目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第11話 大切なことを考える

「別に、その人のこと気にいってるなら一緒に暮らせば!」

 そうぶっきらぼうに返した守の言葉を思い出す。アパートに帰って来た壮太は、不機嫌そうな守の姿を思い出して顔を曇らせていた。

「そんなに、不機嫌になることかよ……」

 壮太にとって、守はとてもいい友人だ。でも守は、世間知らずなところが少しばかりあると壮太は思っている。

 例えば、自分は両親の世話になっているのに、平気で壮太に一緒に暮らそうと言ってくる点。守が成人して一人暮らしをしているのなら一緒に住むことも考える。でも今の彼は高校生で親の世話になっている身の上だ。

「そんなヤツの世話になんかなりたくないよ……」

 そういいながら、壮太は夕飯の唐揚げを1人でコツコツと上げていく。

 その数は優に10個以上はあるだろうか。だが、育ち盛りの壮太にとって、タンパク質は欠かせないご馳走なのだ。

「あいつは、俺がタンパク質取るのにも苦労してること知らないだろうな……」

 ちなみにこの唐揚げの鶏肉はもも肉ではなく、安いむね肉を使っている。むね肉の唐揚げはパサパサとした食感で味気ないが贅沢は言っていられない。

 月末になれば、家賃や水光熱代の引き落としもある。それらのお金を最低限、残しておかないといけないのだ。そして、なにかあったときにも金は必要だ。

「金……金……金……母さんもずっとこんな気持ちだったのかな……」

 油からすべての唐揚げを引き上げ、壮太はコンロの火を止める。唐揚げが乗っているのは皿ではなく小さなフライパンだ。それを折りたたみテーブルへと持っていく。次に炊き立てのご飯をよそってテーブルの前へと座る。

 今日の晩御飯はむね肉の唐揚げと白米だけだ。栄養バランスが悪いことは分かっているが、バイト代が入るまでは節約しないと生活費が持たない。

「もっと金があったらなぁ……」

 要と一緒に居れば楽なのではないかという考えが浮かんでしまう。そう思うほど壮太はだれにも頼らず自分を育ててくれた葵のことを考えてしまうのだ。

壮太も誰にも頼らず生活し、自分の夢を叶えるべきではないかと思ってしまう。

「母さんなら……。なんていうかな……」

 唐揚げを食べていた手を止めて、壮太はじっと考え込む。

 自分の将来のために共に暮らそうと言ってくれる人が現れたのなら、その人に自分を委ねてもいいのだろうか。それとも、断って自分1人で生きるべきだろうか。

 それが、壮太にはわからない。

「ああもう! 考えてても、飯がマズくなるだけ!」

 叫んで、壮太は白米をかきこんでいた。がつがつと唐揚げも食べて、白米も口いっぱいに頬張る。そうしていると、何とも言えない幸せな気持ちになれた。

 もし、要さんのために飯を作るんだったら、もっと旨いもん作らないと……。

 そう考えている自分に気がつき、ぎょっと目を見開く。その拍子にご飯が器官の中に入りそうになり、壮太は思いっきり咳き込んだ。

「げほっ……ちょ、なんで要さんが出てくるんだよ! まだ……一緒に暮らしてもないのに……」

 壮太は、要との同居を想像してしまう自分に驚きを隠せない。

 たしかに要と一緒に生活したら、それなりに楽しそうだ。あの汚い部屋をキレイにして、自分はご飯を作って要を待つ。そして、ご飯を食べ終わったら勉強を見てもらって、悩みを聞いてもらって……。

「いやいや、俺どこまで要さんに依存してるんだよ……」

 頭を抱えて壮太はぼやく。

 そして、壮太はあることを決意していた。

 もう自分で答えを出すのは大変だ。だったら、母親である葵にアドバイスを仰ごうと。


 数日後、要は壮太の家の傍にある公園に呼び出されていた。

「あの、用事って何かな? 今日は日曜だし、特に予定も入ってないけど‥‥‥」

「よかった。つき合わせちゃってすみません。でも、会わせたい人がいるんです」

「会わせたい人?」

 壮太の言葉に、要はまさかと思う。やはり壮太は、自分との同居を断るつもりで今日は呼んだのだろうか。そうとしか考えられない。

「残念だな……」

 なんだか悲しくなって、要はそう呟いていた。

「え、何が残念なんですか?」

 その言葉に壮太は怪訝そうな表情を浮かべる。要はとっさに微笑んでいた。

「いや、なんでもないよ。こっちの独り言」

「はぁ……」

 判然としない顔の壮太を見て、要はこれでよかったのだと思った。さすがに壮太が苦労しているといっても、他人同然の要が手を貸していい道理はない。彼は、彼なりのやり方で問題に対処していきたいと思っているはずだ。

「その……同居は断るんだよね」

「いや、なんでそんな話になってるんですか?」

 要の言葉に、壮太は不服そうな顔をした。

「あれ、違うの?」

「違います。その、今日はそのことで会ってもらいたい人がいるんです」

 壮太の言葉に、要はピンとくる。壮太が会わせたい人といったら、彼に近しい人物に違いない。

「もしかして、お母さんのところ?」

「はい。一緒に来てくれますか?」

 壮太の言葉に要は頷いていた。

「いいよ。それを君が望みなら」

「ありがとうございます!」

 壮太の顔に笑みが浮かぶ。その笑みを見て、要は心配に想う。

 自分は壮太の母親と上手く話し合えるのだろうか。そのことが要にとっては気がかりだった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?