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第29話 野生の鷹VS俺ら

 鷹が、瞬時に空に飛び立った。


 ものすごい勢いで空高く舞い上がり、「ピーヒョロロロロロ……」と鳴き声を上げて消えていく。


「……アレ? 逃げた?」


「違うわッ!」


 エンジェの注意に、俺は振り返る。


「猛禽の敵は、空からの急襲を繰り返すの! 油断すると、一撃で―――」


「あ、マジだわ」


【開傘】


 俺が背中に走った恐怖感に反応して傘を広げると、直後衝撃が襲い来た。


 ギィイインッ! と激しい激突音を響かせながら、ビニ傘と鷹が激突する。


 うん。吹っ飛ばされるけど、防御は問題ないな。


 しかし俺がバールを振るおうとすると、再び鷹は飛んでいってしまう。


「えー、また逃げた。めんど」


「『ビニ傘から聞こえるわけない音が響いたんですけど』『鉄板に銃撃したみたいな音しなかった?』」


 俺は傘を閉じつつ、空を見る。んー、まだっぽいなこれ……。


「さっさと倒して逃げたいんだけどなぁ……。グリフォンキングに襲われたら堪ったもんじゃないぞ」


「タクぅ……」


「『色んな認識がバグってるよな』『バールニキに常識を叩き込みたい』『座古宮の苦労がしのばれる』」


 俺はいつグリフォンキングが現れないか、とソワソワする。S級モンスターなんか来たら、ひとたまりもないぞ。


 とか思っていたら、再び鷹の急襲が襲い来た。


【開傘】


 再びの防御。火花が散り、俺は衝撃にわずかばかり吹っ飛ばされる。


「そして反撃! ……は間に合わないと。何だこのクソゲー」


「『防げてるだけですげーんだけどな』『S級冒険者でも、この急降下防げないのに』『無傷だしちょっと余裕あるんだよなこいつ』」


 鷹はすでに飛び去った後。俺は口を曲げる。空を飛ぶってクソだなぁ。どうしよ。


 そう思っていた矢先、エンジェが言った。


「タク! ここは協力プレイで行かない!?」


「協力プレイ?」


「あたしが『挑発』したら、グリフォンキングはブチギレてすぐに攻撃してくるわ! そこを狙うの!」


「だから鷹だって」


「えぇ……、じゃあ鷹で良いから! それでどう?」


「分かった。……けどさ、あの」


「じゃあ行くわよ!」


 俺が眉をひそめて忠告しようとするのも聞かず、エンジェが大きく息を吸う。


 そして、空に向けて大声で言うのだ。


「王の癖に逃げてばっかりでザッコ~♡ そんな卑怯戦法取らないと勝てないの~? はっずかしい~!」


 エンジェの挑発に呼応するように、「ピーヒョロロロロロ!」と激しい鳴き声が響く。


「……これ、挑発が効いたのか?」


「効いてるはず! 言ったでしょ! かなり格上でも効くのよ基本!」


「あ、でも確かに襲ってくる気配するな。流石エンジェ」


「でしょ!? あとは、あたしがグリフォ……鷹の攻撃を盾で防御して、その隙にタクが攻撃すればいいのよ!」


「あ、それなんだけどさ」


「何っ?」


 エンジェは空に向けて注意を向けながら、じっと上に盾を構えている。


 それに俺は、首を傾げた。


「その盾、多分だけど鷹の攻撃に耐えられないんじゃね?」


「えっ?」


 次の瞬間、エンジェの盾が、粉々に砕けていた。


 鷹の急襲が、エンジェの盾を踏みつぶす。だが、それでエンジェを殺させはしない。


 俺は最初から読んでいたので、素早く駆け寄って、エンジェを掻っ攫う形で助け出していた。


「救出成功」


「ひゃ、ひゃぁ……」


「ピーヒョロロロロロ……!」


 鷹が、鋭い目でこちらを睨む。俺の腕の中でエンジェが「うっ」と硬直し、俺は軽く煽る。


「おうおう。鷹の癖に狩りが下手だな? ママから教わんなかったのか?」


 しかしそれ以上反応せず、やはり鷹は高らかに飛び立った。「うーん」と俺は腕組み唸る。


「厄介だなあいつ。俺も挑発したけど、狙いはエンジェのままっぽいし」


「た、盾、盾、一発で砕けた……。あれ、魔法かかってるすごい奴なのに……。鋼鉄より硬い盾なのに。五十万もしたのに、粉々に……」


「『座古宮の自慢の盾が!w』『盾自慢ウザかったのでスッキリ』『盾だけS級冒険者並みだったもんな』」


 何かショックを受けているが、見た感じずっと張りぼて臭がしていたので、さもありなんというところ。


 盾というのは、ぼたんが出したようなものを言うのだ。アレ俺だと支えられなくて倒れるからな。


「にしても、困ったな。エンジェが一撃防げれば、そこから俺が叩けるのはそうだけど、それができないし……」


 勝利まであと一ピース足りない。うーむ、と唸る。


 そこで、コメ欄が言った。


「『俺らの投げ銭でワンチャン説ない?』『あ、確かに』『狙われるのが座古宮固定ならできるな』」


「え、なになに、どうしたみんな」


 ざわつきだすコメ欄に、「あー! 確かに!」とエンジェが声を上げる。


「え、マジで何?」


「ダンジョン配信者の配信では、視聴者は投げ銭することで、撮影ドローンからサポートできるの。爆弾が威力高くて人気よ!」


「『通称投げ銭爆弾』『視聴者がダンジョン配信者に物理的に協力できるんやで』」


「へー! それすごいな。……ん? それがあったなら、エンジェ一人でも戦えたんじゃ……?」


「あたしに投げ銭するようなザコブタなんて、今まで一人もいなかったからね」


「あっ」


「『座古宮に向けて爆弾投げられるならいくらでもしたゾ』『配信者への攻撃になる投げ銭アタックは出来ないからな』『実装当時はアレで地獄ができたもんだ……』」


 何か色々あったらしいが、ともかくエンジェにはアンチしかいなかったから、できなかったらしい。


「じゃあ何で今回は自分から言い出したんだ……?」


「『座古宮には手は貸さんけど、バールニキの手助けにはなりたい』『言わせんなよ恥ずかしい///』『お前のことが好きだったんだよ!』」


「何で俺こんなに人気なの?」


「あたしが聞きたい」


 ともかく、方針は決まったようだ。


「分かった! じゃあ、みんなに鷹の足止めを頼む! 俺はエンジェを守るのに専念! それでいいな!?」


「『任セロリ』『まさか座古宮に投げ銭する日がこようとは』『バールニキのためで、座古宮のためじゃないんだからねっ』」


 コメ欄は肯定の流れだ。俺は傘を閉じ、空を眺める。


 俺にできることは、防御だけだ。だが、それも完璧じゃない。タイミングをもっとシビアに決めれば、『開傘』の衝撃効果も当てられるはずだ。


 長く、息を吐く。目ではなく、肌感覚で捉えろ。今までのように、ざっくばらんな防御ではない。もっと的確な、攻撃としての防御を―――



 鷹の急襲が、来る。


【開傘】



「きゃああっ!」


「よしっ! 過去一のタイミングだ!」


 今までよりも強い衝撃を伴って、ビニ傘は開いた。俺はエンジェを抱いて吹っ飛び、鷹も怯んで体幹がブレている。


「『ここやぁ!¥500』『くらえ!¥2000』『らっしゃあ!¥300』」


 そこに、ドローンからパカッと口から開き、小さな爆弾が五つほど放たれた。


 爆風が、鷹を包み込む。


「ピィイイイイイイイ!」


 鷹は悲鳴を上げるように、高らかに鳴き声を放つ。羽ばたきで煙が晴らされる。


「『はぁっ!?』『視聴者爆弾でも全然ダメージ入ってないやん!』『これグレネード並みの威力なのに』『グリフォンキングつっよ!?』」


 鷹はどうやら、ほとんど無傷の様だった。それにコメ欄が慌てふためいている。


 が、案ずることは何もない。すでにお前らは役目を果たしている。


 真の目的である鷹の一時的なスタンは、確実にもたらされていた。鷹は体勢を崩していて、とっさに逃げようとするも遅い。


 俺はすかさず駆け寄って、手元でくるりとバールを回す。


「よう、鷹公。ズル禁止で、ちゃんとやり合おうぜ」


【合わせ】


 バールの先端が鷹に刺さる。合わせが入り、バールを引くと、いとも簡単に鷹の体が引きずられる。


「ピィイイイイイイイ! ピィイイイイイイイ!」


「うるさいぞお前。立派なタテガミ持ってんだから、もっと堂々と死んどけよ」


【包丁致命】


 包丁で、鷹の首に包丁を突き刺した。切り払うと、血を噴いて鷹がこと切れる。

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