マンドラゴラは、食べてみると苦みが強かった。
「つーか手足が微妙に痺れる」
「ッ? タク、タクっ。ごめんなさい、毒抜きする必要があるって話するの忘れてた」
食べたのが少量だったので、少し休んだら痺れは取れた。
その時間で毒抜きにゆでて置き、ゆで上がったものを食べると、苦みが薄れ、甘みが強く感じられた。
「ぼたん、毒抜きマンドラゴラ、一口食う?」
「じゃあ一口。んー……。コーヒー系の苦みが先に来て、ねっとりした甘さが後から……?」
「これステーキってかスイーツ系じゃね?」
「かも。でもステーキソースに砂糖とかみりんは良く入れるし、使えないこともないと思う」
「ソースに入れる感じで行くか。バター醤油をベースに……ちょっと待って、冷蔵庫のバターの消費期限いつ?」
「見てみるね。うわ、一昨年」
「あ~ダメだ、捨てよう。くっそ~、バター使えないのデカイ。ちょっとステーキサラダ案一旦やめよう。献立から見直そう」
一人で鹿肉パクパク食ってた時は、全然消費期限とか気にせず使っていたのだが、流石にぼたんに食べさせるもので、一昨年の消費期限はマズイ。
そうこう試行錯誤して、最終的に俺たちは、最適な献立案に辿り着いていた。
「カレーだろ」
「カレーだね」
マンドラゴラの味、変わり種のチョコ感あったので、すりおろして隠し味に使うので行ける気がしたのだ。
ということで、カレー作りである。ぼたんも手伝ってくれたので、俺は鹿肉解体道具探しのついでに拾ったルーで、カレーを作っていく。
そうして無事できたカレーをちゃぶ台に並べ、俺たちはともに、両手を合わせた。
「いただきます」
「頂きます」
二人して食べる。これは……
「……ぼた~ん」
「うん」
「こ~れよ~……」
「うん」
「だ~い成功じゃね~?」
「だね」
うまい。カレーが美味い! 程よく主張し過ぎない程度に、隠し味のマンドラゴラが効いている感じもする。これはいい! 過去一美味いカレーかもしれない!
俺たちは一心不乱にカレーを食べ、二人しておかわりを一杯ずつ食べた。
そうして、食休みタイム。俺たちは並んでゲームしながら、ぽつぽつと話し始める。
「そういやさ、俺ちょっと、自分のスキルの検証したいんだけど、付き合ってくれるか?」
「いいよ。どこでもついてく」
「ぼたんは聞きわけがいいな……。今朝、早朝に起こした奴以外文句言わないじゃん」
「アレは文句と言うより説明書。吸血鬼スキルは、朝は少し弱体が入るから」
「嘘だゾ絶対文句だったゾ」
「ゾの言い方が嫌」
シンプルな文句を言われたので改める。
「タクのスキル、日用品何とか、だよね。じゃあ近くの街に移動して、日用品漁る?」
「そうだな~。それで行こうか。でもその前に昼寝しようぜ」
「ふふっ、うん。ちょうど私もしたかった。ふぁああ……」
ということで二人して昼寝する。くか~っと。
何ともスローライフな行動だ。明日の保証もない代わりに、今の自由を謳歌している。
ということで俺たちは、昼寝し過ぎて夕方まで寝過ごし、夜に出かけるのも危ないという事で、その日はゲームで一日を潰した。
翌日。揃っておもっくそ寝坊した午後、自転車を飛ばして街へと移動していた。
「は~いきょだ~らけっ」
「タク、街の方はモンスターが多いから、静かにして」
「ごめんなさい」
ぼたんから注意されて、俺はお口にチャックする。
街の方は、見事に人気のない、廃墟だらけの土地になっていた。ビルが林立しているが放置され、草木がアスファルトや石畳から分け入って伸びている。
俺たちは息を潜めて、マップに従いビルに入る。日用品でも携帯できそうなものがあれば、ありがたく拝借していく予定だ。
そうして、俺たちは無事モンスターに出会うことなく、目的地の日用雑貨店に辿り着いていた。
「ほとんど手つかずで残ってるみたい。よかったね、タク」
「~~~! っ~~~~!」
「言いつけ守って騒がないの、偉いねタク」
ぼたんに撫でられる。十一歳も年下の女の子にあやされているのどうなんだろう。俺は無言の喜びの舞いを踊るのをやめる。
さて、俺はスマホを取り出し、久しぶりに『スキルステータス』画面を開いた。
『スキル名:日用品マスター
スキルレベル:2
スキル解説:日用品の扱いが上手くなります』
トップに出てくる説明表示は、相変わらずこのままだ。鹿で2レべになって以来、レベルも上がっていない。
基本的にこのスキルは、俺が『この日用品なら、これできそうだな』と思ったことが大体できるスキル……というイメージなのだが。
それだとどうしてもふわっとしているので、他に情報はないものか。
と。そこでスクロールすると、下の表記が結構変わっていた。
『研究:包丁 状態:解析過程 Lv.0スキル【包丁致命】
研究:バール 状態:解析過程 Lv.2スキル【合わせ】
研究:クーラーボックス 状態:解析終了 Lv.1スキル【大収納】
???:研究不足
???:研究不足
???:研究不足
……』
「……何か色々追加されてる……」
見る感じ、個別の日用品ごとで発揮されるスキル? についてが書かれているようだった。
試しにタップしてみると、各追加スキルの説明が開く。
【包丁致命】
包丁による致命攻撃。対象の弱点を狙う際に発動する。対象の防御力を無効化し、どんなに固い対象でも突き破ることが可能。
【合わせ】
バールによるスタン攻撃。対象に短辺の先端を突き刺すことで発動する。対象に突き刺さっている間、以下の状態異常を付与する。
※スタン
※詠唱不能
※体重軽減
※分析中です
※分析中です
※分析中です
……
「『合わせ』が思ったより強いな」
二撃必殺じゃん、と思う。バール刺したら相手がスタンするから、後は適当に引き寄せて包丁を刺すだけだ。わぁつっよーい!
だが、細かい発動スキルの一つ一つが、こうして説明されているのは助かる。
既存のスキルが分かるなら、新しい日用品探しに専念できるしな。
俺は追加説明を閉じつつ、他にもどんな戦法があるか考える。
「それ、タクのスキルステータス?」
そこで、追記部分がズラリと並んでいる画面を、ぼたんがひょこっと覗いてくる。すると「わ」と驚いた声を上げた。
「日用品スキルって、追加技能多いんだね。でもそっか。攻撃力が低い代わりに、日用品全部で色々なことができるスキルだもんね」
「みたいだな~」
「せっかくだし、私のスキルステータスも見て」
ぼたんがスマホ画面を見せてくる。
『スキル名:吸血鬼
スキルレベル:32
スキル解説:吸血鬼の能力が使えるようになります』
「ぼたん、自分でこんな画像を作って……。いや、でも分かる。こういうの作るの楽しいよな! オリキャラの設定集っていうか」
「何も悪いことしてないのに惨めな気持ちになるから、フォローするのやめて」
ぼたんの表情がすんっ、となる。いいぞ。この調子で茶化していれば、いつかは中二病も脱出できるはずだ。
「ちなみに追加技能はこんな感じだよ」
そう言って、ぼたんは画面をスクロールする。
『研究:不死性 状態:解析過程 Lv.1スキル【即死回避】
研究:不死性 状態:解析過程 Lv.5スキル【止血自在】
研究:不死性 状態:解析過程 Lv.10スキル【末端再生】
研究:不死性 状態:解析過程 Lv.15スキル【仮死蘇生】
研究:不死性 状態:解析過程 Lv.20スキル【四肢再生】
研究:不死性 状態:解析過程 Lv.25スキル【内臓再生】
研究:不死性 状態:解析過程 Lv.30スキル【脳再生】
研究:怪力 状態:解析過程 Lv.1スキル【怪力/初級】
研究:怪力 状態:解析過程 Lv.5スキル【怪力/下級】
……』
途中まで読んで、研究の種類が『怪力、特殊能力、エナジードレイン』と続くのを見て、俺は歯を食いしばった。
「……このレベルの中二病は、根深いぞぉ……!」
「欠片も信じてくれない」
甘かった。こんな程度の対応では、まだまだぼたんの中二病は治らないだろう。俺は根気よく付き合っていくことに決める。
ひとまず俺はスマホをしまって、適当な雑貨を触って感触を確かめ始めた。
さぁ探すぞぉ! 新たな、マイ・フェイバリット・日用品は一体何になる~!?