夜遅くまで壮太は要の帰りを待っていてくれた。
今は深夜の0時。それでも壮太は温かな夕ご飯を準備して、要と一緒に食卓についてくれる。
「ごめんね。こんな遅くに」
「いえ、俺も要さんに勉強見てもらいたいですから!」
ご飯にお味噌汁に鮭のムニエル。そしてサラダ。それらの晩御飯が並べられたテーブルにつき、要は壮太に謝罪していた。
だが、壮太はニカッと笑ってスーパーで買って来たというデザートのプリンも食卓に置いてくれる。
「今日、振り込まれてたバイト代で買ったんです。シフト減らしたのに、色々と訳話したなんかお給料も上がっちゃいました」
そういって壮太は要の向かいの席に座る。そんな壮太に要は微笑んでいた。
「バイト、楽しそうだね」
「ええ。宅配のバイトは体力が命ですから、俺がΩだって知るとみんな驚きますよ。Ωはもっと男女みたいなヤツだと思ってたって、βのαの先輩たちに言われます!」
ぐっと片腕で力拳を作って、壮太はぽんぽんとその腕を自慢げに叩く。そんな壮太を見ていると、Ωだからモテないと嘆いていたのがウソみたいだ。
「やっぱり壮太君は男らしいよね」
「そりゃ、母さんを守りたかったし、Ωだからって女々しいイメージ持たれちゃ嫌ですから!」
要の言葉に壮太は不敵に笑う。そんな壮太を見ていると、逆に要は自分が頼りなく思えてくるのだった。
「やっぱ、壮太君は1人でも大丈夫かもね。俺と無理に同居しなくてもよかったかも」
「そんなことありません!」
冗談を口にすると、壮太がきっと要を睨みつけてくる。
「俺、今月の中間テストで中の下ぐらいの成績にやっとなれました。要さんが遅れていた俺に、根気よく勉強を教えてくれたおかげです」
「壮太君!」
「だから、ぜんぜんこの同居は無駄じゃなりません。それに俺。要さんと居れてその……」
そこまで行って壮太は口ごもる。
「居れて……なに?」
要の言葉を聞いて、ぽっと壮太の耳が赤くなる。壮太は眼を潤ませて、じっと要を見つめてきた。たどたどしい言葉で、壮太は要に告げる。
「その、一緒に居れて、嬉しいです」
「あ……」
今度は、要の顔が赤くなる。
要は壮太から顔を逸らして、鮭のムニエルを黙々と食べ始めた。
「うん! 美味しい! うん!」
そして甲高い声を出して、いかにムニエルが美味しいかを主張する。
「あ、ありがとうございます」
壮太もまた、要に料理を褒められぎこちない笑みを浮かべる。
「ごめん。ご飯、お代わりいただくね。これ、美味しくて!」
「ああ、もっとよそればよかったですよね! はは!」
要はご飯をお代わりするために、立ち上がる。そんな要に壮太は笑いかけるのだ。
その後、要はもの凄い勢いでキッチンへと向かった。
「なんだよ。あれ……」
心臓がバクバクしているのを感じながら、要は自分の顔が猛烈に熱くなっていることに気がついていた。
「その、一緒に居れて、嬉しいです」
壮太の言葉が頭の中で反芻される。その言葉の意味を要は考えてしまう。
「その、これってその……。壮太君は俺のこと……」
そこまで呟いて、要は「あぁ……」と小さく声を漏らしていた。
ご飯茶碗にご飯を戻ると、壮太がじいっと恨めしそうに要を見つめてくる。要はなんだか居心地が悪くて壮太から視線を逸らしていた。
「その、なにかしちゃったかな……」
「ええ思いっきり……」
夕飯を黙々と食べながら、壮太はジト目で要を見つめる。その眼差しに耐えきれず、要は壮太から視線を逸らしていた。
そっと席に着くと、じっと壮太が要を睨みつけてくる。
「ねえ、やめようよ。せっかくのご飯なんだし…‥‥」
「だからこそです。あんなこと冗談でも言わないでください」
「冗談?」
壮太の言葉に首を傾げる。すると壮太は、怒りのこもった声を要にぶつけてきた。
「俺と要さんが同居しなくてよかったとか、そういうこと! 冗談でも言わないでください!」
立ち上がり、びしっと壮太は要に人差し指を突きつけてくる。
「なんだか、要さんのやって来たことを要さんが否定してるみたいで凄く居心地悪いです!」
「え、そうかな?」
壮太の言葉に要はきょとんと眼を見開くことしかできない。自分としては謙遜のつもりでそういっただけだったが、壮太にとってはそうではないようだ。
壮太は食べかけのムニエルを見つめて言葉を続ける。
「俺がこうやって、栄養バランスのいいご飯を作れるのも、成績が上向いてきたのもぜんぶ要さんのお陰です。要さんがいなきゃ、俺どうなってたか……」
真剣な眼差しで要を見つめ、壮太はなおも言葉を重ねる。
「約束してください。自分を否定するような言葉はもう言わないって。でないと、俺も要さんと居てなんだか居心地が悪いです」
「ごめん……。でも、君はしっかりやってるし俺がいなくても……」
「ほら、そういうところがダメ! 彼女出来てもフラれますよ!」
ビシッと壮太から指摘を受けて、要はうっと言葉に詰まる。要は壮太に苦笑を向けていた。
「ごめんよ。謙遜のつもりだったけど君に嫌な思いをさせていた。もう言わないよ」
「うん。それでいいです!」
満足そうに壮太が微笑む。その微笑みを見て、この先の同居も大変そうだと要は思うだった。