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2章…第35話

「…素敵!まったくの別人…!」


『海の見える美容室』で、美亜さんという美容師さんに魔法をかけてもらった。



「ホント!とってもお似合いですよ」


ストレートの長い黒髪は、アッシュブラウンに染めて、くせ毛のようなゆるかなウェーブにしてもらった。



「ここまで短い髪の舞楽初めて見る〜!」


首がすっかり見えるくらい。

顎のあたりで揺れる毛先がくすぐったい。



「お仕事のときはサイドを耳にかけて、前髪も斜めに流すと大人っぽいですよ」


美亜さんがアレンジの仕方も教えてくれて、最後の仕上げにはいった。



「今日はワンピースが大人っぽいから、逆に髪はゆるふわでいいんじゃないかと思います」


丁寧にワックスをつけて、遠くまで来てくれたから…と、軽くメイクもしてくれた。


目のキワに入れてもらったアイラインが可愛くはねて、ブラウン系ゴールドのアイシャドウがシックなのに華やかな目元にしてくれる。



「そういえば美亜さんの彼氏さんも、すっっっごくカッコいい人なんだよぅ〜!」


美波が、軽快な音楽に乗って舞台を歩く男性の動画を見せてくれた。



「えぇ…っ!モデルさんですか?」


スーツがバッチリきまってて、裕也専務を少し若くした感じの、本当にカッコいい人だった。



「いや〜…!恥ずかしいです…!」


普通に勤めている人だと言いながら、手で顔をパタパタ仰ぐ美亜さんは、見てて微笑ましかった。





「こんな服着たことないからドキドキする…!」


ワンピースは、前に裕也専務にパジャマと間違われた黒っぽいグレーのテロンとしたワンピース。


選んだ美波が「攻めすぎた…」と後悔するワンピースを、どうにか着こなしたくて、美亜さんに披露してみた。



「確かにセクシーな感じですけど、合わせるカーディガンが白だし可愛らしいから…大丈夫です!」


靴を持ってくるのを忘れて白いスニーカーなのもいいと言う。


最後にくどくない甘さのコロンの霧をくぐり…完成した。



美亜さんにお礼を言って別れ、美波が探してくれた海鮮が美味しいお店でランチを食べることにする。


驚いたことに…お店に着くまでの間に、数人のサーファーに「一緒にランチしない?」って…声をかけられた。


美波は愛想よく接してるけど…私は知らない人に声をかけられるなんて初めてで、逆に不安になってしまう。



「この服、やっぱり不良っぽく見えるのかな…」


テロンとした生地で、わりと体の線を出すワンピース…



「不良って…女子高生か?!」


爆笑しながら、美波はワンピースのせいじゃないよ、と教えてくれた。



「舞楽がめちゃくちゃ可愛いからに決まってるじゃん!…自信持っていこ!」


…持つべきものは幼なじみだと、心底思う…!





『帰り、見せに来な』


美波が面白がって、変身した写真を撮って聖に送ったらしく、私にメッセージが送信されてきた。



『うん…でもー…変でもちゃんと褒めてよ?!』


何しろこっちは、胸下まであったロングヘアをバッサリ切ったのだ。

イメチェンしてどうか、できるだけたくさんの意見が聞きたい。


…似合わないなんて言われたら立ち直れない。

聖ならそのへんのこと、ちゃんとわかってくれると思うけど…。


ランチのあと、少し散策して有名なプリンを食べて…聖の職場へと向うことにした。


電車に揺られているうちに、日が傾いてきた。

隣に座る美波は、それを揺りかごにして眠っている。


オレンジ色に輝く夕陽を見ながら…

今日は1日、裕也専務はおうちで過ごしたのかな…と思う。


それとも用があって出かけたのか…

仕事関係は、今は特に急ぎの何かはなかったはず…


ゆっくり過ごしているといいな…と思いながら、この後裕也専務がいる家に帰るなんて…いまだに不思議だと思う。


イメチェンした私を見て…何か言ってくれるかな…


無言でスルーされたら落ち込んじゃう…そしたら無理にでも感想を聞こう。




「…嘘だろ」


聖の勤めるバーに到着した頃には、日もすっかり暮れていた。

まだ開店したばかりの店に入っていくと、迎えてくれた聖が私を見て固まる…


「…へ、変かな?」


あまりにもジロジロ真顔で見られて不安になって、つい覗き込むように聖の顔を見上げた。



「いやぁ…」


驚きの現象…

聖の顔が赤くなってゆく…

なんでなんで…?



美波はちょっと離れて、そんな私たちを見ていた。



聖が作ったオリジナルカクテルの試飲を2杯飲み終わって…少し体がふわふわしてくる。



「あー…彼氏が迎えに来るって」


美波が携帯を眺めながら唐突に言い出した。


朝早くから付き合ってもらったので、先に帰ってしまうことを咎める事はできない。



「わかったぁ…今日は本当にありがとうね」


お代はいらないよ…と言うと、すぐ後ろに来た聖が笑う。



「もともと試飲だから金を取る気ねぇわ」


私も美波も、試飲じゃなくてもここでお金を払ったことがない。


それは優しい兄貴、聖のおごりということ。



バイバイ…と手を振った聖の手が、私の肩に乗った。



「舞楽…」


「…んー…」


少し酔ったから帰る、と続けようとして…聖の意外な言葉に遮られる。


「俺…今日はもう上がるからさ、ちょっと、付き合ってくれない?」


「…なに?どうしたの…」


具合でも悪いの?と聞こうとして見上げると…見たことないほど真剣な顔をした聖に出会う。


「お前を…なんちゃら専務のとこに帰したくない」


え…っ?!


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