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第30話 現代の冒険者ギルド

 ピコン、と音がしてスマホを確認すれば、こう表示されていた。


『おめでとうございます! あなたのスキル

日用品マスター

が、Lv.2→Lv.3にレベルアップしました!』


「おー! 久々にレベルアップ!」


 いつぞやの鹿以来か、と俺は感慨深くなる。全然レベルアップしなかったもんな。


 ザコスキルの癖にレベルアップが難しすぎる。俺はぐぬぬと唸る。


 そう思うと、エンジェのレベルのすさまじさに驚かされる次第だ。何あのレベル数。インフレってレベルじゃない。


 と、そこで俺は我に返った。


 鷹狩りはすでに終えている。俺は急いで自転車に乗った。


「エンジェ! 早く乗れ! 鷹は処分したし、グリフォンキングに襲われる前に逃げるぞ!」


「このマスタースキルくんはも~……」


「え?」


「『流石に同情する』『wwwwww』『お前が狩ったのがそれです』『バールニキいいわぁ……』」


 キョトンとする俺にそうツッコミが来るが、いつもの通り冗談なので気にしない。


 俺は荷台を叩く。


「はよ乗れ。逃げるから」


「……グリフォンキングならね、何かさっき、他のS級冒険者が討伐したって」


「あ、そうなの? じゃあ一安心だな」


「『一安心だね()』『これが方便ですか』」


 コメ欄が何か言ってるが、俺は聞き流して腕まくりをする。


「じゃあこの鷹の血抜きしようぜ。今日は焼き鳥だ」


「『食うんか』『モンスター食自体する人はするし』『興味ある』『グリフォンキング美味いんかなぁ』」


 俺は自転車から降りて、スマホで手順を確認しながら処理を進める。でっけぇ鷹だなぁ、と思いながら俺は作業する。


 そうしていると、エンジェが言った。


「ねぇタク。食べるのは食べるでいいんだけどさ、せっかくだし納品しない?」


「納品?」


「うん。近くに避難区域あるし、そこなら冒険者ギルドの出張所もあるから。これだけの大物なら、喜んでもらえると思うわよ」











 処理を済ませてから、エンジェの言う通り鷹を自転車に括って移動すると、壁に囲まれた一帯が見えてきた。


「身分証を」


「はい。後ろの人はあたしの連れね」


「拝見しました、どうぞ」


 銃を構えた門番さんの横を通りつつ(リアル銃なんか初めて見た)、俺たちは門を通過する。


 すると、壁の中には、これがこの数年見なかった光景が広がっていた。


「? タク、どうしたのよ。そんな驚いちゃって」


「い、いや。こんなたくさんの人、久々に見たからさ」


 そこにあったのは、日本風の商店街を、中世ヨーロッパ風の装備で固めた人々が行きかう、奇妙な光景だった。


 活気。壁の外ではろくに見もしなかった人間が、当たり前に往来している。ガヤガヤと騒ぎながら移動し、時たまに装備を固めた人が門へと向かう。


「もしかして、避難区域、初めて?」


「……初めてです」


「うわ、すご。マジで一人で生きてきたんだタク。じゃあ、歩きながら軽く説明してあげる」


 得意になりながら、エンジェは先導して歩く。


「ここは、『朝陽通り商店街』。この辺りの避難区域で一番大きい、避難民の居住区よ」


 俺は周囲を見回しながら、「ほー……」と呟きつつ進む。


「避難って、隔離地域外への避難じゃないんだな」


「まぁ失敗続きだしね。個人レベルの脱出はたまに成功してるけど、基本はこうやって、壁のある場所に集まって暮らしてるの」


 歩き出すと、俺たちが載せている鷹に気付いて、周囲の人々がギョッとする。


「この辺りで人が住めるのは、基本的にここだけ。まぁまぁ大きな避難区域だから、インフラは一通り整ってるわ」


「へー……すげー。建物と人の格好がちぐはぐだ……」


「避難区域の中でも冒険者が多いのよ、ここ。戦う人間で普通の格好してるのなんか、タクくらいのものよ?」


 確かに言われてみれば、店の人は、現代人らしい服装をしている。


 とするなら、中世ヨーロッパ風ファッションの鎧の人たちは、全員冒険者なのか。


「あ、見つけた。ここがいわゆる冒険者ギルドよ! さ、納品納品!」


 両開きの扉をくぐって、俺たちは冒険者ギルドに入る。


 そして俺は、更に面食らった。


「うぉおお……。ゲームじゃんこんなの」


 西洋風の建物の造り。


 中にいるのは全員、中世ヨーロッパ風の装備を纏った冒険者だ。


「ん? 何だあのオッサン」

「入る建物間違えたんじゃね?」


「つーか横にいる女の子おっぱいデカ! ナンパしちゃおっかな」

「横にいるオッサンどかして、女の子連れ帰っちゃう? ハハハ!」


 周囲の声に肩身が狭い。エンジェは格好が派手だから馴染んでいる一方、普段着の俺ばかりが浮いている。


 何とも物騒な発言が聞こえたが、ここなりの冗談の可能性もある。俺は放置して、振り返った。


 俺は自転車を持ち込んでいいのか悩むが、どうにもならないのでそのまま進む。


 すると、周囲の目の色が変わった。


「は?」「え、ヤバ」「あ、アレって、え?」


 俺は針の筵だぁ~……と思いながら、エンジェに続いて奥まで進む。カウンターの受付嬢が、目を丸くして鷹に見入っている。


 エンジェが、元気に声を上げた。


「こんにちは~! すいません、納品したいんですけど~」


「はっ、はい! 納品ですね!?」


 エンジェの猫を被った声に、受付嬢が慌てて対応を始める。


 すぐに奥からスタッフさんがぞろぞろ出てきて、自転車から鷹を下ろす。


 そこで俺は、ハッとするのだ。


「え、エンジェ。こ、これ、俺やらかしたか? こんな大物、事前に電話の一報くらい入れておくべきだったんじゃ」


「モンスター関連と一般常識の知識差はなに?」


 何かエンジェが嫌そうな顔をしている。俺は首を傾げる。


 すると、エンジェは一つため息を吐いてから、肩を竦めた。


「っていうか、こんなの気にしなくていいわよ。一報入れても信じてもらえたか分からないし。っていうか、今でも疑われてるでしょ」


「うん?」


 俺はエンジェの視線の動きに従って目を動かすと、スタッフさんたちが口々に「ほ、本当なのか……?」「この数年ずっとこの一帯の王だったモンスターが……」と言っている。


「……え? 鷹でしょ? デカイ」


「タクが一番信じてないんだから世話ないわよねハハハ」


「エンジェが渇いた笑いを」


「タクの所為でしょうがぁ!」


 とかやり取りをしていたら、受付嬢が近づいてきて、脂汗を流しながらこう言った。


「そ、その。この場での査定が困難ですので、一日ほどお時間をいただいても構いませんでしょうか? その、状態が良すぎて、換金額が正確に測定できないと言いますか」


「あー……どうする? タク」


 エンジェが俺に答えを促してくる。


 俺は少し考えて、こう言った。


「肉一キロ分だけ持ち帰らせてもらっていいですか? 夕飯に食べたいんで」


「タク、違うわ。そこじゃない」


 エンジェは激しく首を横に振り、スタッフさんは総出で俺を見て絶句していた。






 ひとまず査定が明日までかかる旨と、肉一キロ分だけ切り取ってお持ち帰りの手筈で進めていると、不意に俺の耳が、こんな言葉を捉えた。


「マジかよ。本物のグリフォンキングだぜ……」


「どうするよ……あのヒョロガリ、どう見る……」


「今のところ情報は掴んでねぇ……挑発がてら……」


「いいな……腰抜けなら、横の女も……」


 俺はそれを横目で見る。厳つい男。二人組。


 思い出すのは、ぼたんと一緒に過ごしていた時、俺たちに襲い掛かってきた連中のこと。


 俺はその男二人を目視で観察し、ぽつりと呟いた。


「悪人って、ザコが多いよな。何でだろ」


「タク~? 隣のお店で、お肉調理してくれるって! 早く行きましょ~!」


「おっ! 助かる~!」


 エンジェに促され、俺は軽い足取りでギルドを離れる。


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