「ハァァァ!Meは、仮面ラーイダーV3の
ナツミが、私の腰に巻いたダブルタイフーン(玩具)を見つめながら泣き叫ぶ。幽霊に涙があるのか知らないけど、ビービー号泣してるわ。
「な、ナツミ……仮面ライダーV3好きだったの?」
「
え?今の話だと、ナツミって『仮面ライダーV3』の本放送放映時の人間だったの?
最終話の放映日が1974年の2月9日だから、1974年の2月8日が命日ってことか。
そんな昔の人間だったのね。20代にしか見えないから、最近亡くなった人かと思ったじゃないの~。
宮内洋様の代表作の1つ『快傑ズバット』のネタに反応しなかったのは、番組が放送される前に死んでたから知らなかったんだ。
「ナツミ、どうして死んじゃったの?」
私は、ナツミに死んだ理由を聞いた。
「仮面ラーイダーV3
へー、そうなんだ。まあ、仮面ライダーV3は当時から大人気番組だったみたいだから、ファンの子が入院してても当然よね。
果音とサユリはポカンとした顔でナツミの話を黙って聞いてるけど、私には理解できる話よ。うん!うん!
「BoyとMeは、仮面ラーイダーV3の
うう!いい話じゃないの。……うん?屋上で変身ごっこ?仕事中なのに?何かツッコミどころあるような気がするのは、私の考え過ぎかしら?
「ジャンケーンしたーら、Boyが怪人のカメバズーカ役。Meが仮面ラーイダーV3役になったよ。Chilledと言えど、
「「「…………」」」
今、廃病院の廊下には沈黙が流れていた。
私、果音、サユリの三人は、ナツミが語り終えた色んな意味で衝撃の死亡エピソードを前に、言葉を失っていた。
「おい!おい!」
口火を切ったのは果音だった。
「何だよ?その仮面ライダーオタクの拗らせ過ぎが招いた、感動ゼロの全力事故死は!」
「感動ゼロ言うーな!Meの仮面ラーイダーV3Loveは命懸けだったーんじゃーい!」
果音のツッコミに、ナツミが顔に青筋を立てて反論する。……いや、幽霊だから、元々顔は青白いんだけどね。
「でも、子供と屋上で仮面ライダーごっこって、職務放棄も甚だしいスよ!?というか、何で屋上でやるんスか!?庭でええやないスか!」
「分かってないね〜サユリ。変身は〝高いところ〟でやってこそ浪漫があるのよ!」
ナツミに対して無粋なツッコミを入れるサユリに対して、私は変身ごっこの浪漫を説いてやった。
「「やかましいわ!!」」
サユリと果音に怒鳴られた私は、頭を抱える。
あれ?私の思う浪漫って、もしかしたら変なのかな?
「うう!FinalEpisodeを
ナツミは、また泣き出してしまった。
「……よし、分かった。落ち着いて!今見せてあげるから」
私はスマホを操作して「DMMTV」のアプリを起動させようとした。
〝くるくるくるくる〟
〝くるくるくるくる〟
真っ黒な画面の中央に、例のクルクルマークが回り続けてる。読み込めないの?
「え?まさかの圏外!?オイこら!廃病院!!なめんなよぉぉ!!」
まるでテレ東深夜のB級ホラーのようなノリで私は叫ぶ。
ううう!こうなったら!私の大切な大切な宝物なんだけどー!!
私は、腰に巻いていた変身ベルト「ダブルタイフーン」を外し、ナツミの前に差し出した。
「ナツミ!最終回は観せられなかったけど、代わりにこれをアンタにあげるわ!」
「ホ、What!?ダブルタイフーンを
「私の宝物なんだからね。あの世でも大切にして遊びなさいよ!」
クゥー!このベルトは、もう売ってないのよね~。
でも、大好きな特撮作品の最終回を観れないまま死んじゃったのは、凄く未練があるだろうし、同じ仮面ライダーV3ファンとして放っておけないわよ。来夢ちゃん一生に一度の大サービスなんだからね!
ナツミは、ウルウルした目でベルトを見つめてる。
「Meが、ずっと欲しかったダブルタイフーン!これが
ベルトを受け取ったナツミは、腰に装着する。
「行くぜ!!とうっ!!」
そう叫びながらナツミは、ダブルタイフーンの起動スイッチを押した。
〝ピキューン!キュイン!キューイン!!〟
ベルトの光と共に、ナツミの周囲に風が吹き出す。
凄い!ホントにタイフーンが起きたみたいよ。
その風に吹かれるような感じで、ナツミの体がブイスリィィィッ!っと上昇していく!
「サンキュー!ラーイムゥゥゥゥ!!仮面ラーイダーV3、フォーエバーッッ!!」
仮面ライダーV3の変身ポーズを取ったナツミの身体は、徐々に透けていき、天井にぶつかる寸前に、完全に消えてしまった。⋯⋯私の宝物のダブルタイフーンも一緒に。トホホ~!
消え際に、変身ポーズを決めていくあたり、筋金入りだわ。
私はその様子を見上げながら、思わず呟いた。
「……あの世で観なさい。仮面ライダーV3の最終回を!マジで名作なんだから」
「来夢。いや!
サユリが、キラキラした目をしながら、私の手を掴んで訳わかんない事を言い出す。
霊的媒介?除霊術?一体何のこと?
「ねえ、それってどういう意味なわけ?」
「幽霊と強い結びつきのある物を使用した除霊術の事ス!もう~、師匠ったら分かってるくせに聞くんでスか~?それにしても、あの幽霊と変身ベルトが結びつきある物だって、よく分かりましたスね?」
ニヤニヤしたサユリが、右肘で私のお腹を軽くグイグイと押しながら言う。
そうなんだ~。初めて知ったわ。
「ま、まあね〜。アイツを見た瞬間、あのベルトが結びつきある物だってすぐに分かったわよ。それに朝起きた時から、こうなりそうな気がしたんで用意しておいたのよ。アハハ!」
「流石師匠!凄いス!尊敬しまス!!」
師匠と呼ばれる事と、尊敬の眼差しで見られるのが気持ち良くて、私は口からでまかせをサユリに言う。これぐらいの事しなきゃ、ダブルタイフーンを失った私の心の傷は癒えないわよ。
「⋯⋯あの、来夢」
隣にいた果音が、小さく口を開いた。
「どうしたの?果音」
「アンタ、ホンマに凄い人だな。敵であるアタイを助けに来た上に、幽霊まで成仏させちまうなんて。この勝負アタイの負けだ。完敗さ」
そう言って果音は、私にペコリと頭を下げた。ってことは、私の勝ち?やったわー!これでギター復元の最後の材料である果音のサラシが手に入るのね!
……と思ってたら、頭を上げた果音がジッと私の顔を見つめてくる。
な、何で、両目がラブコメ漫画に出てくるようなハート型になってんの~?
「アタイ、完全に惚れちまったぜ!
果音は、そう言いながら私を思い切り抱きしめてきた。痛たた!力強い!強いって!あばら骨折れるって!
「ち、ちょっと待って!姉御って私の事なの?アイラブユーって、私たち女の子同士よ?」
「現代は多様化の時代だから、そんなの関係ないぜ!今この瞬間から、姉御はアタイの命の恩人であり、心の太陽であり、
「いやいや、何よ?その意味不明な比喩は!?……今、さり気なく悪役令嬢って言わなかった?オイ?」
「え?こ、細かいことは、どうでもいいじゃねーか!あはははは!」
私のツッコミを受けた果音は、パッと離れると頭をポリポリと搔きながら、笑って誤魔化そうとしてる。
「姉御。アタイのサラシが欲しかったんだろ?約束は守るぜ」
果音は特攻服を脱ぎ、躊躇なく自分の胸に巻いてるサラシをスルスルと解き始めた。
ちょっと!いくら廃病院で周囲に誰もいないとはいえ、少しは恥じらいなさいよ
「ほら受け取ってくれ!」
立派過ぎるお乳を丸出しにした上半身裸の果音が、右手に握ったサラシを私に差し出す。
「ふえ~。やっぱ総長、デカいスね~」
サユリが、果音のマーベラスお乳を見て感心したように呟いた。
本人は全然恥ずかしがってないけど、何だか私の方が恥ずかしくなってきたわ。
私はサラシを受け取ると、咄嗟に自分の革ジャンとウルトラ警備隊のエンブレム入りTシャツを脱いだ。
上半身ブラジャーだけになった私は、Tシャツを果音に渡す。
「ほら、このシャツ貸してあげるから着なさいよ。オッパイ丸出しで帰る気?お巡りさんに捕まるわよ?私は革ジャンのチャックを上げればブラジャー見えないから」
そう言って、私は着なおした革ジャンのチャックを目一杯上げた。うん。家に帰るまでは大丈夫そうかな?
「ありがてぇ!遠慮なく借りるぜ。エヘヘ!姉御のTシャツだ。いい匂~い!帰ったら思い切りクンカクンカしちゃお♡」
果音は私のシャツを着て、その上から特攻服を羽織る。……最後に変な事を言ったような気がするけど、疲れたし聞かなかった事にするわ。
次の瞬間。
「オーイ!総長、サユリ、来夢ー!無事すかヨー!?」
廃病院の廊下に、チヨコの声が響いた。声のした方を見るとチヨコがスマホのライトで、こちらを照らしながら向かってくる。
その後ろには、お巡りさんじゃなくて……帰ったはずの
何で、永依子達が?それにお巡りさんは?
「おー!お前ら。アタイらは無事だぜ。心配かけて悪かったな」
果音は、笑顔でチヨコ達に手を振った。その姿を見たチヨコは涙ぐみながら果音に抱きついた。
「総長ー!マジで心配だったんすヨー!生きてて良かったすヨー!!フエエエエーン」
私は、チヨコの肩を軽くポンポンと叩きながら尋ねる。
「チヨコ、もう大丈夫だから。助けに来てくれてありがと。何でお巡りさんじゃなくて帰ったはずの藻部伽羅永依子たちと一緒なの?」
「……来夢が廃病院に入った後、言われたように警察に電話しようとしたんすヨ。でも、何度か試したけど全然電波つながらないんすヨ。だから、1番近い交番に向かってたら、途中で引き返してきた永依子たちと合流したんで、ここまで来たんすヨ」
「そうだったのか。でも、何で永依子たちは戻ってきたのよ?」
「押忍!何だか総長たちに嫌な事が起きそうな予感がしたのであります。『機動〇士Gun〇am GQuu〇uuuX』を観てる場合じゃないと思い、自分ら6人は引き返してきたのであります」
永依子が何故か敬礼しながら、私に説明する。
私は、軍人でもアンタの上官でもないんだから、普通に言えばいいわよ~。
「それよりも、来夢。一体、何があったんすかヨ?」
「大変だったのよ〜。実はかくかくしかじかで……」
今度は私が、チヨコたちに先程までの経緯を話した。
「「「えー!幽霊と戦ってたんですかー!?来夢さんパネェす!」」」
チヨコたち7人は、私の説明を聞いて驚きと称賛の声を挙げた。
もっと、疑うかと思ったけど、意外な反応ね。こいつら全員、根は素直で悪い奴らじゃないみたい。
……廃病院を出た私たちは、近くにあったコンビニの駐車場で
ジュースやお菓子を飲み食いしながら他愛ないことを話してたけど、もうすぐ夜明けになるので、解散することになった。
「姉御。町祭りのミュージックフェス、チーム喪慧喪慧怒無羅威巣の全員で応援に駆けつけるからな!」
原付に跨った果音が、私にそう言った。
「ありがと!私もアンタ達の期待に応えられるよう全力で演奏頑張るわ!」
今まで、同世代の子にバンドを応援してもらった事ないから素直に嬉しいな。
「……あと、今度アタイとデートしよ♡」
「え?そ、それは考えておくわ」
応援してくれるのは嬉しいけど、それとこれとは話が別よ~。
「師匠!また会おうス!」
「
「うん!サユリとチヨコも元気でね。またね!」
私は、サユリ&チヨコに笑顔でサムズアップする。
「チーム喪慧喪慧怒無羅威巣!
「「「押ー忍!!総長!!」」」
パラリラ~♪ パラリラ~♪
果音たちが去っていくのを見送った私は、フラフラになりながら、原付を運転して帰宅する。
やれやれ。今夜は本当に、色んな意味で疲れたわ。ミラは、ちゃんと寝てるかな?
……私がアパートに到着した時には、東の空がうっすらと赤く染まってきた。ひんやりとした風が、騒がしかった夜の終わりを告げていた。もう少しで、新しい一日が始まるわ。
そんな事を考えながら駐輪場に、原付を置いたその時。
「グッドモーニング!ラーイムちゃーん♡」
「ギャアアアァアァァ!!」
背後から突然声をかけられたので、私は驚き叫んでしまった。
振り向くと成仏したはずのナツミが、にこにこ笑顔でプカプカと浮かんでいた!
「どうしてアンタがここに?ま、まさか!?成仏詐欺!?だったら私のダブルタイフーンを返してよ!!」
「
「えー!!そんなー!一体何しに来たのよ?また私に取り憑くつもり?」
「ノンノン!Meはもう、悪霊じゃないよ。ラーイムのピュアな
悪霊から、守護霊にジョブチェンジしたって?そんな事が出来るの?
言われてみれば、周りの人魂も無くなってるし、顔色も随分良くなって普通の人間と変わりない。
相変わらずルー語で話すけど、私の名前以外は変に間延びした喋り方じゃなくなってるわ。
足が無い事を除けば、黒髪ロングヘアーの美人看護師さんね。
「……うん?いやいやいや!守護霊ってことは、私の生活がアンタに完全に監視されるの!?お風呂も?トイレも!?」
「
え?私、今日だけで2人から告白された?1人はレディース総長で、もう1人は……幽霊!?
もしかして私、モテ期でも来たの?やったー!!
……って違ーう!!どうして、私に惚れるのはジェンダーレス生春巻といい、こいつらといい変な連中ばっかりなのさ!!
私の理想のヒーロー様とは、いつになったら会えるのよ~!?
「いやあああああああああ!!!」
朝焼けの空に、私の絶叫が木霊する。
近所のコンビニ袋をぶら下げたオッサンが、すれ違いざまに私の事を二度見してたけど、そりゃそうだよなぁ……。