、胸の〝タン中〟、その真下、いわゆるミゾオチの〝
私の投げた瓶の破片は、全て人体急所である〝正中線〟に命中したのだった。
凄い!ここまで上手く行くとは自分でも思わなかったわ!人間、何でもやってみるもんね〜。
「ま、まさか?Meよりも
隣にいるナツミは、狼狽えた様子で呟く。
「フフフ!どうだい?ナーススペクターのおナツさんよ?」
今度は、私がドヤ顔をしてナツミに言った。
〝パチパチ!パチパチ!〟
「オーー!スゲー!」
私の腕前を見た果音とサユリが、拍手しながら褒めてくれた。
くー!気分良いわ〜!
さあ、勝負あった以上、
「この勝負はMeがWinnerでOKでしょ!それじゃあね!Me達は
私は、ナツミの正面を向いて言い放つ。
あれ?またルー語が移っちゃったみたいね!?
「こ、こうなーりゃ、ルールなんて
ナツミが両手を広げて、私に取り憑くため向かってくる。
そ、そんな〜!こんなのルール違反じゃないのさ!
「い、嫌ァァァ!仮面ライダーV3!風見志郎様助けて!」
私は、そう叫びながら腰に巻いた変身ベルト玩具であるダブルタイフーンの起動スイッチを押した。
〝ピキューン!キュイン!キューイン!!〟
劇中と同じ変身音を鳴らしながら、ダブルタイフーンの風車が光って回る。
「うう!ラーイム、Youの巻いてるベールトは?⋯⋯Meの
ナツミが、私のダブルタイフーンを見つめながら叫ぶ。
えっ?ひょっとしてナツミって『仮面ライダーV3』のガチファンだったの?それなのに最終回を観てないの?
一体、何がどうなってんのよ〜??