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第13話 収穫! マンドラゴラ

 俺たちは持ってきたクーラーボックスに、詰められるだけ野菜を詰めていた。


「タク、すごい。何でそんなに野菜が入るの? もうぎゅうぎゅう詰めなのに、どんどん野菜が入っていく……」


「ふはははははは! これが俺のスキルの力じゃあ~!」


 ポイポイと俺は、ぼたんから渡された野菜をクーラーボックスに詰めていた。


 楽しい。明らかに入る量じゃない野菜が、クーラーボックスに収納されていくの、楽しい。


「タクもスキル持ってるんだ。何てスキル?」


「ん~? 日用品なんちゃらって奴。結構便利だぜ。戦闘はザコだけど」


「日用品か……。戦えないなら、ビギナーか、ユーザー系かな。便利だね。良いスキルだと思う」


「えっ、スキル褒められるの嬉しい。今までスキルで笑われたことしかない」


「可哀想……」


 よしよしとぼたんに撫でられる。ぼたん優しい……、癒される……。


 何か、ぼたんを拾ってから良いことばかり起こっている気がする。助けることで救われたのは俺だったのか。


「よし、収穫した野菜はこれで全部か? 多分クーラーボックス、また余裕あるけど」


「……どこに?」


「この隙間とか」


「どの隙間……?」


 スキルのアリなしで、見えているものが違うらしい。俺には明らかに入るスペースに見えるのだが、ぼたんには何の隙間も見えないようだ。


「他に畑なかったか? 一応ちょっと探していかね?」


「分かった。奥の方は見てないと思う。こっちだよ」


 ぼたんに手を引かれて、俺たち二人は森の奥へと向かう。


 さらに森が鬱蒼としたエリアに入ると、それはあった。


 畑と言うよりは、墓地。なのに土が畑のようにふかふかしていて、そこから野菜らしき葉が生えている。


「……何だ? アレ……」


「見つけたけど、思ったのとは違うね……」


 二人して困惑の面持ちで近づいていく。何で墓地の根元の土を耕してんだ? 


「……抜いてみっかね?」


 俺が緊張交じりの声で尋ねると、「いいよ」とぼたんは頷く。


 表情的には『私はやめといた方がいい気がしてるけど、やりたいなら手伝うよ』という感じだ。


 うーん。ぼたん、朝から思ってたけど義理堅すぎるな。ノーと言えない日本人じゃん。


「じゃあ」


「いや、一旦俺がやるわ。ぼたんは下がってて」


「危険なことなら私が先にやるよ」


「いいのいいの。こちとら一回りもオッサンなんだから、こんな時くらい、危険を承知で前出ないと格好付かないんだよ」


「……オッサンなんて、思ってないのに」


 少し不服そうに下がるぼたんだ。素直ないい子ねホント。


 ということで、未知の植物である。俺は植物の葉っぱの根っこを掴み、いざという時のために包丁を右手に握る。


 俺のビビリセンサーが、この植物はマズイ、と言う警報をビンビンに発している。だって墓地で育つんだぜ。何かファンタジックやん。


 だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず。


 モンスターと言うよりは特殊素材。ならばギリ何とかなる、という目算で、俺は深呼吸を一つ。


 それから、一息に抜き取った。


「―――――」


 抜き取った植物の根っこは、人型をしていた。口が大きく開いていて、まるで呼吸をするように、「すぅっ」と空気の流れる音が聞こえた。


【包丁致命】


 俺は考えるよりも先に、人型ねっこの首の部分に包丁を下ろす。


 首が取れる。人型の根っこの首下が、コロンと地面に転がった。そこから大きく空気が吐き出され、更に転がる。変な動き。


「わ」


 そして、一拍遅れてぼたんが目を丸くする。


「それ、マンドラゴラだよ。危なかったね。首を落とさなきゃ、多分タク死んでた」


「あ、やっぱり!? あっぶねー! 包丁準備しててよかった!」


 ビビリセンサーの言う通りにしておいてよかった、と思う次第である。俺は危機が去って、大きく息を吐いて胸をなでおろす。


「……っていうか、マンドラゴラって?」


「ダンジョン原産の魔法植物。準備なしに抜くと、絶叫を上げるの。聞いたら即死。私は耐性があるからしばらく動けなくなるくらいだけど、タクはダメだと思う」


「ぼたんが平気なのは、吸血鬼だからって?」


「そう。……まだ信じてくれてない。指の一つでも落として、再生して見せようか?」


「や~め~ろも~。中二病も大概にしなさい!」


「怒り方優しいね」


 俺、叱るの向いてないわ、と悲しくなりつつ、「ふーん」とマンドラゴラを見る。


「俺たちの使い道的には、何か思いつく?」


「どうだろう……。冒険者なら、一時的な強化薬とかにも使えるけど」


「味は?」


「知らない……。お薬としてのイメージが強いかな」


「んじゃ持ち帰って食べてみようか。マンドラゴラと鹿肉のステーキサラダだ」


「えっ」


 滋養に良いタイプの植物は、味が特徴的で薬味として使える場合が多い。ニンニクとかショウガとかが代表的だ。


 となれば、マンドラゴラもその範疇に入るかもしれない。


 ダンジョンに脅かされて生きている割には、ダンジョンの恩恵を預かっていないからな。リベンジじゃないが、たまにはダンジョン由来の得があってもいいだろう。


「よし、じゃあここに生えてるマンドラゴラ、全部抜いてこう」


「次は私も手伝う。タクの動き見て要領は掴んだ」


「……ミスしないでくれな? 俺もだけど、誰か一人でもミスったら俺が死ぬ」


「私が全部抜くよ。タクは下山してて」


「ぼたん一人残して下山できるか~!」


 ということで、二人ですぽザクすぽザク抜いて切って抜いて切ってした。


 よく見たらぼたんは素手だった。吸血鬼スキル、というのは盛っているにしても、多少の肉体強化スキルはあるらしい。便利~。


「じゃあ、帰るか」


「うん。お昼ごはん、楽しみ」


 クーラーボックスにマンドラゴラを収納して、俺たちは自転車にまたがり下山した。


 二人して自転車で下り道、スピードを出して笑いながら進むと、青春なんて知らない俺にも、何だか青春が戻ってきたような気がしていた。

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