「あれ、もうこんなに立つのか……」
塾のオフィスで、小テストの採点を解いていた要はデスクに置いてある卓上カレンダーを見て目を小さく見開く。
「どうした? なんかあったのか?」
隣のデスクに座り、同じく明日の講義の準備をしていた小林が要に尋ねてきた。
「いや、もうすぐ俺の誕生日だと思って」
そういって、要は小林に卓上カレンダーを見せる。その卓上カレンダーは12月14日に赤丸がついていた。
「あのー、自分の誕生日の日にわざわざ赤丸つけるって……」
要から卓上カレンダーを取り上げ、小林は呆れた様子で言う。すると要は、むっと小林を睨みつけた。
「壮太君が誕生日に何かプレゼントしたいっていうから、忘れないように丸つけてるんだよ。ここ数年は本当に、自分の誕生日がいつかなんて忘れてた」
要の言葉を聞いて、小林は大きく目を見開いた。そして、ぷっと噴き出す。
「なにお前、彼氏からのプレゼント楽しみにしてるの?」
「彼氏じゃないし!」
小林の言葉に、壮太は顔を赤らめる。でも、季節はもう冬。塾の生徒たちも進学のために色々と準備をし、受験に臨む時期だ。
その時期、塾はどんな時よりも忙しくなる。なので、ここ数年要は自分の誕生日を忘れることが多かった。
そんな折、ふとしたことから自分の誕生日が今月であることを壮太に告げると、壮太は誕生日に何かしようと言ってきてくれたのだ。
要にとって、それはとても嬉しいことだった。それを少しからかわれたような感じで言われ、要はとても不機嫌な気分になる。
「なんだよ。もう大人になったら、誕生日を楽しみにしちゃいけないのか?」
「いや、そういうことじゃないけど……。お前も、壮太君のお陰で変わったなと思って」
小林が苦笑する。彼は、卓上カレンダーを要のデスクに置き、こう付け加えた。
「自分の誕生日なんてどうでもいいと思ってたやつが、自分の誕生日を祝えるようになったんだ。たいしたもんじゃないか」
「まあ、たしかにそうかも……」
小林の言葉に、要は苦笑していた。
まさか、この年になって誰かに誕生日を祝ってもらえるとは思えなった。それがとても嬉しくて、要は卓上カレンダーの自分の誕生日の日に、赤丸をつけていたのだ。
「なんか、お前ってどんどん壮太君に感化されてるよな」
「そうかな……」
小林の言葉に、要は照れていた壮太のことを思い出す。
「もしよかったら、何かプレゼントでも贈らせてください」
そう言っていた彼は、とても照れ臭そうに微笑んでいてとても可愛らしかった。
「なに、くれると思う。壮太君」
壮太のことを思い出して、要は楽しげに笑う。小林はそんな要を見て苦笑していた。
「お前はもう、本当に壮太君に夢中だよな」
「そりゃ、壮太君のお陰で人間らしい生活もしてるからね。むしろ俺が彼を見習わないと」
「お前、ちゃんと誕生日には帰ってやれよ」
要の言葉に小林が笑う。
「わかってるよ。だからその日は、休み代わってくれよな」
小林の言葉に、要は苦笑していた。
場所は変わってこちらは守の邸宅。守の部屋で、壮太は腕を組んで悩んでいた。
「なあ、やっぱり誕生日って何をしたら喜ばれると思う?」
壮太は守に問いかける。すると向かいに座る守はこう言った。
「そうだな。やっぱり、あっと驚かせるサプライズとかいいんじゃないのか」
「サプライズねぇ……」
あれから色々と要の話題で盛り上がり、壮太は守に要の誕生日が近いこと。なにかお祝いをしたいことを守に相談していたのだ。
「そうか。要さんの誕生日か近いのか……」
「うん。そうなんだ。なんかお祝いとしたいんだけど、何がいいかな?」
「だったら、やっぱりどこか貸し切って守さんのためのサプライズパーティーをだな……」
「いや、その金どこから出てくるの?」
「そうだった。俺の感覚で話してごめん……」
守は真剣に話に乗ってくれるが、どうも生活している環境が違いすぎるせいかズレた意見しか出てこない。守は考えこんだ様子でこんなことを言い出した。
「というかさ、お前料理得意なんだし、なんか要さんの食べたいものとか作ってやればいいんじゃない。それで、誕生日パーティー開くとか」
「あ、それいいかも!」
守の言葉に壮太はぱっと顔を明るくする。
「まあ、喜んでくれるかはわからないけどなぁ……」
守はそんな壮太に苦笑していた。
「でも、きっと要さんだったらどんなことでも喜んでくれる。そういう人だもん」
「まあ、お人好しな人だからね……」
「別にいいじゃんかよ。お人好しで!」
守の言葉に壮太はむっと反論する。
「まあまあ、俺も色々と考えてやるから、あの人が喜ぶようなこと思いっきりしてやろうぜ」
そんな壮太に守は微笑みかける。
「そうだな! よろしく!」
そして壮太もまた、守の言葉に微笑んでいたのだった。その顔を見て壮太は告げる。
「ああ、絶対に喜ばせてやる! あの人に一泡吹かせてやるんだ」
そして守に壮太は微笑むのだった。その微笑みを見て守は苦笑する。
「まあ、少しは手加減しないとな」
「そうだな!」
そういって青年たちは笑い合う。