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第30話 心配性の保護者

 要が迎えに来る数十分間、壮太は何とも言えない気持ちになっていた。

「ねえ、要さんって、いつもあんな感じなの?」

「いや、普通だと思うけど……」

 守がこんな感じで、壮太に要のことを色々と聞いてくるからだ。守としては、要との会話がとても不愉快なものだったらしい。

「だいたい迎えに来るってさ、俺が壮太のことを送っていくって言ってるのに、なんだよそれ。ちょっと過保護すぎだろ。こじらせすぎ」

「たしかにそうかも……」

 要の文句に壮太は苦笑するしかない。

 要はお人好しのせいかどこか過保護なところが少なからずある。こじらせすぎと守に言われても仕方のないかもしれない。

「でも、そこが要さんのいい所でもあるから」

「ええ。ちょっとお前、束縛され過ぎじゃない? 俺だったら、ちょっと遅くなったぐらいで親が迎えに来るとかイヤだな。ウチなんて高級自家用車がすぐさま来るオチが待ってるし……」

「たしかに、そうかも……」

 もう高校生になるのに、その高校生が25歳の大人に帰りを心配されて迎えに来てもらう。たしかにちょっと異様な光景だ。

 そして守が言うように、自家用車がやってくるのはもっと嫌だ。

「うーん。今度から要さんに遅れても自分で帰るようにちゃんと言っておくよ。そうでないと、とんでもないことになるし……」

 これからも、自分の帰りが遅いだけで要が迎えに来ると思うと少し嫌だなと思う。さすがにそれだけはないようにしたいと壮太も思ったのだ。

「そうそう……。なんかさ、要さんって保護者超えて母ちゃんだよな。家事しないのに?」

「たしかに、それ言えてるかも」

 要の言葉に壮太は吹き出しそうになりながら、そう告げていた。たしかに要はどこかお母さん的な要素がある。過保護というか変なところで面倒見がいいというか。そういうところが要のいい所でもあるのだが。

「お母さん的な過保護も行き過ぎるとなんか堅苦しいよなぁ。俺も壮太とおちおち遊べなくなってきてるし……」

「たしかにそれは言えてるかも……」

 守の言葉に壮太は頷く。

 連絡をし忘れたとはいえ、さすがに帰りが遅くなった高校生を迎えに来る保護者はあまりいない。場所によっては迎えに来るかもしれないが。

 そうこう言っているうちに、守の部屋がノックされる。少し間をおいて使用人の女性が部屋へと入って来た。

「守さん。壮太さんのお家の方がお見えになりましたよ」

「わかりました。壮太と玄関まで行きます」

 守は女性に丁寧に返して、壮太に立ち上がるよう促す。

「本当に迷惑かけちゃって。ごめんな」

「いいってことよ。俺たち、友達だろう?」

 壮太が守に謝ると、守は苦笑しながらそう返して来た。

「ありがとう。お前みたいな友達がいて嬉しいよ!」

 そう言って壮太は守に微笑む。


  壮麗な石田家の門扉をくぐると、そこには道に立ち壮太を待つ要の姿があった。壮太と守が門をくぐると、門は自動で閉まる。

 その様子を要はあんぐりと口を開けて見つめていた。

「ああ……。やっぱり、αの家系は凄いなぁ……」

「どうも、初めまして。石田守です」

「あ、どうも……」

 守に話しかけられ、要は守に頭を下げる。その様子を見て、壮太は苦笑していた。

「要さん。ちょっと、他人行事過ぎるよ」

「いや、いつも壮太君がお世話になってるんだし、保護者としてちゃんと挨拶はしないと……」

「保護者ねぇ……」

 守の言葉に要は苦笑を浮かべていた。

「なに? 俺なにか、変なこと言ったかな?」

「いや、ちょっと壮太のこと甘やかしすぎなんじゃないかと思いまして……」

「そうかな……」

「俺たちの中に嫉妬しました?」

 守がにっと得意げに笑って、壮太の肩を抱く。

「ちょ、なんだよ。守!」

 驚いた壮太は守を見つめる。だが守は、得意げな表情を浮かべたままだ。

「別にいいじゃん。お前と俺の仲なんだし……」

「なんだよ。仲って……」

 得意げに微笑む守を見て、壮太はなんだか恥ずかしくなる。そんな2人を見つめる要の顔から、すっと表情が抜ける。

「あのさ、そういうのは別にしなくてもいいと思うけど……」

「なんですか? 俺と壮太の仲、妬いてます?」

「いや、そうじゃなくて……。壮太君もさ、遅れるなら今度から連絡はちょうだい。ちょっと心配しちゃったよ……」

 要が少しだけ悲しげな表情を浮かべる。その表情を見て、壮太は要がなにを言いたいのかに気がついていた。

「あの、要さん……」

「あ、壮太……」

 守の手をそっとどかし、壮太は要へと近づく。近づいてきた壮太の手を要はぎゅっと握りしめていた。

「帰ろう。君に夜道は危ないから」

「はい……」

「壮太……」

 要が守に視線を向ける。

「ごめんね。壮太君には留守番ばっかりさせてるけど、ちゃんと家には帰ってきて欲しいんだ。万が一のことがあるから」

「えっと、それって……」

 要の言葉を聞いて、守は真顔になっていた。

「ごめんね。君のこと疑ってるつもりはないんだけど」

 そんな守に要はそう告げ、壮太の手を引いて歩き出す。

「あ、要さん!」

「行こう。壮太君。ご飯、早く食べたい」

「わかりました……」

 門の前で唖然と立ち尽くす守に頭を下げ、壮太は要と共に歩き出す。


  街灯が等間隔に明るい夜道を壮太は要に手を引かれながら歩く。2人の間に会話はなく、ただ壮太が一方的に要に手を引かれて歩いている形だ。

「あの、要さん。要さんてば!」

 そんな中、壮太は要に声をかけていた。要は立ち止まり壮太の方へと振り向く。

「ごめん。ちょっと、考え事してた」

 微笑む要の顔はどこか顔色が悪い。

「どうしたんですか?」

「いや、君と守君のことを考えてたら、ちょっと怖くなっちゃって……。その……」

「ああ、そういうことですか……」

 要の言葉を聞いて、壮太は理解する。

 要は壮太が帰ってこないことで、出会ったばかりのときの出来事を思い出したのだろう。

 先輩たちに絡まれていた壮太を要が助けようとして、逆に助けてしまったあの出来事を壮太はありありと思いだすことができる。

「守はそんなヤツじゃありませんよ。だから、安心してください」

「ごめん。そうだよね。ちゃんとした財閥の跡取りがそんなことするはずないよね」

 そう言って要は壮太をぎゅっと抱きしめていた。

「ちょ、要さん!」

「ごめん。しばらくこうさせて……。本当に君が返ってこなくて不安だったんだ。でも、無事でよかった……」

「守はそんなことしませんよ」

「わかってる。でも、不安になっちゃうから仕方ないだろう……」

 要が切なそうな顔をして、ぎゅっと壮太を抱き寄せる。そんな要を見て、壮太はなにも言うことができなかった。

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