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第12話

 仏頂面のイオンは次に目の前のテーブルを指差した。

 見ろという事だろうか。視線をそちらに向ける。


 そのまま寝られそうな程大きなテーブルだ。

 大理石か何かで作られていそうなので実際ベッド代わりにしたら体が痛くなりそうだけれど。


「置け」

「……は?」

「貴様が持って来た注文品をだ!」

「あっ、はい、直ちに!」


 怒鳴られて俺は慌てて持って来たケーキなどを箱ごと並べた。

 軽い茶会が出来そうな量はある。イオンなら一人で全部食べきるのかもしれないが。

 品物を全部並べ終えた俺に再度イオンが話しかけてきた。


「貴様、名を名乗れ」

「アリオ・ブルームと申します」

「男か女かわからん名前だな」

「よく言われます」

「顔もどっちかわからん」

「それも良く言われます」


 イオンの問いかけに愛想笑いを浮かべながら答える。

 無礼かつこちらを馬鹿にする態度。絵に描いたような傲慢馬鹿貴族だ。


 父のケーキは貴族たちにも人気で俺も度々配達に出向いている。

 だから貴族全員がイオンみたいに態度の悪い奴じゃないことも知っていた。


(……性別を確認されるのは初めてじゃ無いけどな)


 俺の顔は姉であるパルに似ている。俺の髪が白くなるまでは双子と間違われる時も多かった。

 身長こそ十八歳の今は彼女よりそこそこ高いが、男らしいと言われたことは一度も無い。


 女性と間違われることは服装次第では今でもある。

 この国は長身で逞しい体つきの男性が多い。

 俺よりも長身で筋肉もしっかりついているポプラが優男呼ばわりされるぐらいだ。


 そして彼より低身長であまり筋肉のつかない俺は、貧弱呼ばわりされることも珍しくはない。

 日本でなら普通より多少痩せているぐらいだが、この世界はどちらかというと近代ファンタジーなのもあるだろう。


 平民の男は強くて逞しいのが当たり前なのだ。貴族の価値観はわからない。

 だから今されたように男らしくないと言われるのは初めてでは無い。


(だとしても、イオンに馬鹿にされるのは微妙だな)


 丸々と太って俺とは違う意味で男らしさを感じない体型。遊園地で見かける着ぐるみみたいだ。

 多分俺二人分くらいの横幅と体重があるだろう。しかし全く逞しさは感じない。


 イオンなんて遠くから見たら性別以前に人間か大きな樽かの区別すらつかない。

 当然相手は貴族令息なのでそんな風に言い返したりはしないが。


 そんなことを考えている俺をイオンは探るような目で見て来た。


「僕のディエと話をしていたのはお前で間違いないな?」


 やっぱり本題はそれか。うんざりした気持ちと緊張が同時に湧き上がってくる。

 予想はしていたが、どう回答するのが正解なのかはまだ迷う。 


「おい」


 苛々と急かされ俺は観念して口を開いた。


「ディエというのは……どなたでしょうか?」

「は?」

「恐らく女性だとは思いますが、仕事柄多くのお客様と話をするので……」


 怪訝な顔をするイオンを前に俺も困惑する表情を浮かべる。

 ディエが誰か知らないなんて当然大嘘だ。あんな目立つ美少女一度見たら忘れられないだろう。


 でもゲーム内のイオンは嫉妬深いし器が小さい男だった。

 主人公が散策中たまたまディエと会って挨拶しただけで乱入してくるランダムイベントがあるくらいだ。

 先程のように僕のディエに近づくなと騒ぎながら。そして嫌がるディエを無理やり連れて去っていくのだ。


 だったら最初からディエになんて感心ありません、誰なのかさえ覚えていないですという態度を取る。それが俺の作戦だ。

 正直賭けではある。イオンは彼女にベタ惚れで女神と崇めてすらいる。

 こんなにも美しいディエを覚えていないなんて無礼者がと激怒される可能性もあるからだ。


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