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第64話

手を引かれて、ベランダから部屋に入り、そのまま寝室に連れて行かれた。


座るでもなく、簡単に私をベッドに押し倒して、上から私に覆いかぶさる…


私の体を両手両足で挟んで、怒ったような顔でジッと見おろされ、本能的に「逃げられない…」と思った。



「…逃さないから」


「わ…わかってます」



1度は、すべて暴かれてもいいって思った。

その気持ちは、変わってない。

むしろそんな気持ちは…あの頃より強くなってるかもしれない。


なのに…

何やら様子がおかしいんですけど…





「…君ときたら、俺の隣で初日から平然と寝やがって」


「…へ?」


「抱きついてくるし、いい匂いするし、柔らかいし…!」


「そ、それは…」


抱きついたのは私の意志だけど、後の2つは…別に私が悪いわけじゃない…


「だいたい、半袖ハーフパンツで寝るってなんですか?…昨日はサラサラした生地だったから、足が丸見え!…俺がそれを見て、どう思うかわからないとでも?」


「わ…かりません」


ベッドで…逃げられない体勢にされて、怒られるってなに?


おーい…色っぽい雰囲気は…?



「だったら少しは自覚してください。…君の唇は、俺を煽りまくって困ります…!」


「…唇、ですか?」


「そうです。何もつけてなくても紅い!目を奪われるのにリップなんかつけたらもう…」


「それ…せ、性癖ってやつですか?」


裕也専務は私を見下ろす視線を初めてちょっとそらした。



「まぁ…そうです」


「そ、そんなの…嫌です!」


だって…唇って顔の中でも目立つパーツだし、人によっては真っ赤なリップを塗ってる人もいる。


そういう唇を見て、裕也専務はドキドキしちゃうの?



「はぁ?!…君に俺の性癖についてつべこべ言われたくありませんね!」


俺だって困ってるんだ…と続ける裕也専務の首を、下から手を伸ばして引き寄せてみた。


「紅い唇の女の人を見て、ハァハァしちゃうんですか?」


「は?なにを…っ勘違いして…」


私が首を引き寄せたから、バランスを崩して、裕也専務が私の上に乗り上げた。


私たちの体はぴったり密着して、隙間がない…


重い…けど、これが裕也専務なんだって思うと、愛しい…!


「唇は紅がいいんですか?それともピンク?健康的なオレンジ?…それとも…」


好きな色のリップ塗りまくる!

明日から…!



「…ちょっと、待て…って!」


私の顔を挟んで、両脇に肘をついた。


手で支えるより近くて、どアップの裕也専務の顔が迫る。


眉間に困惑を表すようなシワを刻み、切れ長二重が困ったように私を見つめるけど…


なんて麗しい表情…

いつもは意地悪に笑う余裕の表情が、今は困ってる感じでワクワクする!


そしてどアップに余裕で耐えられる美貌…スゴすぎる。



「俺が反応するのは、君の唇にだけだ」



喉仏が上下して、合わせていた視線が下りた。



「私の…?」




纏う空気が一瞬で変わる…



「今、キスしたら…止まらない」


「…っ!」


ちょっと待って…

私の今日の下着はどんなのだっけ…


思いを巡らせ、ハッとする。

スポーツタイプの、全然可愛くないやつだ…!



「…ダメ」


触れる寸前で、止まる唇。


「…はぁ?!」


「し、下着が、可愛くないので…」


「下着…」


「だからその…明日、明日改めて、ですね…」



「…あぁ…ぁぁ…あぁ」


裕也専務はゴロン…っと、私の横に脱力したように仰向けになった。



「好きだって白状して、唇が弱点だって教えたのに…寸止めもいいとこ…」


ヤバい…私ったら、とんでもないこと言っちゃったのかも。

ムードもへったくれもない…



「あ、あの…」


だからと言って「やっぱりどうぞ、進めてください」なんて今さら言えない…


どうせなら、ピカピカに磨いた私で挑みたいよ…



「…知ってます?」


腹ばいになって、仰向けになった裕也専務を見つめる私に視線を向け、ちょっと悔しそうに片方の眉を上げる裕也専務。



「結局、惚れた弱みで、俺が何でも許しちゃうって」


唇を歪め「…ふんっ!」と鼻で笑った。


惚れた弱み……!?

裕也専務が私を…?


嘘…ウソウソ!信じられない!

いや、確かにさっき言われた。


舞楽が好きって…あれ、私は?

私は、自分の気持ち、言ってなくない?



「…なんて顔してんだ…?目がウルウルしてる」


「そ、れは…」


言葉を紡いで、自分の気持ちを話そうとしたのに、裕也専務は突然私をひっくり返して背中から抱きしめてきた。


「これ以上そんな顔見ていられない」


「…っ!?」


首元に腕を差し込まれ、その腕は私を閉じ込めるように回って…上になった肩に手を置かれる。


もう片方の腕は私のウエストのあたりをふんわり抱いて、膝を曲げた私の足に沿うように、裕也専務の足も曲げたみたい。


…ちょうど、横向きに寝ながら、膝の上に座るような体勢。


密着って感じではない。

多分拳ひとつ分くらい、離れてる。


なのに…時折腰に当たる硬いものは…


いろいろ不慣れで…ムードもぶち壊して、ごめんなさい…の気持ちを込めて、首元から伸びる裕也専務の腕にキスをした。


ちょっとビクっ…とされて、またまた不正解だったかと焦ったけど、ちょっとだけ腕の力が強まったから、大丈夫だったかな…と目を閉じる。


完全に眠ってしまってから…裕也専務との間にまったく隙間がなくなるほど密着されたとは、私はまったく気が付かなかった…


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