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第15話 研究:日用品マスター

 俺は新たな日用品を探して、雑貨を適当に手に取っては軽く遊んでいた。


 例えばろうそく。簡単に持って意識すると、火をつけてもいないのに、ぽっと燃え出した。


【着火】


 俺は、ふっと息を吹きかけて火を消しつつ、ろうそくを元の場所に戻す。


「思ったより日用品の範囲広いな」


「いつも持ってるバールも範疇なの?」


「ん? うん。野生動物に刺すと、自由に振り回せて便利だぞ」


「自由に振り回せる……?」


 ぼたんはキョトンとしている。こればかりは実際に見せねば分かるまい。


 俺は次の日用品を手に取る。これは、ノートか。


「……」


 反応なし。ただ、スキルの対象、と言う感覚はある。


 スキルレベルの問題か、あるいは使い方がはっきりしていないだけか。


 バールも魚釣りまでは、スキルの発現までは行かなかった。


「色々試さないと、できることもあんまり分かんないっぽいな」


「そうみたいだね。特に範囲が広いスキルみたいだし、日ごろから色々試しておくのがよさそう」


「な」


 相槌を打ちながら、俺は考える。


 思うのは、『スキルステータス』の追加技能表示。その内、状態の欄。


 見たところ、『解析終了』と表示されていたのはクーラーボックスだけだった。


 つまり、包丁にもバールにも、まだスキルが隠されている可能性がある、ということだ。


 俺はノートを見つつ首を捻る。


「思うんだけどさ、多分ある程度方針が見えてないと、スキルは発動しない気がするんだよな」


「というと?」


「これ」


 俺はバールを持ち上げる。


「バールはさ、釣りをしてる最中に、『あ、釣り針に似てる気がする』って思った時にスキルが発動したんだよ。釣り針みたいに敵に刺さる形で」


「タクの中にイメージがないと、スキルにはならないってこと?」


「っていう考えもあるかなってさ。ろうそくはほら、種火がなくても火がついたら便利だな、って誰でも思うじゃん。でもノートは、今はちょっと思いつかなかったからさ」


「自動筆記とか? ペン、あるよ」


「あ、それ便利だな。試してみよう」


 俺はぼたんからペンを受け取って、ノートに当てる。すると、俺の中にスキルが走った感覚が広がった。


【自動筆記】


 ペンが自動でノートにザラザラと文字を記していく。それがとまると、ぼたんが読み上げた。


「『腕が楽ぅ~!』……?」


「俺の考えてることがつまびらかに」


「タクの頭の中ってシンプルそうでいいね」


「バカにしてる?」


「してないよ」


「ぼたん、目を合わせろ」


 ぼたんが意地でも目を合わせてくれない。頭を掴んで力づくで向かせようとしても微動だにしない。くっ、こいつ……!


 俺は諦めてノートとペンを置く。


「ちなみに、自動筆記のスキルはペン側のスキルだな、これ。ノート側じゃなかった」


「あ、そっか……。となると、ノートで発現するスキルって、他にあるなら……ページが無限になるとか? クーラーボックスの容量が増えたみたいに」


「あー、そうだな。多分その方向性か? ……あ、でもアレだな。できる気はするけど、そもそもノートいっぱいに書かないと発動しないわそれ」


 ともかく、俺の仮説は正しそうだ、と判断する。


 つまり、『日用品マスター』は、俺が「この日用品ではこういうことができる」と思いついたことを、実現させられるスキルのようだ。


 発想力勝負かもなぁ、と言うのがワンポイント。


 合わせも思いつくまでは使えなかった。だから、思い付きがあれば、他にも色々できる気がする。


「ってことは、タクが思いついたこと全部できるってこと……? それ、下位スキルにしては強すぎるんじゃ……」


 俺が肩を竦めてノートを置くと、ぼたんが訝しむ目で俺を見ている。


「ん、どしたぼたん」


「……タク、もしかして、日用品スキルでもかなり上位のスキルじゃない?」


「え? いやザコスキルだと思うけど、何で?」


「日用品を持って『これはまだ使えない』とか『これはダメだ』みたいな言葉を聞いてない。下位スキルならそういうレベル不足が起こるけど、タクには起こってないから」


「またまた~」


「ホントなのに……。タクはいっつも信じない」


 むくれるぼたんに、俺はカラカラ笑って頭をなでる。


 それはそれとして、思ったより奥が深いぞ日用品スキル。となると……。


「これ……俺の方で当たりを付けて動いた方がよさそうだな」


「そうだね。スキルの幅が広すぎて、目の前の物にかかずらうのは悪手かも」


 となると、とぼたんが俺に向かう。


「タクは、スキルで何がしたいの? それに合わせてものを考えた方がいい気がする」


「俺のしたいこと、か……」


 少し考え、答える。


「防御手段が欲しいんだよな」


「防御?」


「うん。ほら、今のところ俺の武器って、バールに包丁と、弱いくせに攻撃偏重なんだよ。だから防御が固いと、こう……強いモンスターが出た時に逃げやすいかなって」


「強いモンスターが来ても、私がタクを守るよ」


「おう中二娘、身の程わきまえて一緒に逃げろ」


「……勝てるのに」


 ぷく、と頬を膨らませるも、少しぼたんに照れが見える。顔を見るに、『一緒に』というワードが嬉しかったようだ。チョロいなこいつ。


「でも、確かに防御手段は必要だね。私がいたら、どうしても狙われるし」


「狙われる?」


「うん。懸賞金掛かってるから。バウンティーハンターが常に私を追ってるの。タクを巻き込んだら嫌だから、防御手段は持っててほしい」


 また中二病を発症してんな、と俺は微妙な顔。


 ぼたんは言った。


「タクが使える防御手段、か……。盾は扱えないもんね」


「ああ。いや分かんないけど。武器に触れたことがない」


「ちょっと待ってね」


 ぼたんが服の裾から、深く内側に腕を突っ込む。チラ、とぼたんの素肌が見える。


 俺は紳士の気遣いで目を逸らした。照れたわけではない。


「い、いきなりぼたん、どうしたんだよ」


「……アレ? タク、照れてるの? 私の体勝手に洗ってたのに」


「いや、あの時は非常時だし、例外と言うか」


「ふーん……? タク、私みたいな子供には興味ないと思ってたけど、違うんだ」


「いや、そういうわけでは……ぼたんはガリガリなの除けば十分大人だと思うし」


「そう? 嬉しい」


 そこで、ごと……っ、と重いものを置いた音がした。俺は奇妙に思って振り返ると、ぼたんが身長ほどもある盾を持っている。


 俺は困惑して、尋ねた。


「……手品……?」


「アイテムボックスだよ。付与師がいて、お金を払うと作ってもらえるの。私はお金少ないから、奥の手の武器しか入れられないけど」


 言いながら、ぼたんが盾をこちらに渡してくる。俺は受け取ろうとして、重さに押し倒された。


「ぐわぁぁああああ!」


「んー、やっぱり厳しいか。一億円くらいする良い盾らしいんだけど、使いどころがなくって……。ごめんね、大丈夫?」


 ぼたんに盾ごと支えられる。俺は荒い息で言う。


「ぼ、ぼたん、俺よりも力あるな……。俺の飯には、滋養強壮の力が……」


「あ、うん。タクのご飯、力の戻りがいいよ。美味しいし好き」


「何よりの褒め言葉だよ……」


 ぼたんが盾をしまう。俺は腕を組み、結論付ける。


「日用品以外はダメだな。武器なんか持てんわ」


「そうだね。じゃあ日用品で盾っぽい機能が期待できそうなものを探そう」


「ああいや、それだけなら当たりは付いてるんだ。ちょうどほら、そこに……」




 俺がそれに手を伸ばそうとしたとき、俺は、激しい恐怖に襲われた。




 俺はを手にしながら、とっさにぼたんを庇うように動いた。それから、のスイッチを親指で押しこむ。


【開傘】


 俺はを開きながら、恐怖を感じた方向に向ける。すると襲い来たナニモノかが、開く傘に大きく弾き飛ばされた。


「ぐぎゃっ!」


「っ!? 何!?」


 ぼたんが俺の腕の中で目を剥く。俺はビニ傘越しに、敵の姿を確認した。


 それは、二人のならず者だった。一人は大剣を担ぎ、もう一人は背後に数匹の猛獣を連れている。


「おうおう、『怪物』狩りのつもりで来たら、何だそのヒョロガリはよぉ。『怪物』ぅ、お前はどこに行っても一人ぼっちの、寂しい奴だと思ってたぜ」


「かっ、て、テメェっ! 俺の可愛いテイムモンスターをぶっ飛ばしやがって、ふざけんじゃねぇぞ!」


 一人は挑発し、一人は俺が吹っ飛ばした獣を見て激怒している。


 うわ、ビニ傘の『開傘』で吹っ飛んだ動物、壁に激突して潰れてんじゃん。


 キモ。っていうかビニ傘つよ。


 そんな状況で、ぼたんが呟く。


「……運が悪い。こんなところで、バウンティハンターに見つかるなんて」


 忌々しそうにならず者二人を見つめるぼたん。


 それに俺は、こう言った。


「えっ、この期に及んで中二病を……?」


「こっちのセリフ。いい加減現実を見て」


 ぼたんがとても呆れた顔で俺を見ていた。いやでも流石に信じられんて……。

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