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第8話 メーデー(慶)

 メーデーメーデーメーデー。

 夏の始まりの日と同じ音で、俺は助けを求めている。

 もうずっと。

 だって君がかわいすぎる。


 ファーストコンタクトは、俺が高校三年生の、あの初夏の日。

 制服の中で身体が泳ぐくらい小さくて細かった君が、俺を追いかけはじめてくれた。

 最初は『ただの先輩』だったのが、『この人すごい』になって『頼れる人』になって『目が離せない人』になって、『好きな人』になって『手に入れたい』になった。

 君の視線に込められた熱が変わっていくその過程を、俺は今でも覚えている。

 月めくりどころか、日めくりのように、あの頃の君は俺の目の前でどんどん変わっていった。

 最初はその君の熱に引きずられていたのかもしれない。

 恋心なんかじゃなくて、興味だけだったのかもしれない。

 それは否定しない。

 でも、今じゃどうだ。

 一緒に暮らし始めて、熱が変化するならそれもいいんじゃないかと思った。

 飽きるとか別れるとかそんなことはあり得ない。

 そうじゃなくって、絶対に俺はミキを離せないだろうことはわかっていたから、熱の変化は燃え盛る炎が炭火になってずっと熱を保つ方向で。

 予感は外れなかった。

 俺は自分の情けなさを目の当たりにすることになって、落ち込んだりもしたけど、君はそんな俺でもいいよと言ってくれる。

 弱いところも好きだと。

 ずっと一緒にいるために、一人で頑張ることじゃなくて、無理せずに寄り添っていく方向に努力しようって、俺を抱きしめてくれる。

 離れられないのは、俺の方。


「……けー先輩……朝、ですよ」


 こんこん、と部屋のドアがノックされる。

 耳が先に起きていたのだろう、その音を拾って目をあけたら、ミキが部屋の中を覗き込んでいた。

 そのしぐさが、小動物っぽくってかわいい。

 身長なんて俺より高いミキの外見に、小動物っぽいところがあるわけじゃないけど、でも、かわいい。


「んー、ありがと……」

「寝癖、ついてます」


 体を起こした後ぼやっと布団の上に座り込んでいたら、ミキが俺の隣にちょこんと座って寝癖を直そうと俺の髪を触る。

 最近、朝に弱い俺のために、寝起きのいいミキが朝飯を作ってくれるようになった。

 中身は大したことない。

 コーヒーとトースト、それに何か卵料理とヨーグルト、それくらいのモノだけど。

 それでも俺だけが家事をするんじゃなくて、ミキも少しずつ手を付けるようになった。

 できる方ができることをしていきましょうって、生活のルールが変わった。


「先輩、寝ぼけてる?」


 俺に触れながら、ミキが楽しそうに笑う。


「ん……起きてる」

「嘘」

「ホントだって」

「先輩かわいい」

「かわいいのは、ミキ」

「先輩ですよ」


 ホントに楽しそうにしているんだけどね。

 俺はちょっとだけ不満ですよ。

 昨夜も俺にさんざん可愛がられていたくせに、何でミキはこんなに朝早いんだろうなぁ……。

 しかも、かわいらしいし悔しいくらいに、爽やかなんですが。

 俺の頑張りが足りないですか。

 そうですか。

 隣のミキに体重をかけて、そのまま布団へと倒れこむ。

 うなじに顔を埋めたら、シャンプーの香りがした。


「ちょ、先輩……朝ごはん、できてます」

「いただきます」

「オレじゃなくて、朝ごはん!」

「ミキが食いたい……」

「こ、今夜、って、言ってたじゃないですか……」


 耳たぶをはむはむとしていたら、ミキが精いっぱいといったように小さく抵抗しながら呟いた。

 唇で挟んだ耳たぶは、きっと目で確かめたら赤くなってるだろう。

 だって唇でわかるくらいに熱くなってる。


「うん、じゃあ、今夜。約束」

「……うん」


 今夜はメーデー。

 嬉し恥ずかし、念願の同棲生活をはじめて一か月。

 ミキは一緒に暮らし始めてすぐのころに、俺の上にのっかってきたけど、そんな、そのままがっついて合体なんて、もったいなさすぎてできなかった。

 ミキの心も体も心配だったしね。

 実家を離れての新生活で、生活に慣れるので大変なミキに、無理をさせたくはなかったし。

 それでも欲しいのは間違いなく欲しかったので、約束をした。

 約束の夜までは、じっくりと準備にかける時間にしたのだ。

 恥じらう初々しいミキを、じっくり拓きながらたっぷり堪能したこの期間。

 だって、ミキだよ?

 こんな可愛いこを、ぱっくり一回で食っちゃうなんて、魅力的だけどもったいない。

 俺は、好物は最後にじっくりと味わうタイプなんだ。


 俺たちが通ってる大学は、全国にいくつか系列の中高を持っているマンモス校で、全体共通の行事に『皐月祭』がある。

 すごくベタだなって思うけど、五月一日にあちこちの系列校で小さな祭りが行われる。

 当然、寮祭もこの日に合わせられることが多い。

 俺達の出身高校もここの系列だから、大体の雰囲気はミキも知っている。

 だから、焦るミキをおしとどめる時に、約束した。


 その夜は元同級生や知人友人含むご近所さん、俺たちに関わりのある学校関係者がみんな忙しい。

 絶対に誰にも邪魔されないだろう夜に、ちゃんと最後までしようって。


 そりゃあもう、これ何の拷問ですかっていうくらい。

 俺の毎晩、何の精神修養ですかって誰かに聞きたくなるくらいに、我慢したさ。

 日々刻々と、ミキは変わっていく。

 可愛くてエロい清らかなこの小悪魔は、毎晩、俺の腕の中で身もだえして啼いて、濡れ濡れになって安心して眠りについた。

 俺の手で変えながら、その様子を見守るのは、幸せで苦痛だった。


 それも、今夜まで。


 あの、初夏の日。

 眩しい緑の下で俺は君に出会った。

 あれからずっと、日々変わる君を見てきた。

 夏が恋の季節なら、この日から始まるはず。

 新しく関係を築いていこう。


 約束のその時は、お互いに緊張してしまった。

 それでも、お互いの欲求はわかっているから、手が震えても胸が高鳴っても、することはわかっているわけで。

 日が暮れてから準備万端で布団に雪崩れ込んだらもう、そこからは猛スピードで駆け抜けた。

 生まれたままの姿でキスをして、ミキの反応がいいところを、念入りに刺激していく。

 掌で。

 指で。

 唇で。

 舌で。

 歯で。


「…せ、んぱ……ぁっ……」

「ここ? ミキは、ここが好き?」

「すき……そこ、好き……」


 一緒に暮らし始めてからも、ミキはどんどん変わっていった。

 今も、俺の下で、君は刻々と変わっていく。

 俺の大事な大事な、とっても大事な人。

 同棲する前にも、何度かお互いの手で熱を放つくらいはしていた。

 その時から敏感だったミキの体は、俺の愛撫でますます熱を上げるようになった。

 たくさん触って準備してきたひそやかな場所は、いつでも俺を受け入れられるくらいに柔らかくなっている。

 あとは、ミキのおねだりを待つばかり。


「すごいね、ミキ、とろとろだ」

「せんぱいが、した……ん……あ、ん、せんぱい……けーせんぱ…」

「ん? 何? どうしたの?」


 俺の下で仰向けになって、顔の横で枕を掴んでいるミキは、いやいやというように首を振る。

 胸の粒はぷっくりと膨らんで、俺の唾液でてらてらしてる。

 脚を広げて俺の腰に回して、早く早くと引き寄せる。

 右手でミキの中をかわいがりながら、左手はミキの熱を煽る。

 もうあちこちがいろんな液体で、でろでろどろどろで、ミキは半分以上訳が分からなくなってる。


「ミーキ?」

「けーせんぱいが、こんな…こんなに、した……ああっ」

「うん、そうだね……俺がしたね……」


 ぐちゅって、指を動かしたら音がした。

 ミキの腰がうねうねと動く。

 ああ、たまんない。


「……とって……」

「ん?」


 ぽろぽろと涙を流しながら、ミキが腕を伸ばして俺を引き寄せてキスをねだる。

 ちゅ、と音をたてて、鼻の頭にくちづけをしたら、ミキが笑った。


「何をとるの?」

「オレが、こんななったの、せんぱいのせい……」

「うん」

「だから、せきにん、とって……いっぱい、して……」


 こんなぐちゃぐちゃになってんのに。

 なのに、俺の恋人はなんてかわいいんだろう。


「うん。精一杯、励むな」

「せんぱい……だいすき…きて…きて、先輩……」


 メーデーメーデーメーデー。

 緊急信号を出して、助けを求めたいのは俺の方。

 も、だめ。

 限界。

 俺、頑張った。

 ここまで我慢した。

 ごめんな。

 いっぱい優しくして気持ちよくしてやりたかったけど、もう、このエロかわいいミキの破壊力は半端ない。


「俺も」


 大事な場所に猛りまくった俺で触れただけで、ミキは高い声で啼く。


「ふあっ……あっああ……あっ……」

「俺も、大好き。大好きだよ、美樹。愛してる」


 ミキの体の中に入って、身体を一つに重ねて。

 あんまり幸せで、涙が出た。


 いっぱいいっぱい愛し合おう。

 絶対に忘れない。

 今夜、花開くように変わった君を。


 これからもどんどん変わっていく君を。


 いつまでも、君の変化を見守らせて。

 愛してる。







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