「ここまで効果があるとはな……」
俺は学園の廊下を歩きながら、そう呟く。
アデルとの対戦を観戦していた貴族達だが、俺の批判の声はかなり弱まった。
それどころか、かなり評価を上げてしまっている。
まだまだ問題は山積みだが、今後何かあった時、真っ先に俺が疑われることはなくなったと思う。
そんな事を考えながら、俺は教室の扉を開ける。
教室に入ると、クラスメイトが俺の元に集まってくるが、俺はそれを軽くあしらい、自分の席に向かう。
「ふぅ、疲れた……」
俺は席について、椅子に背を預ける。
やはり昨日のアデルとの対戦が影響しているのか、今日はいつもより疲れているようだ。
俺はそんな事を考えつつ、目を瞑り休憩をする。
すると俺の横に誰かが座る気配がした。
「隣、座っても良いか?」
聞き覚えのある声が俺の耳を刺激する。
俺は目を開き、声がした方向を向く。
そこには不敵な笑みを浮かべたセレスがいた。
「セ、セレス? 別に構わないが……」
「昨日の戦い、私から見てもとんでもないものだった。まさか上級魔法を使えたとはな」
セレスが俺に顔を近づけながらそう言ってくる。
俺とセレスの顔が僅か数センチぐらいだろうか?
そのぐらいの距離に俺は思わずドキッとしてしまった。
そしてアデルとの対決を一部始終見ていたのか、俺の使った技の事を知っているようだった。
「ふん、ロランが『仮面の男』だったとはな」
「流石にバレてたか」
俺はセレスに呆れながらそう答える。
「一度対戦しているんだ、忘れるはずがないだろう」
「そりゃそうだよな、周りには俺の正体は言わないでくれよ」
「ああ、勿論だ」
セレスは笑いながらそう言ってくる。
そんな雑談をしていると教室の扉からリアとクレハが慌てて入ってきた。
「おはようございます、ロラン師……あれ? セレスさん?」
「おはよう、二人とも」
そう言ってセレスは立ち上がり、二人に挨拶を交わす。
「おはようございます、セレスさん」
リアとクレハがそう言って俺の近くに座る。
「随分と人気なようだなロラン」
セレスは微笑みながらそう言い放つ。
「はは、大変だぞ」
俺はセレスに対して苦笑いをしながら、そう答えていると教師が入ってくる。
「皆さん、おはようございます」
教師がそう挨拶すると、教室にいた生徒が各々挨拶をする。
「今日の授業ですが、まずその前に皆さんに伝えたいことがあります。 実は最近、学園の近くにてダンジョンが発見されたようです。そこで数日分の授業を使い、ダンジョン攻略をやってみたいと思っています」
その言葉を聞いたクラスメイト達は興奮し始める。
ダンジョンは基本的には財宝などが手に入る場所だ。
魔物の素材や貴重なアイテム、マジックアイテムなどが手に入ったりもする。
ただ魔物の住処にもなっている為、危険は多い。
「Aクラスの皆さんは魔力数が平均より高いですので、座学よりも実際に魔法を使う方が身につくでしょう。その為、ダンジョンを攻略していきたいと思います。」
そう説明し終わると教師はダンジョンについて話し始める。
だが俺は原作の知識でダンジョンは知っていたので、特に何も思う事なく聞いていた。
原作だと、このダンジョンイベントはかなり重要だ。
(ダンジョンのお宝は魔王と戦う為の素材があるからな)
ダンジョンは魔物の住処になっているが、普通じゃ入手できないような素材、武具などが手に入る。
魔王と戦うには、このダンジョンで手に入る素材が必須だ。
だがしかし、このダンジョンにはある問題がある。
(このダンジョン、原作だと攻略がかなり難しいんだよな)
なんせダンジョンの奥底に行かないと見つからないから、どのルートが正解かは分からない。
それに加えて魔物も強く、出現する魔物も普通のダンジョンとはレベルが違うのだ。
「これで説明は終了になります。今回のダンジョンは立候補制ですので、攻略に参加しない人は学園で自習です。リーダー、チーム編成については決まり次第私に伝えてください」
そう教師が話し終わると皆が一斉に動き出す。
「ロラン、私と一緒に組まないか?」
そう声をかけてくるのはセレスだ。
正直、セレスがいればかなり心強い。
「俺は構わないが、リアをリーダーにしてもいいか?」
俺はそう提案する。
するとセレスは少し考えるような素振りをした後、口を開く。
「ああ、そういうことか。確かに、その方がいい」
流石はセレス、俺の意図をすぐに理解してくれたようだ。
今回のダンジョン攻略に成功したら、間違いなくリアの株が上がる。
俺はそう考えて、リアにダンジョン攻略のリーダーを任せる。
「それじゃあグループは俺を含めてリアとクレハ、そしてセレスの4人だな」
「ロラン師匠といれば安心ですね!」
そう喜んでいるのはクレハだ。
まあ今回のダンジョン攻略は正直、一筋縄ではいかないだろう。
だがクレハとセレスの存在がこの攻略をかなり有利に進めさせてくれる。
俺はそんなことを思いながら、教師にグループとリーダーを告げるのだった。