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第5曲目(4/?) 底辺ギャルバンの大逆襲!〜ウチらのロックをナメんじゃねぇ!!〜

 私とミラは、バーニング・ビーストの入り口で、皇と菜々子に2日後に会う約束をして別れた。



 そして、ギターケースを大事に抱えながら、夜風に吹かれてアパートへと戻ってきたのだった。


 玄関の前に立った時、ふと空を見ると北斗七星が瞬いていた。その光は、まるでバンドの絆を取り戻した私を祝福してくれるように見えた。


 なーんて、いくら何でも自惚れ過ぎよね。私は苦笑いしながら、ギターケースを背負い直した。



 〝ガチャ〟



 リビングのドアを開けた瞬間、私は目を丸くした。



 「アンタ、なにしてんのよ?」


 リビングの真ん中に、正座したカン・テイシーが神妙な面持ちで鎮座していた。テーブルの上には、なぜか6個入りのたこ焼きが1パック置いてあった。一体どこから持ってきたのかしら?



 「来夢姫様、ミラお嬢様。お帰りなさいませ。ベガタブで最終審査は実施させて頂きました。お2人が出かけてから正座で8時間待っておりました……膝が死にました。ちなみに、このたこ焼きは、審査終了の演出用に作ったホログラフィなので食べれませんよ」



「いや、たこ焼きなんかいらないわよ!てか、そんな長時間正座すんな!!普通に寛ぎながら留守番してりゃよかったじゃん!」



「それでは礼に欠けますので。では、早速ですが、ギターケースを開けてください」



 カン・テイシーは、正座したまま体をワナワナと震わせており、悔しそうな表情で唇を嚙んでいた。



 あれ?急に雰囲気変わってない?何か、物凄く嫌な予感がする……。 私は、震える手でギターケースのバックルを外した。



 〝パカッ〟



「……え?」


 中身が、空っぽだった。



 バーニング・ビーストを出てから、やけにギターケースが軽く感じたけど、気のせいじゃなかったのか!!



 私の脳内に一瞬で「絶望」って漢字が、ゲシュタルト崩壊するほど駆け巡る。



「そ、そんな嘘でしょ?ギターは復元できなかったってこと?もしかして私、不合格ってこと?……マジかよ!」


 カン・テイシーは、スッと立ち上がると、俯いたまま言葉を続ける。


 「所々にコードの弾き間違いがありました。ギターの持ち方も雑。演奏の際、歌とギターの音程がズレておりました。慎重に検討させて頂いた結果、誠に残念ながら……」



 その言葉を聞いて、ぐらりと視界が歪む。膝が抜けて、私は床にへたり込んだ。



「どうしよ?新しいギター買うお金なんて無いわよ。こうなりゃパパ活してギター代を稼ぐしかないのかな?それとも昔描いた黒歴史漫画の『怪傑超人・ウルトラ仮面だゼーット!』(※)を投稿して一攫千金を狙ってみるとか?いやいや、本番1ヶ月後だよ?間に合うわけないじゃない」



 でも、パパ活って、オジサマと食事したり、デートしなきゃいけないんでしょ?



 同世代の男の子ともデートした事が無いのに、いきなりオジサマとデートなんてハードル高過ぎだわさポイズン!



 オジサマとの話題だって、昭和特撮ネタくらいしか無いわ。


 うん?ちょっと待って。もしかして同じ昭和特撮好きのオジサマと意気投合すれば、ギター代どころか、たっぷりとお小遣いくれるんじゃない?そしたら、好きな時に寝て、好きな物を食べて飲んで、好きな特撮フィギュアも買い放題の生活が出来たりするかも!?……ウフフ!悪くないわね♪その生活も♡



 「……って、アホなのか!ライ様はー!そんな上手く行くわけないのだ!自分に都合良く考え過ぎなのじゃー!」



  色々と妄想してた私の右耳を引っ張りながら、ミラが耳元で怒鳴る。



 「い、痛たた!な、何で、私の心の声が、アンタに聞こえるのよ?」



 「何言ってんのだ!途中から、声に出てたから丸聞こえだったのじゃ」



 「ウ、ウソ?どこから聞こえてたの?」



 「気付いてなかったのか?『同じ昭和特撮好きのオジサマと意気投合〜』って所からなのじゃ」



 「えー!!そこからだったのー!?」



 「ガハハハハッ!お2人とも面白いですな」



 そんな私達のやり取りを見て、突然爆笑するカン・テイシー。


 あまりの豪快さに、私の中で、パパ活や『怪傑超人・ウルトラ仮面だゼーット!』すら一瞬どうでもよくなる。



「来夢姫様。なにマジで落ち込んでるんですか!今のは冗談、冗談ですよ!不合格なわけないじゃないですか」



「え……はああああ!?」



 カン・テイシーは、今度は滝のような涙を流しながら、笑顔のまま熱く語り出す。



 「完全復元するにはギターを一度素粒子レベルまで分解して、そこから再構築する必要があったんです!あれだけの熱い友情と魂の演奏を見せられて合格にしない理由が、どこにあるんです?」


 そしてカン・テイシーは、ピシッと正座し直して、



「合格です!来夢姫様!文句無しの合格ですっ!!!ええもん、見せてもらいましたよー!!」



 そう言ったと同時に、土下座するような姿勢でワンワン号泣する。



 全くシャレにならない冗談言うんじゃないわよ!本当なら、ゲンコツ食らわせてやりたい所だけど、そんなに泣かれたら怒れないじゃない。



 それよりも、やったー!最終審査に合格出来たわよー!!



 次の瞬間、ギターケースの中から、まばゆい七色の光が溢れ出した。



「え?」



 まるで銀河を切り裂く流星のように、その光は私の視界に飛び込み、心の奥に火を灯すと同時に、周囲の景色が溶けていく。



 続けて走馬灯のように、私の記憶がフラッシュバックする。



 菜々子と皇に初めて会った日。自己紹介した後、バーニング・ビーストで、いきなり合わせ練習した光景が浮かんだ。



 3人ともバラバラ過ぎて、怒る気にもなれず笑い合ったっけ。



 ……七色の光が一際強く輝いたと思った直後、一瞬にして消えた。それと同時に、私の意識もリビングに帰ってきた。


 ケース内には、完全に復元された私のギターが鎮座していた。



「ほ、本当に復元されたの?」



 私は、ケースからギターを取り出して、そっと抱きしめる。懐かしい木の香り、手に馴染むネックの重み!確かに、私のギターだ。これでバンドの絆もギターも、全て戻ってきたのね!!



「さて、来夢姫様。自分の役目は、ここまでです」



 いつの間にか、泣き止んでいたカン・テイシーは急に立ち上がり、真顔になった。



「ギターが完全復元されたので、〝カムバック!キュンキュンメモリアルセンター〟の擬人化システムを解除し、自分はベガタブの中に戻ります。さようならであります」



 敬礼しながら、今まで以上に丁寧なトーンで話して去ろうとするカン・テイシーを見ていたら、いきなり胸の奥がキュッと締めつけられた。



 ずるいなぁ。突然、目の前に現れたくせに、仕事を終えたら急に真面目になって、突然‶さよなら〟だなんて。



 「もうお別れ?なんか、あっけないね。アンタさ、最初はガラ悪いし、私のビールとポテチを勝手に飲み食いしたりして、正直ウザかった。でもさ、今だって私の事で泣いてくれたり、ギターの事で真剣になってくれたじゃない?それ見てたら、アンタは悪い奴じゃないって思えてきたんだよ」



 寂しいなんて、絶対言いたくなかった。でも、口に出さなきゃ、きっと後悔する。



「だから、。アンタと暮らしたのは、たった数日間だったけど、いなくなるって聞くと、心にチョッピリ穴が空いたみたいな気がするよ」



 ここまで言ってもカン・テイシーは真剣な表情をしながら、無言で立ち尽くしている。



 その態度を見た瞬間、私は思わず口を尖らせた。



 「ねえ!せめて最後の挨拶くらいは、最初みたいなヤクザ口調でやりなさいよ!敬語のアンタはさ、やっぱ〝らしくない〟んだわ」



 一拍置いて、カン・テイシーはニカッと笑った。



 「おう!おどれには、色々と世話してやったなぁー!感謝せんかい!そんでもな来夢!短い間だったが、おどれとの生活は悪くなかったぞボケがぁー!別れの挨拶代わりに、気合い注入したるわ!歯を食いしばらんかーい!!」



 〝パフン〟



 そう言ってカン・テイシーは、私の右頬を思い切り殴りつけたが、文字通り痛くも痒くもなかった。



 「フフッ!相変わらず蚊に刺された程にも感じないわよ」



 「ガハハ!うっさいわ!」



 私とカン・テイシーは、お互いニヤリと笑いながら言葉を交わした。



 「ええか?おどれの戦いは、これからが本番じゃーい!俺が復元したギターで負けたら勘弁せんぞー!でもな!来夢には最高の仲間が側におるから、きっと大丈夫じゃ!それじゃあの!!」



 「ミッションコンプリート! ミッションコンプリート! カムバック!キュンキュンメモリアルセンター&カン・テイシーシステム ヲ シャットダウン イタシマス」



 私たちが別れの挨拶を終えた直後、ミラのポケットから、突然ベガタブが電子音声を鳴り響かせながら、飛び出してきた。



 カン・テイシーの体が黄金の光に包まれ始めた瞬間、今まで黙って見ていたミラが、一歩前に出てポツリと口を開いた。



 「カン・テイシーのオジ様。ライ様がサラシを探しに出かけてた時は、一緒に留守番してくれて、ありがとうなのだ!ミラと遊んでくれたり、寝る時に子守唄を歌ってくれたりして、楽しかったのじゃ」



 その目はどこか潤んでいて、けれど、子供らしい小さな笑みが浮かんでいた。



 「オジ様、元気でね!また、どっかで会おうなのだ」




 ミラの言葉を聞いて、黄金の光に包まれたカン・テイシーが、ほんの一瞬だけ口元をニヤリと動かした気がした。




 その直後、私らにVサインをしているカン・テイシーの全身が、宙に浮かんだままのベガタブに吸い込まれるように消えていった。




 「ありがと!カン・テイシー。最初は大嫌いだったけど、今は大好きだよ♡」



 私は、笑顔でギターを抱きしめながら呟いた。



 「ちょっとー!NOW今のな〝I・LOVE・YOU愛してる〟の台詞は、聞き捨てならないわよ!ラーイムちゃーん」


 「あんぎゃああああああー!」


 突然、背後から声をかけられたので、驚いた私は、思い切り叫んでしまった。


 振り向くと、これまた滝のような涙を流したナツミが、プカプカと浮かんでいた。



 「どうして、あのJapaneseMafiaヤクザみたいなハゲは消えちゃったのよ?もしかして、あのハゲもMeと同じゴーストなの?いや、そんな事よりもMeという者がありながら、あんな奴に〝I・LOVE・YOU〟なんて、ひどいじゃないのさー」



 ナツミは、泣きながら怒った表情をして、私の両肩を掴んでカン・テイシーの事を問い詰める。



 「ち、違うわよ!今の〝大好き〟ってのは、そういう意味じゃなくて……ナツミこそ、いきなり背後から声をかけるの止めてくれる!?心臓止まって死ぬかと思ったじゃない!」



 私の言葉を聞いたナツミは、ピタッと泣き止んだと思ったら、ニターッと笑って抱きついてきた。



 「いい事を聞いちゃったー♪ラーイムちゃんが、Death死んだしたらMeとHeaven天国で、HappyLifeをトゥギャザー出来るじゃない!エブリデイ毎日バック背後からVoiceをかけまくるわよ♡」



 しまった!幽霊なナツミには、今の言葉は逆効果だったのか!?



 「ナツミは、仮にも私の守護霊でしょ?守護対象者を早死にさせようとする守護霊なんて、あり得ないでしょーが!」



 〝バタン〟


 物音がしたので、ミラの方を見ると、白目を向いて倒れていた!



 「うわわー!ち、ちょっとミラ大丈夫!?」



 私は、慌ててミラを抱き起こす。呼吸はしてるみたいだから、生きてる!よかった!本当によかった!!



 「ねえ?ナツミ。もしかしてアンタの姿は、ミラに見えてたの?」



 「オーマイゴッド!ジェラシーパワーがマックスだったから、このスモールガールミラの事フォーム姿ステルス見えなくさせるの忘れちゃったわ。Meてば、おっちょこちょいなゴーストさんね♪テヘペロ♡」



 ナツミは、そう言ってウインクしながら、自分の頭をコツンと叩いた。



 「‶おっちょこちょいなゴーストさんね♪テヘペロ♡〟……じゃないわよー!この子、突然出てきたアンタに驚いて気絶しちゃったじゃないのー!」


 ……30分後。私(19歳)とナツミ(生きてれば多分70代)は、目を覚ましたミラ(5歳)に、こっぴどく怒られた。



 トホホ〜!何で私も怒られなきゃいけないのさ?



 お説教から解放された私は、ナツミに対してミラやベガ星の事を最初から説明する羽目になった。



 ナツミが、ようやく全てを理解した頃には、窓に朝日の光が差し込んでいたのだった。



 今日は、午前中からバイトなんですけどー!?



※第2曲目(1/5)参照。

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