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ACT9

 てな訳でね、かぼちゃの‥‥馬車と言うか、何と言うか、とにかく、馬車みたいな物で、一直線に大通りを、城に向かってた。

 辺りは薄暗くなってたのが幸いして、思ってた程の注目はされなかったけど、そんでも、指さして腰抜かす人がいたり、泣き出す子供がいたりして‥‥。

 しかし、リップを疑う訳じゃないけど、おとぎ話のあのかわいそうな女の子は、こんなんでどうやって幸せになったのかな?‥‥本物の馬車をぐしゃっと、踏み潰した辺りで、(私は悪くない、私は悪くない‥‥)ちょっと‥‥じゃない、大いに、疑問に思ってきたんだけどさ。

 でも、これで城の中には入れてくれるんじゃないかな。

 駄目だったら‥‥笑ってごまかそう。

 さすが、腐ってもかぼちゃ、馬車になってもかぼちゃなだけあって、椅子と言わず、床や天井と言わず、私とナルはもみくちゃにされたけど、ぼわん、ぼわんって、バウンドするもんだから、ちっとも痛くない(でも、吐きそうになってしまうのは、仕方ない)。そしてついに私達は、城に着いたけど‥‥。

「とおっ!」

 スタッって、私は両手を広げて偉大な一歩を踏みしめた時、ナルはどうした訳だか、出て来ない。

「‥‥‥‥」

 どおしたのっかなーって(‥‥実はその訳は知ってんだけど‥‥ごめんね、乗り心地悪くて‥‥)私はヒョコッと中を覗いた。

「‥‥‥うぅ‥‥た、助けて‥‥」

 ナルは椅子から落ちて、逆さまになってた。

「‥‥やだなぁ‥‥ナルったら、こんな時に、おちゃめしちゃって‥‥あはは‥‥」

「‥‥あのねぇ!」

 ピョコッとナルは、普通の姿勢に戻る。なぁんだ、一人で大丈夫だったんじゃない。

「そんな事より、見て、ほら!」

 見上げると、赤い煉瓦の塔がずっと上まで伸びてる。塔の先はとんがってて、暗い空に突き刺さってでもいるみたい。

 そっから、ずっと壁が伸びてる。たぶんこれでどっかの国が攻めてきた時、防ぐみたい。正面には深そうな堀、釣り橋が掛かってて、ばんぺいさんが二人立ってる。重そうな鎧着て、槍なんか持ってる。何か、暇そう。あくびなんかしてる。平和だね‥‥。

「‥‥キャロル、じゃ、行こう」

「え! ‥‥‥う、うん、‥‥」

 地面に足をつけた途端に、ナルは元気になって、私の手を引っ張り始めた。

「‥‥うー‥‥‥」

 ちょっとは心の準備をさせてほしいものだ。もしかしてこれって、馬車の仕返しかな?

 ナルにズルズルと引きずられながら、私達はばんぺいさん達の前に出た。

 ひ、ひえーって、私は心ん中で、慌ててたわよ。ナルって、度胸ある!

「‥‥こんばんわ、第二王子、ジェイレン様の紹介で参りました」

「‥‥‥ジェイレン王子の?」

 ばんぺいさん達は、何だか不思議そうな顔して、見合わせてる。

「‥‥何でしょう?」

「あ、いや、ただジェイレン様が人を招待するのは希な事ですから‥‥」

「‥‥それで、あれはどの様な物体なのですか?」

 もう一人が、恐る恐る、かぼちゃの馬車の由縁を私に聞いてきたけど‥‥。作った私にも、よー分からんのに、そんな事、聞かれてもねぇ‥‥。

「‥‥えー‥‥あれは、その、今、流行のかぼ車っすよ‥‥」

 まーた、私は、いい加減な事を‥‥。

「カボシャ‥‥ですか?」

 あ、結構、いい、ネーミングかもしんない。

「そそ、これが巷で、大ウケ! 今や若い女性には欠かす事の出来ない必須アイテムになってて‥‥えへへ」

 私は笑ってポリポリと頭をかいてたけど、ナルは、呆れてるのか、うつむいちゃってる。

「‥‥はあ‥‥それは‥‥存じませんでした‥‥」  

  しかし、こんなんで、普通納得するかな‥‥。この城の警備体勢は一体どうなってるんだ。

「‥‥分かりました。‥では‥‥‥失礼ですが、あなたはジェイレン王子と、どの様なご関係で?」

「‥‥えーっと‥‥王子の魔法の師のバモスの娘です‥‥」

  ま、そんなもんだろう。

「こ、これは大変失礼致しました。どうぞ、お通り下さい!」

 ばんぺいさん達は、ざっと、道を開けてくれた。私は、ども‥‥とか言って、そこを通る。

 へえ‥‥魔法使いって、権威あるんだって、改めて関心する。私も、きちんと勉強しなおしてみよっかな‥‥。

 ふふん、偉いんだぞって、城壁を越える‥‥と‥‥。

「‥‥わあ‥‥‥」

 始めて見た城は何か、凄っごい。

 正面のひたすら真直な白い道の両脇には、背の高い木が、点々と植えられてる。その先には真っ白な城‥‥。

 今は当然、夜な訳で、だから空は黒い訳だけど、そんな闇の中で、城がぼうっと輝いてて‥‥。

 たぶん、かがり火の灯が下から照らしあげてるせい‥‥。

 うん、とっても綺麗‥‥。想像通り‥‥。

「キャロル?」

「‥‥あ、ごめん‥‥」

 また、ぼけっとしちゃった。

 私は、ナルに引かれるままに、城内へと足を運ぶ。

 入ってすぐは幅広の廊下。廊下って一口で言っても我が家の貧乏たらしいのじゃなくって、幅は家の長さ位あってさ‥‥。

 それに天井も高い。上にあるのはステンドグラスって名前の奴だったかな‥‥。昼間に、そっから入ってくる。日差しはどんなかなって、考える。

 うん、綺麗‥‥。でもね‥‥。

 やっぱり私って、根っからの貧乏症なのかな‥‥。素直に感動出来なくて‥‥。

「ね、あんな高い所、どうやって掃除すんのかな?」

「‥‥はぁ? キャロルったら、何言ってんの?」

「え、だって、さ‥‥」

 中はちょっと広すぎ‥‥。それにあちこち、デコボコが多くて拭くにしても、はたくにしても面倒くさそう‥‥。

  だから、ジェイレンって掃除嫌いなのかもしんない。でも、そういうのってお手伝いさん‥‥じゃなくって、侍女にやってもらうんじゃないのかな?

「あ、あれ!」

 グイッて、ナルに引っ張られる。

「もう‥‥‥キャロルっ! さっさと会場に行こうよ」

「わ‥‥ナル、私の足、もつれてる」

 やっぱり、四年後の私は足も長くなってる様で(いやー、今の私ってスタイルいいのかも‥‥)、何かと言うと、すぐこけそうになる。それに、足首まであるスカートって、本当、歩きにくくってさ‥‥。

「あわっ、わっ!」

 って、言った側から‥‥。

 ドアは閉まってたんだけどね、私達が近づくと、ドア番の黒い服を着た人がサッと開けちゃって‥‥だから、つんのめった私は、会場の広間の中に、両手を前に突き出した姿で、ドテッと倒れた形になっちゃって‥‥(あー恥ずかしい)。

「何やってんのよ‥‥」

 やれやれってナルが手を貸してくれたけど‥‥元はと言えば、ナルのせいでこけたのよ、分かってないでしょ?

 ぱたぱたと、ほこりを払ってから、辺りをキョロキョロ見渡してみる。

 ここも何て広い部屋。あちこちにおっきなテーブルがあって、その上には、菜食主義の私でも、おいしそうに見える料理の山。だって普段、動物達とお喋りしてるのに、いきなりお肉食べろって言われても、そりゃ無理ってものよ。‥‥しかしお腹は正直なもので‥‥ごめんね、鳥サン、豚サン。しかも、それには爺ちゃんも絡んでで、何だか私にお肉を食べさせなかった。‥‥早く、只の女の子に戻らないとね‥‥変な誤解を解かないと‥‥。

 大体、テーブルを拠点にして、人々が群がってる。私達と同じ格好をした大人の女の人とか、同じく、ばりっとした大人の男の人とか‥‥。遥か彼方に見える黒い点は、バルコニーって奴みたい。こりゃすごいわ‥‥。(うーん‥‥私もそんな所に混じれる程、大人になったんだねぇって、広間の片隅で腕を組んで、ウンウンうなづいてたけどね‥‥本当は、魔法の力をちょっとばかし借りてるんだけど‥‥)

 ザワザワ、ガヤガヤ‥‥話声が重なってくると、そう聞こえてくるから、不思議。そこに黙って立ってると、何か‥‥。周りにたくさん人がいるのに、一人ぼっちになったみたいで‥‥。

 夜会ってこんな所だったのか‥‥。

 人が多すぎて、これじゃ誰が、魔法使いやら、さっぱり‥‥。

 やっぱ、それらしい人に一人、一人、聞いて歩くしかないかな‥‥。

 ‥‥でも、何て聞く?

 あのーすみませんが、あなたは魔法使いでしょうか?‥‥なんて聞いて大丈夫かな‥‥何だこいつは‥‥みたいな目でみられたら、あれだし‥‥ん。

「‥?」

 ザワ‥‥って、その時、空気が変わったのよ。

 何、何って、私が顔を上げると‥‥。

「え、何、何?」

 皆、私を見てるじゃない。何かやった?

「‥‥キャロル‥‥」

「‥‥う‥‥」

 しまったかもしれない。もしかして、私ったら、一人でブツブツ言ってたのかなも‥‥。「あは、あ、はははは‥‥‥‥」

 笑ってると、ナルが私をバルコニーまで引っ張ってくれた。

 近くの椅子に、チョコンと座らされた。

「‥‥もう、一緒にいるのやだからね、キャロルはここでじっとしててよ」

「‥‥う、うん‥‥でも‥」

「私がその辺ちょっとまわって来るから」

「‥‥‥‥」

 完全に子ども扱いされて、私は、プウッて、膨れたけど、ナルはさっさと人達の中に紛れてっちゃった。

 格好いい、白い椅子(これって持って帰っちゃったら、怒られるかな?)に、私は人形の様にスカートに手を乗せ、静かに座ってる。

「‥‥‥‥」

 黙ってるのって、結構、辛い。口の端の辺りが、ムズムズしてくる。

 一体、私は何しに来たんだろうね。

 ま、どうせ来たんだったら、そのついでに‥‥。

 私は、もぞもぞと人ごみをかき分けて、テーブルの上に、デーン!って置いてある。グラスを一つ持ってきた。

 ちょっと赤みがかった飲物。種類は分かんないけど、お酒の類には違いない。一回、飲んでみたかったんだよね。

「‥‥ありゃ?‥‥‥」

 ゴクッと、一口で飲み干したけど、今一

 旨かったのか、まずかったのか分かんない。ペロッと、舌なめずりしてみると、まあ、そんな悪いものでもない気がする。

 物は試し、もう一杯‥‥。

 と、言いつつ、今度は、両手に、二つ持ってきた。

「‥‥うん、まあ、悪くない酒だこりゃ‥‥」

 偉そうに、そんな台詞を言ってみたりして、暇潰し‥‥。

 これはこれで終わりっと‥‥。次は、あっちの黄色いお酒を‥‥。

 瓶ごと掴んだ所で‥‥。

「そこの美しい、御婦人‥‥」

 どっかから、そんな声が聞こえた。でも、私はスポーン!って、栓を開けてた。

「そこの、薔薇の様な人!」

「‥‥‥え?」

 声は私の真後ろからしたので、そこまできてやっと、私に言ってるんだって事が分かった。

 酒瓶を持ったまま、振り返ってみるとね。

「‥‥おお、何と美しい‥‥」

 金髪のスラッと背の高い男の人が、膝まづいて、私のあいてる方の手に、口付けしてきたじゃない!

「あ、あの‥‥」

 いきなりなもんだから、私は慌てちゃって、おろおろと‥‥。

 その人は、ニコッと笑って立ち上がった。 切れ長の青い目に、鼻筋の通った顔。女の子だったらたぶん、十人中、九人はキャーって叫んじゃうだろうな。背も私より、頭一つ以上高い。

 彼はジェイレンのお兄さんのジュリアスさん。この人、会う度に同じ事、言ってくるけど頭大丈夫?

「失礼‥‥あまりにも、あなたがお美しかったもので、つい、我を忘れてしまいました。お許し下さい」

「‥‥‥え、あ‥‥その‥‥何と言うか‥‥あ、そりゃ!‥‥」

 いくらおかしなお兄さんの言葉でも、その台詞に私は舞い上がってる。だって、だって、世界が全然違うんだもん‥‥。十四年間生きて、まさかこんな事を言われる日が来ようとは‥‥。そか‥‥今、私は、十八なんだった‥‥。

「‥‥あなたの白い手は、自然の香りがする‥‥。」       

「そ、そうっすか‥‥はは‥‥」

 そりゃ、ま、そうかも。かぼちゃ香水、百%だからね‥‥。結構、鋭い。

「それだけではなく‥‥‥」

 そう言いながら、私の髪を、一房、手に掴んだ。

「‥‥あなたのこの髪は、薔薇の花の様だ‥ ‥私は今まで、この様な美しい髪を見た事がない‥‥」

「‥‥‥あは‥‥‥」

 私は顔がヒクついてる。

 そんな事、言われたのは始めて‥‥。って、言うか、なるべく一目につかないようにしてたんだけど。

「もっと言って、もっと言って!」

 口に出してしまってから、今さらの様に、恥ずかしくなって、えへへって、顔を伏せた。

 こうして見る、兄の方は、一部の隙もなく、キチッとした身だしなみ。‥‥に、比べて、弟の方はと言えば‥‥。

 とりあえず、今朝のジェイレン‥‥。

 シワクチャのパジャマのまんま、あくびしながら、起きてきて、朝食の代わりに、リンゴかじってた‥‥。

 おまけに、私に、部屋の掃除と、宿題押しつけるし‥‥。

「お嬢さん、どうぞ‥‥」

 優雅な仕草で、ジュリアスは手を差し伸べてきたけど‥‥。これって、私は、その手を掴むべきなのかな。

「‥‥‥はあ‥‥‥」

 私は何の気なしに、掴もうとした時‥‥。

「待ちなよ」

 こ、この声はどっかで‥‥そう、すっぽんの方‥‥‥。

「ジェ、ジェイレン‥‥」

 私は驚いて、首をすぼめたまま(これじゃ私がすっぽんみたい‥‥)、振り向いた。

 へえー‥‥。私は、目がまん丸。

 こんな格好したジェイレンを始めて見たけど、まんざらでもない。なんで、いつもこうしてないのかな?

「‥‥う‥‥キャ、キャロル‥‥だよな‥‥ しかし一体‥それは‥‥‥」

 私以上に驚いてるのは、すっぽん男の方。確かに私の姿はちょっと違ってるかもしんないけど、何であんなにビックリしてんのかな。

 やっぱ、変?

  ジェイレンは、眉間にシワを寄せて、ジィーっと私を見てる。

 私は何か、上でも向いて、ピィピィって、誤魔化しの口笛でも吹きたくなっちゃった。

「‥‥おかしい‥‥」

 一言、ぼそりと言っただけだけど、私の胸に、ぐさっと深く突き刺さったわよ。

「‥‥ま、いい、とにかくそこを退けジェイレン」

 ジュリアスは私の手を掴んで、引っ張った(何か、手を引っ張られてばっかりで‥‥手が脱臼しそう‥‥)。

「嫌だね‥‥」

 ジェイレンは腕を組んで、行く手に立ちはだかり、ニッと、不敵な笑みを浮かべた。

 え、え、って、私は二人の顔をササッと交互に見やる。

「‥‥ジェイレン、兄の言う事に、逆らうつもりか!」

 ジュリアスの声は結構、甲高くて、興奮すると、何か芝居がかって聞こえる。

「‥‥そうだな‥‥他の事なら俺にはどうで もいいが‥‥これだけは譲れないな‥‥」 

でも、ジェイレンはいつものままのジェイレンで‥‥。

 これって凄い、シュチュエーション。

 悪漢(ジェイレン)に襲われた私を、美形な剣士(ジュリアス)が、守ろうとしてるって感じ。

 そして多勢に無勢、哀れ、美しき王女(もちろん、私)は悪漢の手によって連れ去られてしまうんだわって、一人で、物語の主人公になった気になる。

 ‥‥これだけは譲れないな。

 うーん‥‥たまには、さらわれてみるのも悪くないかな‥‥。

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