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第20話 火の揺らめきに過去を見て

 そうしていると、いい感じにテントが立てられそうな開けた場所に着く。俺はゆっくりと自転車を止め、降りた。


「この辺だろ。うっし、じゃあ早速テント立てるか。押し入れの底に眠ってた奴」


「うん。私キャンプ分からないから、従うね」


「そう? じゃあ俺が勝手に動くから、サポートよろしく」


「分かった」


 俺はカバンに収納していたテントを取り出す。収納スキルの圧縮率すげーな、とか思いながら、地面に杭を打って立てていく。


「テント完成」


「早い」


「俺もそう思う」


 スキルの恩恵で、滅茶苦茶早く出来てしまった。え、数分とかじゃなかった? 前立てた時は、一時間はかかったのに。


「テントって日用品なのか……」


「次は何すればいい?」


「よし。じゃあ次は、キャンプを管理するコテージがその辺にあるから、バーベキューコンロを借りてきてくれるか? 俺はその隙に薪を集めてくる」


「分かった」


 俺たちは二手に分かれて、それぞれの役目を果たす。


 コテージの倉庫辺りを探って、使われていない薪を発見する。避難して使う人もいないのだろう、とありがたく拝借だ。


 それから、着火材として枝を探す。拾い集めていると、少し時間が経って、森に暗がりが差してくる。


 その辺りで、不意にバサバサと音を立てて、鳥たちが一斉に飛び立った。


 虫の音も、不気味なほどに聞こえない。


「……」


 不穏。嫌な予感。家からまぁまぁ離れたここでも、変わらないか、と少し思う。


「けどまぁ、開けた場所だ。家の中よりは、いいだろ」


 戦うための道具は揃えて来ている。それでなくとも、開けた場所は逃げるのに容易い。


 と思いつつ、俺は目を凝らして異常を探る。


「……ダメだ。山しか見えん。ちょっと暗くなってきたな~」


 枝を拾い集めて、俺はテントの場所に戻る。戻った先で、ぼたんがコンロをいじっている。


「お、無事見つけられたみたいだな」


「うん。炭も見つけたよ。新聞紙も。でも火の付け方が分からなくて」


「貸してみ」


 俺は新聞紙をキャンプファイヤーみたいに組んで、炭を周りに置いていく。後は持ってきたライターでサッと火を付けると、火が安定して燃え上がった。


「わ……っ。すごい、タク。こう言うのはお手の物だね」


「日用品の範囲が思った倍くらい広いよな。武器は流石に使えないとしても、こう言うのは一発だ」


「スキルは、その人の資質から決まるっていうから。タクの日用品マスターは、元々の器用さから来てるんだと思うよ」


「昔っから変なことばっかり得意でなぁ~」


「変なこと、じゃないよ。一つ一つが大切なことで、立派なことだと思う」


 ぼたんが、俺に向かって微笑む。俺はぼたんの頭をなでて「一丁前にいうじゃんか、中二娘め」とからかった。


 コンロの炭が、火がついて白くなる。その横で、俺は薪を組んだ。


 ボーイスカウトのことを思い出す。普通のことは苦手な俺だったが、非日常的なことは大概得意だった。


 勝負事や、息を殺すこと、自然で生き抜くことも。


 薪に火がおこる。次第に夜のとばりが降りて、光源がコンロと焚き木だけになる。


「よぉっし! そろそろ良いだろ。ぼたん、持ってきた食材、じゃんじゃん焼いていこうぜ」


「やった。お腹空いてたんだ」


「そりゃ何よりだ。さぁ焼こう!」


 二人して鹿肉を、魚を、野菜にマンドラゴラを焼いていく。二人してうまいうまい言いながら食べまくる。


 偶に気配を探るが、まだ何も感じない。杞憂だったか、と疑うが、まだ油断は出来ない。


 一通り食べ終わり、俺たちは人心地つく。焚き木を囲んで座りながら、二人してココアをすする。


 すると、ぼたんがこんなことを言いだした。


「……何だか、いいね。私、こんなに幸せな時間を過ごせるだなんて、思ってなかった」


「何かフラグみたいなこと言ってるな。やめろよ」


「べっ、別に、いいでしょ……? 本当に、幸せなんだもん。美味しいものを食べて、タクと二人きりで、静かで、……すごく、幸せ」


 俺の茶化しを食らっても、ぼたんは幸福そうに微笑んでいる。俺は難しい顔で、それを眺める。


「そういえば、タク、昼間の話の続き」


「ん? ああ、キャンプって言いだした理由か」


「うん。二つあるって言ってた」


「んー、そうだなぁ。じゃあまぁ、どうでもいい方から」


「どうでもいいの?」


「ああ、どうでもいい話だよ」


 俺は半分ほど自嘲を混ぜながら、話す。


「俺の昔話だ。どうでもいい……けど、まぁまぁ長い付き合いになりそうだし、ぼたんには話しておこうかなって思ってな」


「……それは、私にとっては、どうでもよくない話だよ」


「そう言ってくれるなら、話し甲斐がある」


 俺はトングで火をいじりながら、闇夜の中で話し出す。


「何から話そうか……いや、話す前に、見てもらった方がいいな」


「見る……? 何を見るの?」


 俺はぼたんに向かって笑いかける。


「じゃんけん、しようぜ」


「え、いいけど……」


 ぼたんは困惑交じりに手を握る。それから、「じゃーんけーん、ぽいっ」と二人手を出した。


 出したのは、俺がグー。ぼたんがチョキ。俺の勝ちだ。


「負けちゃった」


「もう一回」


「え? うん」


 またもジャンケン。声で示し合わせて、手を出す。俺がパー。ぼたんがグー。俺の勝ち。


「また負けちゃった」


「もう一回」


「う、うん」


 俺の落ち着いた声色と、闇夜と、燃える焚き木。ぼたんは、不思議そうな顔をしてジャンケンをする。


 三回目も、俺の勝ちだった。四回目も、五回目も、六回目も、その先もずっと。


 俺の連勝が二十回を超えた辺りで、ぼたんの表情が強張り始めた。


「タク……?」


「……はは、言ったろ? じゃんけんで負けたことないってさ」


 何の自慢にもならない。これは、普通にもなれなかった俺の、性格の悪さを体現する特性というだけだ。


「まぁ、つまり、俺は昔っから、変なことばっかり得意って話なんだよ」


 俺はとつとつと、自らの半生を語り始める。

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