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第7話

「今回はイオン坊ちゃまが大変申し訳ございませんでした」


 店番してるところを謎の騎士とイオンに襲撃され追い出した翌日、俺の家に身なりのきちんとしたモノクル紳士が来た。

 彼はゴールディング家の筆頭執事と名乗り、挨拶も早々に俺に詫びてきた。


 貴族の家の上級使用人、しかも筆頭執事が平民の若造である俺に深々と頭を下げる。

 俺はそのことに非常に驚いた。貴族やその使用人全員が傲慢な訳では無いが決してこちらを対等に見てる訳でないのは知っていたからだ。


 ただ、だからといって昨日の件を謝っただけで帳消しには出来ない。

 だって何もしてないのに剣を突き付けられたのだ。

 執事はそんな俺の心を読んだように口を開いた。


「貴方に無礼を働いたものは昨日付で解雇しました」

「……そうですか」


 誠意ある行動ともいえるし、トカゲのしっぽ切りだと言われたらそうかもしれないとも思う。

 イオンを運良く店から締め出した後、俺は仮眠中の父を起こして裏口から衛兵を呼びに行った。


 しかし衛兵を連れて来た時にはイオンも鎧騎士も姿を消していた。

 店内も荒らされておらず、俺も剣を突き付けられはしたが掠り傷一つない。

 そしてイオンの名前を出した途端、衛兵は今回の件を罪に問うのは無理と言い出した。


 相手が高位貴族で、更に何も盗まれず怪我もしていないなら事件として扱うのは難しいと。

 イオンの名を騙る詐欺師かもしれないと粘ってみたが個性的過ぎる体型を真似るのは無理だと即否定された。

 要は相手が貴族だし大した被害も無いのだから泣き寝入りしろと言う事だ。


 父が凄んだ結果暫く周辺の定期巡回をしてもらえることにはなったが、正直衛兵たちが役に立つとも思えなかった。

 だからゴールディング家から使用人が謝罪に来た上で、剣を突き付けた騎士の解雇報告をしてきたのは意外ではあった。

 そのまま無視すると思っていたからだ。もしくは再度襲撃してくるか。


「坊ちゃまが無理をさせた扉についてもゴールディング家で修繕させて頂きたいと思います」

「壊れていないので結構です」


 執事の提案を俺は断った。

 確かにイオンがみっちりと詰まっていたが丈夫な扉はそれだけで壊れたりしない。昨日の時点で確認済みだ。


 ちなみに俺たちは今、家の庭で話している。運悪く姉も父も外出していた。

 しかし襲撃してきた側の人間と室内で二人きりになりたくない。かと言って店の前で話して噂にもなりたくない。

 結果苦肉の策で、庭に彼を連れてきたのだ。無礼だと怒って帰る可能性も考えたが、そんなことにはならなかった。

 イオンのように騎士も連れてきていないし馬車も近くに停まっていない。かなりの気遣いが出来る人だろう。

 だから俺も不必要にごねることはしない。


「俺は昨日の件を大事にするつもりはありません」

「有難うございます」

「二度と昨日のようなことが無いと約束して頂けるならですけれど」

「それは……」


 当然快諾して貰えると思ったが、予想外に言い淀まれた。

 ということは再びイオンが襲撃してくる可能性があるということか、自分の表情が険しくなるのがわかる。


「約束して頂けないのは又俺が襲われるかもしれないってことですか? 俺はゴールディング家に何か悪さしましたか?」

「いえ、襲うなどそのようなことは決してさせません。ただ、坊ちゃまが……」

「坊ちゃまが?」

「貴方と一度話をしたいと……どうか一度ゴールディング家にお越し頂けないでしょうか」

「お断りします」


 自宅内で執事と話すことさえも嫌がってるのに、敵陣になどノコノコ行く筈がない。

 貴族の屋敷に平民が招かれるとか飛んで火にいる夏の虫じゃないか。貴方に対して完全犯罪準備万端ですと言われているようなものである。

 もう良い、これ以上関わり合いになりたくないからストレートに告げてしまおう。



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