「くそ、どうしてだよ」
僕は第二王子、アデル・レット・ハーキムだ。
今僕はクラスの隅っこで一人、考え事をしている。
僕は昨日、ロランに魔法対戦で負けた。
多くの貴族が見ている中でだ。
昨日の敗北により、貴族からの評価がかなり下がってしまった。
「このままじゃ、まずいな……」
僕はそう呟く。
このままでは王位を継ぐどころか、他の貴族にすら見下されてしまう。
それは絶対に嫌だ。
だが……僕は昨日の事を思い出すと、恐怖で体が震えてくる。
ロランの《火槍》が脳裏に焼き付いて離れない。
あの《火槍》の当たり所が悪かったら、きっと僕は死んでいただろう。
「なんであいつが上級魔法を使えるんだ?」
上級魔法をロランが使えるなんて、原作には無かったはずだ。
「だが、僕はまだ負けた訳じゃない」
そう、まだ勝負が決まったわけじゃない。
実は先ほど教師がダンジョンの話を持ち出した。
この学園の近くにダンジョンが発見されたらしい。
そのダンジョンはかなり難易度が高いと噂されている場所であり、多くの魔物が生息しているとのこと。
「はははは! 僕はなんて運がいいんだ。 前世で僕はこのダンジョンを何回も攻略したことがあるからな!」
原作で何回も攻略している僕からしたら、ダンジョンなど朝飯前だ。
それに、このダンジョンはお目当ての物がある場所でもある。
ダンジョンに眠っているお宝には魔王と戦う為の素材がある。
(素材を入手できれば、僕の評価はうなぎのぼりだろう)
最強の装備を身に纏い、貴族からの評価をうなぎのぼりにさせる。
「なんて最高の計画だ!」
僕は思わずそう叫んでしまった。
そして僕はすぐに行動を開始する。
ダンジョンを攻略するにはメンバーを集めなきゃいけない。
ダンジョンは危険な為、最低でも数人は手練れが必要だ。
いくら実力者の僕でもやられかねないからな。
「何の用かしら、アデル」
僕が声を掛けたのは、第二王女、アリス・レット・ハーキム。
アリスは美しい金髪に、整った顔立ちをしている。
そして何より、その気高い態度が素晴らしい。
アリスの高貴さには誰も敵わないだろう。
「僕とダンジョン攻略をしないか?」
僕はアリスにそう提案する。
「私が、あなたと一緒にダンジョン攻略をしろと?」
アリスは呆れた表情で僕にそう言ってくる。
おそらく昨日の魔法対決で僕が負けたからだろう。
アリスからの評価が下がっているとまずいな。
僕はそう考え、すぐにアリスに返答する。
「僕は今回のダンジョンのマップを理解している。それに魔物の種類や行動もだ。どうだ、役立つだろう?」
僕はそうアリスに返す。
だがアリスは怪しんだ表情をしているので、僕は追い討ちを掛けるかのように、アリスに話を続ける。
「昨日の戦いを見てロランがどれだけ脅威なのかはわかっただろう?」
「確かに、ロランの実力は計り知れなかったわ。当たり前のように上級魔法を使えるし」
アリスはやっと僕に理解を示し始めた。
今がチャンスだ。
僕はそう考え、アリスに話を続ける。
「怪しまれるのも分かる。だけど、ここでロランの勢いを削いでおくのは悪くない考えだと思わないかい?」
僕はあえてこんな言い回しでアリスに問う。
そう、これは今後王位を争うアリスに取っては、ロランをどうにかしなければいけない。
ここで僕と共にダンジョン攻略をすれば、2人の評価も上がる。
ロランを蹴落とし、評価を上げるのはアリスにとっては悪くないはずだ。
するとアリスは少し考え込んだ後に、口を開く。
「いいわ。その誘い、乗ってあげる。その代わり、もしマップが違ったりしたら容赦はしないわよ?」
「分かってるさ」
アリスはそう言って僕と共にダンジョン攻略をすることを了承してくれた。
アリスは今のロラン以上に魔力数を持っており、この学園でトップクラスの実力者だろう。
アリスさえいればこの攻略も余裕だ。
僕はそう思いながら、ダンジョンを攻略する為の準備に取り掛かるのだった。