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第48話 胡威が陥落、華陽が戦場となる

「ん? 何だ?」


 俺は外から鐘の音が聞こえてくることに気づく。


 もう朝なのだろうか?


 俺は上半身を起こし、窓の外を見てみると、大きな鐘の音が聞こえてきた。


 そう考えていると、エトラが目を覚ましたのか口を開く。


「この鐘の音、緊急の知らせか襲撃の合図だと……思います……」


「何!? 急いで外に行くぞ!」


 俺はそう叫び、急いで身支度を済ませる。


 そして俺達は宿の外に出ると、そこには冒険者や市民達がいた。


 俺はすぐさま冒険者達の方に駆け寄り、話しかける。


「何があったんだ!!」


「もう、お終いだよ……胡威が陥落したんだ……」


 冒険者は、絶望に満ちた表情で呟く。


 おそらく華陽と胡威はかなり近い位置にあるため、すぐに情報が華陽に回ってきたのだろう。


「か、陥落? そんなこと、あるのか!?」


 もし胡威が陥落したのなら、次はここ華陽が戦場となるだろう。


 恐怖、絶望。人々の顔からはその2つの感情しか感じ取れない。


「いつか魔王軍が攻めてくる。正直、胡威が陥落した今、この華陽は終わりだよ……」


 俺は冒険者の言葉に何も返せずにいる。


 元々胡威には魔王軍と対抗すべく、多くの兵達が送られていた。


 つまり、今華陰には兵がほとんど残っていない。


 この華陽は魔王軍にとって、ただの餌場に過ぎないのだ。


 俺はそんな絶望的な状況に思わず言葉を失ってしまう。


 するとエトラが俺の元に来て、俺の目を見て口を開いた。


「まだ諦めてはいけません。まだ私たちが戦えます。ハーキム王国からも援軍が来るはずです」


「援軍……そうか、アデル殿下の軍が来るのか!」


 冒険者の1人が、ハッとした表情でそう言う。


 確かにアデルの軍が来るのなら、まだ希望は見えてくるだろう。


 だが、その援軍が来る前に魔王軍の攻撃を耐え切れるだろうか。


 だがここで諦めてはダメだ。


 アデルの軍が来るまで、何としてでも持ちこたえよう。


「よし、まずは城主の元にいくぞ」


 俺がそう言うと、冒険者達が頷く。


 そうして俺らは城主の所に向かい、作戦を立てることにするのであった。



「今華陽にはどのくらい兵が残っていますか」


 俺はそう城主に聞く。


 すると城主は、少し考えた後、口を開いた。


「この華陽には約3000人の兵は残っている。だが精鋭兵は魔王軍に対抗すべく出陣してしまった」


「つまり将軍クラスがいないということですね」


 俺がそう尋ねると、城主は静かに頷く。


 出来れば兵は7000人は欲しい。


 もちろん三千も兵があれば十分な戦力ではあるが、魔王軍と戦うとなると話は別だ。


 数が多ければいいって問題でもないんだ。


 将軍のいない兵士は基本的に脆い。


 そして俺は、そんな考えを頭に残しながら、話を続ける。


「では指揮を取るのは、冒険者でも可能でしょうか?」


「軍略に長けているなら可能だ」


 俺の問いに、城主がそう返答する。


 それならこの華陽は戦えそうだな。


 「なら俺が1000人指揮を取りましょう」


 俺がそう言うと、城主が驚いた表情を見せる。


 だが、兵がいない今、俺が指揮を取らなければ華陽は確実に落ちる。


 すると城主が口を開く。


「そうじゃな、先程からお主と会話しておるが、知的な印象を受ける」


「ではあと2人ですね。1人は華陽の中にいる軍からお願いします。もう1人は、冒険者のエトラに任せます。エトラはハーキム王国の城塞都市にて少数ですが軍を指揮したことがあるらしいです」


 俺がそう言うと、エトラは驚いた表情を見せる。


 まあ、急に軍の指揮を取れなんて言われたら驚くのは普通だろう。


 するとエトラは、俺の目を見て口を開いた。


「わ、私は確かに軍略を学んではいますが……少ししか実戦経験がないので……」


 エトラはそう言い、顔を俯かせる。


 だが華陽にはもう、エトラ以外に軍略を使える人はいない。


 すると城主が口を開く。


「華陽には守備兵がほとんどでな、軍略に長けている者はもうおらん。僅かな希望に儂は賭けたい。じゃから、お主が学んだ軍略をここで使ってはくれんか」


 そう城主に言われてしまえば、さすがのエトラも断れないだろう。


 そしてエトラは俺の顔を見て小さく頷く。


「分かりました。私が指揮を執ります。」


 エトラはそう強く言った。


 そして城主は、そんなエトラを見て、小さく笑う。


「少しの辛抱じゃ、この戦争は必ず勝つ」


 そう言って、城主が立ち上がる。


 それにつられて、冒険者達も声を上げ、立ち上がる。


 俺はそんな冒険者達の瞳に、微かな希望の光が灯っているように見えるのだった。

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