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第47話 エトラの実力

「ここが宿か……」


 俺は今、宿の目の前にいる。


 華陽から胡威へ向かうため、1日城内で休憩を取るらしい。


 俺らと一緒に来た冒険者は約100人、皆んなそこそこの実力を持っている。


 一般兵と違い、魔物との戦闘には慣れているため、アルバラン王国としては非常にありがたいだろう。


「そろそろ入りましょ、カーメンさん」


 すると俺の横でエトラがそう言ってくる。


 俺は小さく頷きながら宿の中に入っていくと、すぐ前に受付嬢がいた。


 俺は素早く宿の受付を済ませた後、部屋番号のついた鍵を一つ受け取る。


「ほお、結構いい部屋だな……」


 俺はエトラと共に部屋に入った後、そう呟く。


 部屋は2階にあり、かなり広い。


「冒険者は歓迎されているみたいですね」


 俺が部屋の鍵を閉めていると、エトラがそう呟く。


 まあ、こういう非常事態に、冒険者が戦闘の主軸となって戦ってくれれば大助かりだからな。


 するとエトラが不安そうな表情を浮かべながら口を開く。


「魔王軍……どれくらい強いんですかね」


「まあ城塞都市が次々と陥落しているし、かなり上位種の魔物がいるんだろうな」


 そんな俺の返答にエトラが頷く。


 戦う相手が分からないと、これほどまでに恐ろしい事はない。


 もし上位種の魔物達が無限に湧いてくると言うのなら、こっちに勝ち目なんて無い。


「そういえばエトラはどういう戦闘スタイルなんだ?」


 ふと、俺は戦闘スタイルを聞いていなかったことを思い出す。


 今後一緒に戦っていくかもしれないから、この際に聞いておいても良いだろう。


「えっと、私は魔法での戦闘が得意ですね」


 そう言って、エトラは手のひらの上に小さな火炎玉を出す。


「へえ、それは凄いな……」


 魔法は戦闘においてかなり重宝する。


 魔法が得意なエトラは、この戦場の生命線と言っても過言では無いだろう。


「カーメンさんはどのような戦闘スタイルなんですか?」


 そうエトラに尋ねられる。


 俺は少し考えた後、口を開く。


「俺も魔法が得意な方だな、エトラと似たようなもんだ」


 俺がそう言うと、エトラは驚いたような表情を浮かべる。


「え、魔法が使えるんですか?」


 するとエトラはそう言って、俺の手を掴みだす。


 そして俺の手のひらを自分の顔の前に持ってくると、口を開いた。


「私は元々、故郷にいる城主に内緒で魔法を教えてもらっていたんです」


「そうだったのか」


「カーメンさんはどこまで魔法が使えるんですか? 私は中級魔法までなら網羅しています」


 エトラはそう言って俺の目を見る。


 俺は少し悩んだ後、口を開く。


 とりあえず言うか言わないか迷ったが、この戦場を一緒に戦う仲間だ、言っておいて損はないだろう。


 「上級魔法までなら使えるぞ。だがら俺が上級魔法を発動する際は少し離れてくれ」


 「え!?」


 その表情を見ていると、俺は苦笑してしまう。


 上級魔法を発動出来る者は、だいぶ少ないからな。


「す、すごい! あ、あの、もしよろしければこの戦いが終わったら、私に魔法を教えてくれませんか!」


 そう言ってエトラは俺に近づいてくる。


 もう既にクレハという弟子がいるんだけどな。


 だが、まあエトラが魔法を覚えたいと言うのなら、教えてもいいだろう。


 するとエトラは、キラキラした目で俺を真っ直ぐ見つめてくる。


 その目は真剣そのもので、本当に魔法を覚えたくて仕方ないという表情だ。


 そして俺はそんなエトラを見て小さく頷く。


「じゃあこの戦いが無事終わったら教える」


 俺がそう言うと、エトラが表情を明るくして笑みを浮かべる。


「ありがとうございますカーメンさん! それじゃあ明日は朝が早そうなので、もう寝ましょう!」


 エトラはそう言い、足早に眠り始める。


「全く、面白い子だな」


 俺はそう呟き、寝支度を始める。


 俺は……ちゃんと胡威を守れるだろうか?


 特に相手の実力も分からないから不安だ。


(まあ考えても仕方ないか)


 俺はそんな事を思いながら、眠りにつくのであった。

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