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第21話 相変わらずの距離感

『ごめん。今日も遅くなりそうだ……』

 そう、要からメールが来ていることに気がついたのは、お昼休みになってからだった。教室の机に座る守はため息をつく。

 窓辺にある席から外を眺めると、空は青く晴れ渡っていた。でも、壮太の心は晴れることはない。むしろ、どんよりと曇ってしまっている。

「今日は、早く帰れるって言ったのに……」

 壮太はガッカリとした様子で肩を落とす。

 女子高生の事件があってからしばらくして、要は塾から早く帰って来ることが多くなった。でも、また悩みを持つ生徒ができたらしく帰りが遅くなっている。

「なんで、そんなにお人好しなんだよ……」

 最近は起きるのも辛いらしく、朝食を用意する壮太が要を起こすことがしばしば起きている。そんな要を壮太はとても心配していた。

 要はとてもお人好しで、自分の限界を超えても人を助けたいと思うほどの人間だ。そんなお人好しな要の気持ちが壮太にはわからない。

「俺なんて、自分のことで精いっぱいで、人のことなんてかまってるヒマなかったけどな……」

 それに、人にかまうということはその人の面倒をその分見るということだ。すまないが壮太にはそんな気力はない。

「よくやるよな。要さん」

「また、愛しの要さんのこと考えてるの?」

 つまらなそうな声が、壮太にかけられる。顔を上げると、守が不機嫌そうに壮太のことを見つめていた。

「守……」

「昼飯、食堂に食いに行くか?」

「いや、俺は弁当があるから」

「そう言うと思った」

 そう言って彼は、弁当箱が包まれた包みを壮太の机に置く。そして、空いている壮太の前の席の椅子に座り込んだ。

「あ、勝手に座って平気かよ」

「ちゃんと許可撮ってあるから平気。それよりお前、また要さんのことで悩んでるのか?」

「まあ……」

 守の言葉に壮太は苦笑していた。

「この前も騒ぎがあったばかっりなのに、またかよ」

「ごめん……」

 守の言葉に、壮太は謝ることしかできない。

 あの女子高生の一件について、壮太は守にもだいぶ慰めてもらっていたところがある。その過程で、守の要に対する評価はかなり厳しいものになってしまったようだ。

 はぁっとため息をつきながら、壮太は守に告げる。

「要さん。また、心配した生徒が出来たみたい……」

「お前以外にも、気になるやつがいるんじゃないのか?」

「うっ!」

 守のその言葉に、壮太は弁当箱の包みを開けようとしていた手を止めていた。

「それで、同居相手が増えたりして」

「やめてくれよ! これ以上、人が増えても俺は困るよ」

 守の言葉に、壮太は盛大に顔をしかめていた。

「おいおい、そんなに嫌がるなよ」

 そんな壮太に守は苦笑する。守は弁当の包みを開け、弁当箱を開ける。中身は唐揚げ弁当で、中にはタルタルソースも入っている。

「あ、上手そうじゃん」

「ああ、お前に言われて色々と作ってみてるからな」

 壮太の言葉に守はにっと笑う。

 ここ数ヵ月、食堂で食事をとることが多かった守は、壮太に弁当の作り方を教えてもらい弁当を作ってくることが多くなった。教室で壮太と弁当を食べるようになったのもここ最近のことだ。

「要さんにもちゃんと料理推した方がいいんじゃないのか? あの人、お前に頼りっぱなしだし」

「たしかに、ここんとこ朝ごはんも夕食も俺がずっと作ってる気がする」

 守の言葉に壮太は頷く。ここのところ、また要とも顔を合わせてないし、自分1人で夕食を食べることも多くなった。

 壮太としては要のことを待っていたいが、要がそれを許可してくれないのだ。

「お前も家に帰っても1人なわけだろ。それって、一緒に住んでる意味あんの?」

 弁当の包みを開く壮太に守はそう問いかける。その言葉に、壮太はどきっとして手を止めた。

「それは……」

 寂しさを感じないと言えば、ウソになってしまう。でも要には要の理由もあるし、自分も子供じゃない。寂しいだなんて本音を要にぶつけることなんてできないのだ。

「守……それは……」

「ああ、ごめん。ちょっと墓穴ほったかな……」

 守は気まずそうに顔を逸らす。そして彼は、照れ臭そうに壮太を見つめ尋ねた。

「もしよかったらさ、しばらくウチに泊まらない? 1人でいるよりかは気が紛れるだろうし」

「え、でも……」

「前はしょっちゅう、泊ってたじゃないかよ……」

 唐揚げを不機嫌そうに食べながら、守は壮太に告げる。

「でも、要さんに聞いてみないと……」

「まあ、そうだけどさ。それも、なんかめんどくさいな」

 守の言葉に、壮太はたしかにそうかとも思った。

 葵が入院してから、自分はかなり自由に守ると自宅を行き来していた。そして、守にはだいぶ助けられてきた。

 でも、要に助けられるようになってきた壮太は、守を頼ることが少なくなった気がする。

「たまには、お前に頼ってもいいのかな?」

 じっと守を見つめ、壮太は尋ねてくる。

「なんだよ。急に……」

 照れ臭そうに要は、壮太を見つめてくるばかりだ。ぷいっと壮太から顔を逸らし、守は壮太に告げる。

「まあ、気分転換になるんだったら、来てもいいんじゃないのか。俺もお前と遊べなくてつまんないし」

「うーん。そうだな。ひさしぶりに、お前のウチに行ってみようと思う」

 壮太は守に微笑む。

「まあ、好きにすればいいんじゃない」

 そんな壮太に、守は苦笑するのだった。



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