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第5曲目(6/?) 底辺ギャルバンの大逆襲!〜ウチらのロックをナメんじゃねぇ!!〜

 ドン!




 リビングの中央に立つミラの手の中には、キラキラのラベルが貼られた〝銀色の液体がテンコ盛りで地獄みたいに苦そうな牛乳瓶(?)〟が握られていた。




 えーと、『フライングゲット☆明日のひらめ記を先取さきドリンク君』って名前のベガ星の超科学アイテムだっけ?




 よく見るとラベルには、『※注 服用後の副作用として、二日酔いの十倍くらいの頭痛がするかもしれません』と書かれている。



 二日酔いの十倍って、そりゃあ〝二十日酔い〟じゃないのさ。



 二日酔いでも苦しいのに、その十倍の頭痛を味わうなんて、イヤー!!



 「これって、どんな超科学アイテムなの?まさかと思うけど、飲み物じゃないわよね?」




 「えっ?飲み物に決まってるじゃろ?これさえ飲めば、ライ様も歌詞がバッチリ浮かぶと思うのだ!……多分」



 ミラが(何当たり前の事を聞いてんの?)という表情をしながら、答えた。



 「いやいやいや!作詞ってさ、そういうベガ星の超科学アイテムみたいなチートを使っていいものじゃないでしょ?私の言葉と自分の気持ちで歌詞を書きたいのよ!」




 私は、ミラの提案を全否定した。作詞を自分の力で書きたいというのは本音だったが、それ以上に銀色という視覚的にも健康的にも悪そうな液体を飲みたくなかったからである!!しかも、副作用もえげつない感じだし……。



 瓶の中の銀色の液体がミラの手でゆらゆら揺れるたびに、胃袋の奥がキュッと縮むような感覚がする。




 「ふむ。そう言うと思っておった。だがな、ライ様。これは『超科学アイテムの力を借りて作詞する』のではなく、『未来の自分のひらめき』を前倒しするアイテムなのじゃ」



 ミラが、きゅっと真剣な目で私を見る。



 「それって、どういう意味なの?」



 「例えば、作詞に限らず小説とか書いてる場合でも、その時には良いアイディアが思いつかず、翌日になってパッと良い設定や台詞が思い浮かぶ事があると思うのだ」




 「まあ、私は小説を書かないけど、『後になって、こうすれば良かった~』と思う事は、確かにあるわよね」 



 何となくだけど『フライングゲット☆明日のひらめ記を先取リンク君』の特徴を理解し、頷きながらミラに答える。



 「そうなのじゃ!この超科学アイテムは〝未来の自分が思いつくアイディアが、今この瞬間に頭に浮かんでくる〟という効果なのだ。つまり、それは自分自身の才能!未来の自分が思いついた歌詞ならば、それはもうライ様の力で作詞したとも言えるのじゃ!」




 「え、ええ~?で、でも~」




 そう言いながらも私は、ミラから『フライングゲット☆明日のひらめ記を先取リンク君』の瓶を受け取った。




 瓶の中身は、水銀のようにネットリとした光を反射して、かすかにブクブク泡立っている。



 ラベルをよーく見ると『魂に染みる苦味。副作用に備えて枕元には洗面器をご用意ください♪』と書いてある。



 いや、染みてほしくはないし、洗面器を用意して寝るなんて嫌なんだけどー!?




 そういえば、ベガ星の超科学アイテムなのに、どうして日本語で注意書きが表記されているんだろう?




 まあ、今更細かい事を気にしても仕方ないか。



 本当は、見ただけで不味いのが一目で分かる物なんて飲みたくない!だけど、本番まで時間も無いし、歌詞も全然思い浮かばない。一か八か、この超科学アイテムと未来の自分に賭けるしかないか?




 「未来の私、信じてるからな……!今、歌詞のアイディアちょうだーーいッ!!」



 私は、意を決して『フライングゲット☆明日のひらめ記を先取リンク君』のフタを開け、一気に飲んだ!



 〝ゴクッ。ゴクッ。ゴクッ〟。




「にっがぁぁぁぁああああーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」




 あまりの苦さに、目ん玉が飛び出そうになった!




 飲んだことないけど、プラカラーって、こんな味なのかしら!?




 口から胃袋が飛び出しそうな気がして、リビングの光景が逆回転した。



 私は、口を押さえながら叫ぶ。



 「これ、魂じゃなくて内臓に染みてるわよぉぉぉお!!」




 〝ドンドンドン!!〟




 隣の部屋から、苦情の壁ドン音が鳴り響く。




 私は、その抗議に謝る気力もなく、そのまま床に倒れ込む。だが、その直後――。



 頭の中に、ビビビッと電流が走った。



 ――きた、これッ!!



 未来の私のアイディアが、確かに脳内に降臨してきた。



 (ギターが叫ぶぜ! 真夜中の空に~♪仲間の絆が 稲妻になる!~♪)




 来たぞ!来たぞー!歌詞の核になるフレーズが、脳内にド派手な爆発音とともに降ってきた!!




 「や、やるじゃん私ッ!未来の私よマジ感謝ッ!!」



 さっきまでの苦味も、ウソのように消えてしまったので、私は意気揚々と立ち上がった。



 「ふふふ、さすが『先取リンク君』なのじゃ♡」



 ミラは、腕を組んで満足そうに笑いながら言った。



 私は、ペンを握ってノートに歌詞を書き殴った。言葉が、溢れるように飛び出してくる。



 「この調子で……『スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズのテーマ』、完成させてやるわよぉぉぉーーーッ!!」




 ……1時間後。




 私の人生初の作詞曲。名付けて『スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズのテーマ』が完成した!




 「やったあああああああーーーーーッ!!!ついに、できたぁぁあ!!」




 私は、作詞ノートを高く掲げクルクル回りながら飛び跳ねて叫んだ。




 「これが……〝スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズのテーマ〟!ウチらの――魂の1曲よ」




 早速、スマホを取り出すと完成したばかりの歌詞をLINEに書き込んで、皇と菜々子に送信した。



 「なあ、ライ様。どんな歌詞なのかミラにも見せて欲しいのだ」



 ミラが興味深々にスマホの画面を覗こうとする。



 「仕方ないなぁ~♪それじゃ見せてあげるわよ」



 ドヤ顔しながら、スマホの画面をミラに向けた。



 「へぇー。どれどれ……」



 これが、本邦初公開!来夢ちゃん渾身の作詞曲の全貌よ~!




曲名:『スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズのテーマ』



作詞:味蕾来夢(苦労したんだから!)



作曲:七海菜々子&お兄ちゃん(任せたわよ!)



歌&演奏:スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズ(皇、菜々子!気合入れていくわよ!!)


【1番】


ギターが叫ぶぜ! 真夜中の空に

仲間の絆が 稲妻になる!



誰かが泣いてる この街の隅で

昭和ヒーローの正義が 輝くその時



変身!シャウトだ! 心のスイッチ入れて

涙の理由(わけ)を ぶち壊せ!



信じてる 君の声があるから

1人の力が 皆の力に!



※走れ!スーパーヒーロー

舞えよ!スーパーヒロイン

皆で奏でる 無敵のジャスティスサウンド!



怖くはないよ!  君は1人じゃない!

名前も知らぬ君をウチらが救うんだ



友情(とも)の力が 今、世界を変える

スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズ!!

君たちの友達さ!!※


【2番】


ベースが唸るわ 夕暮れの校舎に

孤独の影を 撃ち抜いていけ!


ウチら忘れちゃいないよ あの日昭和ヒーローがくれた言葉を!

(台詞)「君は君のままで強くなれるさ!」



砕け! 卑劣な邪悪など

ホントの愛で 吹き飛ばせ!



信じ合う その勇気があれば

未来の扉は 必ず開くから!



飛べよ!スーパーヒーロー

可憐に!スーパーヒロイン

響け!信じる音に 未来が宿る!



負けないよ! 諦めない!

くすんだ明日を変えてやる



この歌こそが 夢と勇気の証

スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズ!!

君たちの仲間さ!!



(台詞)「ヒーロー!」「ヒロイン!」「変身完了ッ!!」



行けよ!スーパーヒーロー

咲けよ!スーパーヒロイン

世界で一番 煌めくステージへ!



届けたい! 君のために

不器用だけど叫ぶんだ!


仲間を信じて 夢を繋げよう

スーパーヒーロー&ヒロインラヴァーズ!!

君たちの相棒さ!!


※~※繰り返し


(台詞)「Hey!ボーイズ&ガールズ!君らも今日からスーパーヒーロー&ヒロインなんだぜー!」




 ……真剣にスマホの画面を見つめていたかと思えば、ミラは〝にぱっ〟と笑って言った。




 「ライ様!これは、最高の歌詞なのじゃ!!」



 〝ピロリロ~♪ピロリロ~♪〟




 LINE電話の着信音が鳴った。




 まず連絡してきたのは、菜々子だった。




 「もしもし菜々子?」




 『歌詞読んだよ来夢ちゃん、これ本気で書いたんだね。凄く頑張ったじゃない」




 「うん、未来の私の言葉で書いた」




 『え?今何て言ったの?』




 「いやいや、なんでもない!!」



 菜々子は、にっこり笑って言った。



 電話越しなので、実際に顔を見たわけではないが、声のトーンだけで菜々子の表情が見えた気がした。



 『いいじゃん。めっちゃグッときた!この歌詞にナナがメロディつけるよ。お兄ちゃんと協力して!なる早で完成させるから、少し待ってて。また連絡するから』




 「頼んだわよ!菜々子。それじゃあね」




 〝ピロリロ~♪ピロリロ~♪〟



 菜々子との電話を切った直後、着信音が鳴った。



 今度は皇だった。



 「もしも……」




 『うぉぉぉおおお!来夢!歌詞を読んだ!ハートにビリビリ来たぜ!アタシは信じてたぜぇぇ!」




 電話に出た途端、皇が絶叫しながら歌詞の事を褒めてくれた。スマホの向こうでは、泣きながら話してるような気がする……多分。



 「ち、ちょっと皇?泣いてんの?」



 『泣いてねぇ!!これは汗だ!!魂の汗だッ!!』



 「絶対泣いてるでしょ、それ?」



 『うるせぇ!でもな、来夢。この歌詞を読んだ瞬間、アタシの心ん中のエンジンがボンッ!って点火したんだ!もうダイヤモンドブレイカーズに勝つ未来しか見えねぇ!!』




 「……あんたらしいわね」




 『おうよ!お前が命削って書いた歌詞だ。アタシは全力でドラム叩くからな!じゃ、バーニング・ビーストで会おうぜ!』




 通話が切れた瞬間、部屋の空気がふっと軽くなる。




 「ふふっ。ほんと、熱血バカなんだから」



 スマホを置いた私に、ソファに腰かけていたミラがニヤニヤと視線を向けてきた。



「良かったのぅ、ライ様。仲間たちから熱い支持を受けて」



「うん。ちょっと、泣きそう」



「泣いてもええんじゃぞ?ミラの胸を貸してやるのだ♡」



 「いや、それはパス!」



 私は思わず笑って返す。だけど、胸の奥がじんわりと温かくなる。本当に、あの二人が仲間ともだちで良かった。




 「でも、これからが本番なのだぞ。歌詞は完成したが、まだ曲も演奏もこれからじゃ。ライ様の戦いは、まさに始まったばかりなのだ!」




 「わかってる。私たちならできる……きっとね」



 自分でそう口にすると、不思議と勇気が湧いてくる。



 未来を先取りしたおかげなのか、それとも仲間たちの言葉のおかげなのか。……ともかく私の書いた歌詞と、これから作られる音楽を武器に、仲間たちとミュージックフェスという目標に突き進んでいく。



 まさに、この曲は、ウチらのバンドだけの〝変身アイテム〟だった。



 ――そう思った直後だった。



 「あ、あれ……?」



 頭がモーレツに痛んできた。



 「どうしたのだライ様?」



 「い、いや……ちょっと……頭が……」



 ズキズキと頭痛が広がり、視界がグラグラ揺れ出す。更に、胃の奥から何かヤバいものが逆流してくる感覚が――。



 「あ、ああああ……!?こ、これが副作用なの……?」



 ラベルに書いてあった注意文が脳裏をフラッシュバックする。



 『※注 服用後の副作用として、二日酔いの十倍くらいの頭痛がするかもしれません』




 「じゅ、十倍って……ふ、普通に死ぬでしょ?こんな頭痛ーー!!!ウプっ!き、気持ち悪い!ゲロも出そう……」





 私は左手で頭を押さえて、右手で口元を押さえながら床を転げ回った。




 「ライ様!? だ、大丈夫か!? おおおお、吐くのか!? 洗面器は!?あっ、無いのか!?枕元に用意しておけと書いてあったのだあぁぁーーー!!!」




 「い、今さらぁぁぁあああああああ!!」




 最後にガクッと力が抜け、私は床に大の字でダウン。




 ミラが慌てて駆け寄り、私の肩を揺さぶる。




 「ライ様ーーー!気をしっかり持つのだ!せめて吐くなら洗面器かトイレにして欲しいのだ!ミラは、ライ様のゲロを掃除するのは嫌なのじゃあ!!」




 一見心配しているようで、自分の事しか考えてないミラの言葉にツッコミを入れる気力も無く、私は白目をむいてピクピク痙攣していた。




 こうして、人生初の作詞を成し遂げたその日は、超科学アイテムの副作用により――壮絶な頭痛と吐き気で寝込む羽目になったのであった。


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