「なあ、やっぱり好きなものをある程度作って、それで終わりじゃダメかな」
メモ帳を書きながら、壮太は守に尋ねる。すると、同じくメモを書いていた守はむっと不機嫌そうな顔を舌。
「お前、やる気あるのか」
「え、あの……」
じっと壮太を見つめ、守は続ける。
「要さんに喜んで欲しいんだよな。だったら、好きなもの作って終わりじゃダメだろ。プレゼントもないと……」
ずいっと壮太に顔を近づけ、守は問う。うっと壮太は目を見開き、不機嫌そうな守を見つめた。
「守。俺以上に、真剣になってない?」
「こういうのはきちんとしなきゃダメなんだよ。一方的に嬉しくないもの贈られても、相手はムダに気を使うだけだ」
「それもそうだけど……」
守の言葉に壮太は黙り込んでしまう。守の言っていることが正論だからだ。たしかに贈り物は気持ちが大切というが、いらないものや好みでないものを渡されても困る。
守は真剣な眼差しで壮太をじっと見つめ、こう言った。
「まずはさ、それとなく要さんが欲しいものを調べるのも大切だよな」
「欲しい物ねぇ……。要さん。そういう話はあんまりしないからなぁ……」
「じゃあ、無難にあの人がいま必要なものとか渡してみたらどうだ」
「必要なものかぁ……」
守に言われ、壮太はじっと考え込む。そういえば、要に必要なものがあるかと聞かれることはかなりあったが、その逆はあまりなかった。
「うーん。思いつかない。直接聞くとかじゃダメかな?」
考え込んだ末に、壮太は守にこう告げていた。
「ああ、それいいな。変に相手の好みのもんじゃないの渡してもイヤだし」
「うーん。本当だったら、ビックリするもん渡した方がいいのかもしれないけど、それはそれでアリかな。誕生日じゃなくても、休みの日に一緒に何か買いに行ったりとかもいいかもな!」
すると守が笑顔でアイデアに賛成してくれる。
「あとは、要さんの好きなものとか誕生日に作ればいいかな。変にケーキとかあってもなんというか、ちょっと気まずいし……」
考え込む要の言葉に守が不思議そうに告げる。
「お前、料理つくれるしケーキだって楽勝だろう?」
「いや、料理とお菓子は別物だよ。それに、ケーキを焼くにも要さんのウチにはオーブンないし」
「だったら、ウチのオーブン使わせてやるよ」
「なるほど、その手があった……」
守の言葉に壮太は感心してしまった。
守の家は大きな邸宅で、業務用冷蔵庫から店で売っているようなホールケーキも焼けそうな大きなオーブンもある。そのオーブンを借りれば、手作りのホールケーキも作れるだろう。
「作り方がわからないんだったら、ウチのお手伝いさんに作り方聞いてみるのどうだ。いつも俺、美味しいケーキとか焼いてもらってるし」
「やっぱりすげえな、お前んち……」
「そうか。普通だと思うけど」
母親ならともかく、お手伝いさんにケーキを焼いてもらうウチなんて守のウチ以外に壮太は知らない。そういったところにも守とのギャップを感じてしまう。
それでもせっかくだからと、壮太はその好意に甘えることにした。
「とりあえず、誕生日の前日にお手伝いさんにケーキの作り方とか教えてもらっても大丈夫?」
「いいよ。俺からお手伝いさんに言っとく」
照れ臭そうに壮太が言うと、守は快諾してくれる。ほっと壮太は笑顔になって、守に抱きついていた。
「ありがとう! やっぱりお前は俺の親友だ」
「ちょっと、そういうのはやめろよ!」
守は慌てて、壮太を引き離す。壮太もまた、睨みつけてくる守の顔を見てはっと我に返るのだった。
「その。今は発情期じゃないよな……」
壮太の体を軽く押し、守は鋭い声音で尋ねてくる。
「ごめん。その、Ωの俺がαのお前にベタベタひっついちゃいちゃ、ダメだよな……」
壮太は自分の軽率な行いを反省した。いくら発情期が来ていないとはいえ、αの守にベタベタするのは避けた方がいい。αの中には、そういったスキンシップですら発情してしまう者もいるのだ。
「なんかさ、壮太とは一緒に暮らしたいって思うことけっこうあるけど、色々と考えると別々な方がいいよな」
壮太から視線を逸らし守が低い声で告げる。その言葉に、壮太は少しばかりショックを受けていた。
たしかに、守は壮太にとって大切な存在だ。でも、もし間違いがあって守と何かあったとき、壮太は守と元通りの関係を維持することはできるだろうか。
答えはきっとノーだ。壮太はきっと、守と元の親友のような関係には戻れない。きっとそれがイヤだから、守は壮太が先ほどのようなことをするたびに嫌がるようなそぶりをしてくれる。そうでなければ、どこかで間違いが発生してしまうかもしれない。
自分と守の関係はそんな薄い氷上の上を歩くかのような脆い均衡の上になりたっているのだ。そしてそれは、要との関係においてもそうだ。
「ごめん。俺もちゃんと考えて、お前には接するよ」
「そうしてくれると、助かる……」
壮太の言葉に守は冷たく告げる。その言葉を聞いて、壮太は守との間に何とも言えない距離感があることを感じていたのだった。