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第33話 レイダー拠点へ、殴り込み☆

 さて、俺たちはチャリで移動しながら配信を始めていた。


「こんザコ~! あたしはダンジョンにもぐる度胸のないザコのみんな(笑)に、夢と希望を与えるメスガキ系ダンジョン配信者、座古宮エンジェだよ~♡ そして~?」


「タクでーす。気軽にバールニキって呼んでください」


「『バールニキきちゃ!』『昨日の反響すごかったな』『著名人結構反応してたぞ!』」


「とうとうあたしに対する言及がなくなった」


 ドローンが読み上げるコメ欄を聞いて、エンジェが愕然としている。


「『挑発でタゲとりするだけの人が何か言ってる』『防御もできない人じゃん』」


「た、タク~! ザコブタたちがいじめるぅ~!」


「はいはい。あんまりイジメないでやってな。何だかんだこのチャンネルの主なんだから」


「『バールニキがそう言うなら……』『今日は役に立ってくださいね』『バールニキに甘えるなそこ代われ』」


 俺がフォローしてもこの様子とは恐れ入る。またヘイト稼いでないか? と俺は訝しんだ。


「……タク、見てこれ」


「ん?」


 小声でエンジェがスマホを見せてくる。そこには、こう表示されていた。




『スキル名:挑発

スキルレベル:378,482

スキル解説:挑発が上手くなります』




「……これ、レベル増えてね……?」


「昨日から大体2.5倍になったみたい。十五万から三十七万レベ。それでこの冷たさなんだと思う」


 レベル上がりすぎでは? 俺なんか最近やっとレベル3だぞおい。


 っていうか。


「エンジェ……成長すればするほど冷遇されるのか……」


 可哀そうすぎる。実際は頑張り屋で苦労人のいい子なのに。


「ま、あたし一人が嫌われてる分には使い道があるから。タクは好感度下げないようにね」


 小声でそう微笑んでから、再びエンジェはドローンに向かった。


「ま、ザコブタどもに何言われても気にしないけど~♡ あ、でも著名人云々って気になるから調べちゃお」


 ドローンにやいやい言われるのを無視しつつ、荷台でエンジェは検索する。


「わ! ホントだ! 有名ダンジョン配信者もかなり反応してるし、S級冒険者もSNSで呟いて……うわぁぁあああ!?」


「うわびっくりした! 何だ何だ」


「乗り物マスター! 乗り物マスター反応してる!」


「……?」


 俺はキョトンとして首を傾げる。何そのダサい名前の人。


「『ほんまやんけ!』『マスタースキルは惹かれ合う』『これはマスタースキルコラボ来るか?』」


「え、何? どゆこと?」


「これよこれ! 見れる!?」


 エンジェが差しだすスマホ画面には、SNSが開かれているようで、このように表示されていた。




―――――――――――――――――――――


Ride Master@ImDragon

Japanese Bro is moderately unique.

翻訳

日本のブラザーは中々ユニークだな


―――――――――――――――――――――




「……これが何?」


「いやだから! タクと同じマスタースキルが反応してるの! 世界で一番有名なマスタースキル保持者!」


「え……? 俺と同じってことは、ザコスキルの……? ごめん全然ノリが分からない」


「『自己認識ィ!』『すごさが欠片も伝わらないの笑う』『もうこのまま突っ走れ、バールニキ』」


「あー! このマスタースキルくんはホント!」


「?????」


 俺は首を傾げながら、粛々とチャリを漕ぐ。


 エンジェは言った。


「というわけで! 今日も『マスタースキルさん密着取材企画』! ……なんだけど、今朝がた色々あって、やることは決まってるわ」


「『?』『何かあったん?』『座古宮が苦労人の顔してる』」


「みんな、ウェアウルフって知ってる?」


 エンジェがザコブタたちに問いかけると、コメ欄が高速で流れていく。


「『ウェアウルフはガチのクソ』『避難区域平気で滅ぼすからな』『殺人洗脳臓器売買武器麻薬製造全部してる』『その隔離地域でも最悪の組織犯罪グループの一つ』」


「うわ、そんな危険な組織なのかよあいつら」


 ザコの割に、手広くやっているらしい。俺は嫌な顔になる。


「その通り! ウェアウルフは最悪最低のレイダー組織よ!」


 エンジェは威勢よく、連中についてを語る。


「こいつらは人を攫うし、商店街襲うし、警察返り討ちにするしでもう最悪! それが人狼印の略奪者、ウェアウルフよ! ……で」


 エンジェが顔を背ける。


「連中に難癖付けられて、殺しちゃったから、今日はウェアウルフを潰しに行きま~す……」


「『はぁ!?』『配信外で何してんだ』『やったのはバールニキ?』『殺しちゃった、で殺せる相手でもないだろ』」


 まともコメ欄が爆速で流れ出す。俺は苦笑して、ドローンに話しかける。


「いや、仕方なかったんだよ。あのままだとエンジェが連れ去られてたし。やるからには皆殺しにするしかないし」


「『ヒェ』『バールニキがバイオレンス』『ほほえみながら皆殺しって言うな』」


 ザコブタたちに総出でツッコまれ、俺も「ハハ……」と乾いた笑いで誤魔化す。


 おかしいな。つい最近まではコメ欄の価値観だったんだけど、俺なりに戦い慣れしてきたのかな。


「感覚がちょっと昔寄りになってる気はするよなぁ……」


 驕りに驕っていた小学生時代の感覚に。うわー小学生気分の27歳痛すぎる!


「で、ちょうどウェアウルフ討伐の依頼が出てたからそれを受注して、その情報を元に向かってるって感じね」


「え、そんな敵陣の情報、簡単に手に入るのか」


「『場所は昔からバレバレだしな』『ケンカ売れる人間がいなかっただけ』」


「ほー……?」


 よほどあくどい活動を繰り返してきたのだろう。あのザコさで潰されていない、ということは。


 ちょうどそこで目的地手前に到着し、俺は自転車を停止させた。


 狙いは、デパートの廃墟の様だった。高いビルに、店がたくさん入ってるタイプの奴だ。


 そこから、大体五十メートル程度離れた場所に、俺たちは自転車を停めていた。それから、物陰から様子を確認する。


「ここからレイダーたちの根城よ。あ、まだ近づき過ぎないで。見張りが居るって話だから」


「あの辺りだな。うん、確かにザコだ。注意が散漫過ぎる」


「……え、もう見つけたの? ど、どこ?」


「あそことあそこ。あの物陰に隠れてる奴はちょっと強い」


「全然分かんない……」


「『何が見えてる?』『マジで見つからんが』『画像スクショして拡大したら二人は見つかった!』」


 俺は少し様子を窺ってから、「ま、いいか」と普通に歩き出した。


「えっ!? あの、タク!? 見張りがいるって」


「いや、見つかっても問題ないよあの程度なら。そもそも、この距離で見つけても、味方呼ぶくらいしかできないだろ」


 俺は肩を竦めて、こう続けた。


「FPSみたいに、銃を使うわけじゃないんだから―――」


 と言った瞬間。


 パンッという銃声の直後、俺の足元の石が弾けた。


「えっ」


「持ってる! 持ってるから相手! 全然敵は銃使うから!」


 俺は慌てて顔を上げる。見れば、敵は荒くれ然とした格好に―――こちらにアサルトライフルを向けていることに気付く。


「うわぁあああ死ぬぅぅううううう!」


 俺はダッシュで物陰に戻る。銃撃の音に追われながら走る。


 そうして、俺は何とか無事で帰還に成功した。


 ゼーゼーと荒く息を吐く。


「死ぬかと思った! 死ぬかと思った!」


「バカ! おバカ! 油断しないの! ここは隔離地域なのよ!? 言ったでしょ警察も返り討ちにしたって! じゃあ銃も持ってるでしょ!」


「『バカスwwwwww』『叱られろwwww』『でも何だかんだ無傷で戻るあたりすげーよ』『ドジっても安心して見られる良いコンテンツ』」


「くっ……! ザコだと思って油断した……!」


「『ウェアウルフがザコは草』『何をどう見たらそうなる』『グリフォンキングを鷹呼ばわりするバールニキにしか許されない判断』」


 俺は息を整え、物陰から様子を確認する。


 金属音が鳴っている。俺たちの立つこの場所目がけて、散発的に銃撃が来ている。


 退路は塞がれてるってわけか……。抜かったなぁ……。


「ねぇタク」


「ん、どした」


 俺が目を向けると、エンジェは言う。


「昨日のグリフォ……もとい、鷹の攻撃防げたんなら、銃だって傘で防げるんじゃないの?」


「え? いやいや、傘で攻撃が防げるなんてそんな……」


 と言いつつ、俺は過去を振り返る。猛獣の攻撃や大剣攻撃は、言うて防いだもんな……。


 俺は疑わしい気持ちで、傘を広げて物陰からはみ出させる。


 キィンッ、という軽い音。傘の先の手応え。


 俺は傘を戻す。傷一つない。


 俺は言った。


「銃は……ザコだった……?」


「『ザコの概念こわれる』『もうお前以外全部ザコでいいよ』『バールニキ最強……ッてコト!?』」


 俺は再確認する。やはりだ。ザコスキル、というだけでも、スキルは相当に強いのだ。


 以前思いついた―――


『ダンジョン登場以前の旧世界 < ザコスキル < モンスター ≦ 普通スキル』


 という図式が正しいのだ!


「何かまたろくでもない勘違いしてそうな顔してる……」


「『座古宮の顔wwww』『オカンは大変ですわ』『バールニキを真人間にできるのはお前だけだぞ』『バールニキから逃げるな』」


 俺はエンジェに振り返る。


「多分行けると思う! 行ってくる!」


「あっ、こらぁ! だから油断はするなって言ったで」


「大丈夫」


 俺は笑みを返して、物陰から飛び出る。


「実力は分かった。もう、油断じゃない」


【開傘】


 傘を広げる。銃がビニ傘に当たるも、すべて弾かれる。


「ハハハハハッ! ゲームのライオットシールドよりも性能いいじゃんかよこれぇ!」


 銃撃を防ぐ上に、透明で視認性抜群。しかも衝撃がほとんど腕に伝わらないと来た。


 俺は笑いながら、傘を盾に特攻する。俺を銃撃していたレイダーたちが、その様子に声を上げる。


「はっ!? おい何だあいつ!」


「盾……ちがう! 傘だ!」


「傘!? 傘って何だよ! クソッ! 何発も当たってるはずなのに、止まらねぇッ!」


 俺は至近距離まで駆け寄り、そのまま襲い掛かった。


 傘を背後に回し、右手にバール、左手に包丁を握る。


「近づくだけで銃撃するような悪い子には、お仕置きだぜ」


【合わせ】【包丁致命】


 バールで引き寄せ包丁で捌く。一人死亡。


 次いで俺は、その死体を前にかざす。


 銃撃は続くが意味はない。背後は傘が、正面は死体が俺を守っている。


「あっ、クソ、弾切れ―――」


「隙ありだ」


 リロードに攻撃をやめたレイダーに、俺は死体をぶん投げた。レイダーは死体に押し倒され、あえなく転倒する。


 つまりは、まな板の鯉というものだ。


「二人目ぇッ!」


【合わせ】【包丁致命】


 分かりやすい位置を守っていた二人を、速攻で処理した。それから俺は、背後に迫っていた一人と相対する。


「お前、バズってた偽マスタースキルか? 命知らずだな。俺たちがどれほどデカいかもしれねぇで」


「あ? 何言ってんだお前」


 ライフルでぶん殴られるが、傘で防ぐ。動きがゴブリンよりマシだな、と思いながら、俺はやはりバールを振るった。


「そいつを食らったら負けって分かってるんでね!」


 バールを回避される。しかし俺は、ニヤリと笑った。


「俺のこと知ってんの? 視線誘導が楽で助かるわ」


【投擲】


「はっ? ガァアアッ!?」


 俺が放った包丁が、敵の喉に突き刺さる。俺は、奴の動きが止まったのを受けて、バールを振るった。


「でも、バールを警戒するのは正しいぜ。合わせが入ったら、勝負はもう決まっちまうからな」


【合わせ】


 皮鎧を貫き、バールは敵の胴体に突き刺さる。俺は敵を引き寄せて、畳んだ傘の先端を突きつけた。


「く、そ、ウチのボスが、黙って、な……!」


「何言ってんだよ。組織襲いに来てんだぞ? 最初から皆殺しのつもりに決まってんじゃんか」


【開傘】


 傘の開く衝撃が、最後の見張りを吹き飛ばす。


 遅れてやってきたエンジェたちが「やっぱ恐ろしいほど強いわね、タク……」「『ひぇえ』『死屍累々やんけ』」と青ざめていた。

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