遼のアパートでえっちしてシャワーを浴びて、ごわごわのバスタオルで体を拭きつつ散らかったワンルームに戻ってくると、ベッドサイドに置きっぱなしにしたスマホがぶるんと通知を告げる。画面に「
「誰とラインしてんの? 男?」
返信を打っている間に遼が遅れてバスルームから出てきて、頭を拭きながら言う。
しぼんだチンコが、増えすぎた乾燥ひじきをくっつけたみたいな股の間でだらんとぶら下がっている。
遼は高一の時バイトしてたホットドック屋で知り合った男で、三歳上の大学二年生。同じ学校の女と付き合っていて何度か写真を見せてもらったことがあるけれど、雑誌の読者モデルをやっていてもおかしくなさそうな可愛い子だった。
「うん、隼悟」
「それって最近出来たっていう、麻央の三番目の男?」
コクンと首を縦に振りながら、返信を打ち込む。六時から会えない? ってラインに会えるよって一言返すだけ。隼悟のラインは大抵一行だけで絵文字も顔文字もないので、自然とあたしもそっけない返事になる。
三股をかけてるといっても、三人ともあたしに他に男がいることを知っている。そしてあたしも
ちなみにこの一番目とか二番目ってのは好きな順番じゃなくて、単に関係が長く続いてる順。誰をどのぐらい好きなのか、そもそも誰かのことを本当に好きなのか、わからない。いやわかりたくもないのかもしれない。
遼も弘喜もあたしのことを彼女って言うよりは、ヤリたい時に呼び出せばやってくる都合のいいセフレだって思ってるんだろう。
あたしから会いたいなんて言い出すことは滅多にないし、デートはいつも家でえっちするだけで二人きりでどこかに出かけたりなんて、まずない。
とはいえ、会っている時は遼も弘喜もあからさまにセフレ扱いってわけじゃなくて、本命の彼女みたいに優しくしてくれる。
ヤッて終わりじゃなくて普通に話もするしイッた後はベッドの中でたっぷりいちゃいちゃするし、一緒にご飯(カップ麺とかコンビニのお弁当とかだけど)を食べることもある。それがこの二人と関係を続ける理由だったりする。いくらあたしみたいな女だからって、生きてるオナホみたいに扱われたら腹が立つ。
遼が洗面台に立ち、長めの髪にドライヤーを当てている。ぶわん、という音を聞きながら水分補給のために冷蔵庫に向かう。
「その隼悟って、どんな奴?」
「見た目はひと昔前の不良みたいだよ、トウモロコシみたいな頭してるし」
「トウモロコシか。そりゃいいな」
遼が白い歯を見せて笑う。あたしはぱかっと冷蔵庫を開けてコーラをラッパ飲みし、遼も飲むかなと思って洗面台と並んでいる洗濯機の上にペットボトルを置く。遼がありがと、と短く言った。ドライヤーのぶわんぶわんが続く。
「そいつは麻央の他に女いねぇの?」
「みたい」
「向こうからコクって来たんだっけ」
「そ。一年の頃同じクラスで何度かみんなで遊んだことあるけど、まさかあたしのことそんなふうに思ってるなんて知らなくてさ。まじビックリだし」
「麻央は鈍感だからな」
ドライヤーの音が止んだ。遼が後ろからまだ服を着ていないあたしの体に手を回してくる。洗濯機の上で、ペットボトルが汗をかいている。
「どうすんだよ、そいつに俺と別れてほしいって言われたら」
「そんなこと言うわけないよ」
「わかんないじゃん。捨てるなよ俺のこと」
「そっちこそ捨てないでよ」
一応、言ってみる。あたしは遼に捨てられたら、遼と会えなくなったら、ちょっとは悲しいとか思っちゃうんだろうか? 上手く想像出来ない。今シャワーを浴びたばかりだってのに、遼の分厚い手があたしの胸に伸びる。首をスマホのほうに向けると、案の定光ってる。きっと隼悟から、待ち合わせ場所とかの指定だ。
「捨てるもんかよ、こんないいおっぱい」
わかってる。遼も弘喜もあたしの心なんてほんの一ミリグラムも欲してない。自分の思いどおりになるマンコとEカップのおっぱいを手放したくないだけだ。
そのまま、求めてくる遼についつい応じてしまってもう一度えっちしてるうちに待ち合わせの六時はなんと十分前で、三分でシャワーを浴びて化粧もろくに直さずアパートを出た。
会う時はいつも自分の部屋に呼び出す遼とは違い、隼悟は必ずあたしの地元の駅まで来てくれる。改札口から出てくるサラリーマンたちが、ガードレールに尻を乗せたトウモロコシみたいな金髪の男にじろじろ視線を当てている。
息を弾ませて定期入れを改札に当て、夕暮れの世界に飛び出すと、隼悟がガードレールを離れ、すり足気味の独特の歩き方で近づいてきた。
「ごめん遅れて」
「いいよ」
怒って言葉が少なくなっているんじゃなくて、二十五分も遅れたことを本当に気にしてない口調だ。隼悟はみんなでいる時はどっちかっていうと無口で、あまり気持ちを顔に出さない。
じゃあ暗い奴なのかっていうとそうでもなくて、二人でいればまぁまぁしゃべるし時々冗談らしいことも言う。金髪にピアスの派手さと白い肌や三白眼気味の目、ハスキーな声なんかは絶妙にマッチしていて、さりげなく憧れている女子もいるらしい。
マンガみたいに登校してきた途端ゲタ箱からラブレターのなだれがドサッ!! 的なモテ方はしないけど、一部からささやかな好意を寄せられるタイプだ。
「どこ行きたい?」
「ボウリングは?」
「いいよ」
影を並べて歩き出す。手は繋がない。キスもしなければ、当然えっちもしない。こんな小学生みたいな付き合い、いや今どき小学生や幼稚園児だってキスぐらいするだろうに、ここまで徹底的にプラトニックなダンジョコウサイなんて、初めてだった。
隼悟だってもう高二だしまぁまぁモテるんだから経験はあるんだろうし、意外だ。他に二人もセフレに近い彼氏がいる女なんて、汚くてヤリたくなんかないってこと? いやそれならそもそもなんで付き合う? 付き合い始めてそろそろ一ヶ月経つけど、未だに隼悟が何をどう考えてあたしにコクってきたのか、わからない。
「来週はもう、夏休みか」
隼悟の視線の先には夕焼けを浴びてオレンジに衣替えしたビルの壁がある。深く息を吸い込めば、ぱんぱんに膨らんだ空気は既に夏の匂いをしている。高校生の夏は今年と来年でもう終わり。
青春は確実に終わっていくのに、ろくなことをしてない気がする。将来の夢に向かって頑張る、有名大学を目指して額にねじり鉢巻して勉強する、部活に汗を流す、そんなのはあたしらしくないけど、せめて胸がぱちぱちはじけて毎日が楽しくて生きていることに感謝したくなるような、そんな恋愛ぐらいしてみたい、本当は。
「ねぇ、夏休みになったらまた京子たちと海行かない? 去年みたく」
「みんなもいいけど、麻央と二人で行きたい」
さらっと言われ、言葉に詰まる。三白眼気味の目が少し丸まってあたしを見る。
「嫌?」
「え、別に、嫌じゃないけど」
「付き合ってるんだから二人で行ったっていいだろ。それとも麻央は他の男と行くほうがいい?」
「そんなんじゃないし」
「冗談だよ」
冗談にもならないことを言って、よくみんなに吸血鬼っぽいなんてからかわれる八重歯を覗かせ、ほんのちょっとだけ寂しそうに笑う。あたしも合わせて小さく唇を揺らす。
やっぱり隼悟は意味不明だ。どうせ体目当てでコクってきたんだろうと思ってたらそんな素振りは全然見せないし、まさかあたしに本気だってこと? いやあたしのどこに誰かに本気で好きになってもらえる要素があるっていうのよ。
ボウリング場を目指すど派手な制服姿のカップルには、行きかう勤め帰りの人たちからの感心しない若者だなぁって冷ややかな視線が投げられる。
あたしたちはトウモロコシみたいな頭とトイプードルみたいにした頭を並べ、大人たちのひりひりした目つきもなんのそのと、ボウリング場を目指す。今しかできない髪型は若さの証だ。
昼間の暑さを忘れさせてくれるような風が吹いて、膝上二十センチの制服のスカートを慌てて押さえた。下に裾を折ったハーフパンツ履いてるんだけど。