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閑話 アネモネは知っていた③

 私は全てのことを説明した。


「そんな、サツキはこの世界のために、自らの生涯を終わらせたの?」


 アーニャは泣きそうな顔で私に問いかけてきた。サツキさんのこととなると冷静ではいられないみたい。


「うん、それが望みだったから。そしてサツキさんの〘拒絶〙を後継する者として、アリスさんが転生してきたんだよ」

「おい、アネモネ! アリスの〘拒絶〙なら親父ジャミアを倒せるんだよな? そうじゃなきゃサツキが浮かばれない……」

「大丈夫だよ。サツキさんはジャミアに強制転移された時に、ジャミアの命に関わる制限をかけられていたけど、アリスさんは無制限だからジャミアを倒せる唯一の存在なんだよ」

「そうか……、サツキの死は無駄にならないんだな……」


 ローゼは泣いていた。あの聖戦をともに戦い、私たちの窮地を救ってくれた恩人が、世界を救うためにその命を捧げたと知ったからだ。他の女神たちも同じように涙を流しながら、改めてサツキさんの冥福を祈ったのだった。


 冥福を祈り終えて、落ち着いてくるとエルメスが今後のことを口にした。


「それで、あの人ジャミアの居場所を突き止めて倒しに行くの?」

「エルメスは最後に創成された女神だから知らないと思うけど、ジャミアの気配は世界に連動しているの。だから居場所の特定は無理なんだよ。向こうから現れてくれないことには、どうすることもできないの」


 ジャミアはこの世界を創成した唯一神だったので、ジャミアが思い浮かべた場所へその身を移すことができる。それを阻むことができたのがサツキさんの〘拒絶〙のスキルだった。


 〘拒絶〙のスキルは、ジャミアが神になり善意に満ちていた頃、自分が道を踏み外した時に己を裁くために用意したスキルらしい。残念ながらサツキさんの場合は、ジャミアに制限をかけられたために倒すには至らなかった。


「それなら、アリスにそのことを伝えようぜ! 〘拒絶〙を使えばどうにでもなるはずだ」


 ローゼはアリスさんにジャミアのことを伝えようと言った。確かに伝えればアリスさんなら必ず味方になってくれるはず。それだとサツキさんのように世界を背負わせることになる。


「ローゼ? サツキさんと同じように、世界の命運をアリスさん1人に背負わせるの?」

「倒すには頼るしかないんだろ? サツキは背負ったんだから、その後継者なんだから仕方ないことだろう?」


 後継者だから仕方ないと言うローゼに対して、アーニャはそんな命運を背負わせることを反対した。そんなことをすればサツキさんと同じように運命に弄ばれるからだ。


「それはダメだと思うわ。サツキはそれを望まないはずだもん……。アリスの意思でジャミアを倒したいと思わなければダメだよ。運命なんかに縛られずに好きに生きて欲しい……」

「私もアーニャと同じ意見だよ。自由気まま生きていれば、ジャミアにとってアリスさんの存在が障害になるはず。その時に力を合わせれば良いじゃない。それは何千年も先になるかも知れないけど、私達とアリスさんには時間はいくらでもあるでしょ?」


 アーニャに続いて私も自由に生きて欲しいと伝えると、最終的には他の女神も同意してくれた。


「じゃあ、ジャミアにしては特に動かずに静観するってことで、アイツのことだから直ぐに仕掛けてくるかも知らないけどね」

「「了解!」」


 ジャミアの復活により、私だけが知っていたサツキさんとアリスさんの秘密を、他の女神たちと共有することができ、少しだけ背負ってきた重荷から解放されて気がしたのだった。


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