「やっと授業が終わった」
魔法の実験が終わり、今日の授業は終了だ。
俺は教室を出て、リアと一緒に帰ろうとする。
クレハはレポートが終わらなかったようで、教室で補習だ。
そこそこボリュームがあったため、時間内に終わらなかったのだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、後ろから声をかけられる。
振り向くとそこには不機嫌なオーラを纏っているアデルが立っていた。
「ロラン、君に話がある」
「どうした? アデル」
「明日の昼、僕と対戦魔法をしてくれないか?」
アデルの言葉を聞いた周りの貴族達は、ざわざわと騒ぎ出す。
俺の周囲は相変わらず騒がしくなるが、俺は気にすることなく返事をした。
「別に俺は構わないが、いいのか?」
俺がそう聞くとアデルはニヤリと笑う。
「ははは! 僕は現段階で中級魔法を全部網羅しているんだ! 君なんか僕の相手にもならない」
アデルは余裕の笑みを浮かべてそう宣言する。
「そうか、なら明日、昼休みに戦うとしよう」
「手続きは僕が全部しておくから、君は首を洗って待っているんだな」
「ああ、楽しみにしておくよ」
俺はアデルの発言に乗ってやり、昼休みに対戦魔法を行うことを決定する。
「ロランお兄様、頑張ってください!」
「リ、リア、なぜ僕を応援してくれないんだ!」
アデルはリアに文句を言っているが、それを無視してリアはニコニコと笑っている。
周りの貴族達も明日の対戦魔法が気になるのか、俺達の会話に聞き耳を立てている様子だ。
珍しく半分寝ているセシルも目を覚ましている。
そんな視線を浴びながら、俺らは学園を出るのだった。
★
「いやー、厄介な事になっちまったなぁ」
俺は部屋で独り言を呟きながらベッドにダイブする。
正直いって対戦魔法なんてやりたくなかったが、あの場面で断るとアデルが調子に乗りそうだし、貴族達の俺への視線が痛いものとなる。
ただでさえ俺のイメージは最悪なのに、これ以上悪くなるのはごめんだった。
俺はベッドの上で寝転びながら考える。
「本気でやるか? いや、でもな……」
もし本気でした場合、リスクが高すぎる。
何故ならセシルに俺の魔法を見られるからだ。
一度俺はセシルと対戦した事がある。
俺は冒険者『仮面の男』としてセシルと勝負し、互角の戦いを繰り広げた。
少しでも上級魔法を使えばセシルに不審がられる可能性がある。
どうしようかと思いながら俺はベッドの上で寝転びる。
(よし、わざと負けよう)
俺はベッドから起き上がり、そう決断する。
「中級魔法で戦って、ある程度戦ったら倒れておこう。そうすればアデルも満足するだろうし、見応えのある戦いが出来たら俺のイメージも悪くはならないはずだ」
「ロラン師匠、1人で何をブツブツ言っているのですか?」
俺が1人で作戦を考えているとクレハが部屋に入ってくる。
どうやら俺の独り言を聞かれていたみたいだ。
俺は慌てて誤魔化すように言う。
「あ、いや何でもない。ちょっと明日のことでな」
俺がそう言うとクレハは、少し暗い表情になり、俺に言う。
「もしかしてわざと負けようとか、考えていませんよね?」
クレハはそう言うと、鋭い眼光で俺を睨みつけてくる。
俺は突然のクレハの変わりように困惑していると、クレハは溜め息をつきながら俺に近づき、指で俺の胸元を押す。
「堂々と戦ってください。ロラン師匠は強いのですから」
「だが、もし俺が本気で戦ったら……」
「正体がバレるのが不安なのはわかりますが、ロラン師匠はそんな人ではありません」
クレハはそう言うと俺の胸元から指を離して、俺の目を真っ直ぐ見つめてくる。
「ロラン師匠は、そんな簡単に負けてしまう人ではないです」
クレハの言葉に俺はハッとする。
(そうだな、何をビビってるんだ俺は……)
こんなチキンな俺だが、クレハの期待を裏切りたくないと思った。
「分かった、全力で戦ってくる」
俺はクレハに向かってそう言い、拳を握りしめる。
するとクレハは満面の笑みを浮かべて、俺の腕に抱きついてきた。
そして上目遣いをしながら微笑むのだった。