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第3話 An addition おまけ 弟の場合

 よくある話。

 あるある的な。

 両親が忙しくしていたら、ちびっこはお世話してくれる相手に依存してる的に懐いてしまうって、あれ。

 だから、俺――羽鳥直はしま なお――は、自分がブラコンだってことくらい、知ってる。

 ちょっと度が外れてんじゃねって感じで、兄貴に懐いてますともさ。

 誰かにいちいち指摘をされなくても、わかってる。

 だからわざわざそれをネタにするな。


 特に母親!


 でっかい声でキャッキャと話してる母親の声。

 電話の相手はきっと親戚。


「あ~、慶? うん、大丈夫、ギブスしたままだけど、学校あるって~うん、うん、そうなのよ~。なんかね、慶が同棲するって言いだして、直があばれちゃってぇ……うん、そう。もう、いつまでもお兄ちゃん大好きで大変よーぅ、今回はスマホと慶の左手~。そうそう、あったあった!慶が大学行くのに家でる時は、ドア~」


 くっそムカつく。

 やめろよばばあ。

 これでまた、何年もネタにされるんだ。

 だいたい、母親は知らない。

 兄貴の同棲相手が男だってことを。

 だからこそ俺が暴れたってことを知らないで、へらへら笑ってやがる。


「もう、いい加減兄離れしなさいって思うのよねえ」


 しょうがねえじゃん。

 兄貴好きだし。

 あんたよりよっぽど、兄貴の方が好きだし。



 あの人、性格悪いけど。



 兄貴に恋人がいなかったことなんてほとんどなかった。

 何故か途切れないし、重ならない。

 兄貴は多分、中学に入ったころから、ずっと、誰かしらから申し込まれて付き合ってた。

 でも、高三の終わりっていうか、高校卒業したころからはずっと、ひとりと付き合ってる。

 俺の同級生の、小椋美樹。

 美しい樹、って書いてるけど「よしき」と読む。

 俺より背の高い、どこからどう見ても男。

 なのに兄貴は恥ずかしげもなく、世界一そいつがかわいいんだと言う。

 今は遠距離恋愛中。


 なんかさ、悔しいじゃん。


 俺だって兄貴好きなのに。

 いや別に付き合いたいとかそういうのじゃなくて。

 だって兄貴だし。

 それでも、なんでわざわざ苦労すんのがわかってて、小椋なんだよって思うじゃん。

 だから邪魔した。

 時間のやりくりしてこっちに来て、実家にはめったに出さない顔を見せたのに、すぐさま小椋に会いに行くっていうから、悔しくて引き留めた。

 そしたら勢い余って兄貴が階段から転げ落ちて、腕の骨にひびが入った。

 ついでに、スマホも壊れた。


 あの後の兄貴の落ち込みようが酷くて。

 二日ほど親に引き留められて家にいて、そのあと大学があるって寮に帰ったけど、何かもう、この世の終わりって感じで落ち込んでて。

 不本意だけど、責任とって小椋に会いに行った。

 そしたら、小椋もひどい状態だった。


 なんかさ、すっごく悔しいじゃん。


 俺は、今は兄貴たちにとって悪者になってても、最終的には兄貴たちのためになる『いいこと』をしてると思ってたんだ。

 兄貴は大事だから、誰からも祝福されて幸せになる方がいいって、思ったんだ。

 なのに、あんなの。

 ああもう、いいよ、しょうがないって思うしかない……のか?

 でも、さあ、なんかこう……もう邪魔はしないまでも、応援はしたくないんだよ。


「ホントにねえ、慶のこと気にしてるより、自分が恋人作んなさいって感じよねえ」


 ちょっと反省してたら耳に飛び込んできた母親の声。

 その一言にムカってきた。


「うっせえなババア! そんなこと言って連れてきたら文句言うんだろうがよ!」

「言うに決まってるじゃない! 母親くらい乗り越えられなくて、どうすんのよ!」


 我慢できずに怒鳴ったら、電話切らないまま、ものすごい勢いで言い返された。

 その言葉に、目からうろこが落ちる。


 もしかするとこの母親は、兄貴の恋人のことに気がついてるのかもしれない。

 そう思ったけど。

 母親の言い分を採用するなら、家族の反対くらい乗り越えられないでどうすんのってことだ。

 なるほど。

 そういうこと、なので。





 応援はしない。

 俺は俺の思うようにする。

 兄貴、頑張れ。



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