「うわっ」
「逃がさないよ」
長い付き合いの相手はこういう点では厄介だ。完全に行動を読まれ逃亡阻止されてしまった。
そしてポプラの厄介なところは腕力だけではない。
「お前が何も言わないなら、お前が泣いていたこと家族に言うから」
「おい!」
的確に俺が一番して欲しくないことを言ってくる。幼馴染が今だけはラスボスに見えた。
ポプラに話したらポプラが怒る。話さなかったらポプラが父と姉に俺が泣いていたことを話す。
そして父と姉は俺がゴールディング公爵邸に配達に行ったことを知っている。イオンとのいざこざもだ。
なのでその時点で俺が誰に泣かされたかを知ることが出来る。そして情報提供料としてポプラにも事実が共有されるだろう。
結果、父姉親友がイオンとディエに対して怒り心頭で抗議することになる。
どう見てもポプラだけに話すより最悪な事態になる。
俺は冷や汗を流しながら目の前の親友に抗議した。
「お前っ、それは卑怯だろ」
「卑怯じゃないよ、寧ろ知ってて黙ってる方が卑怯だろ」
「それは、俺にだって事情があって……」
どうか話せないことを理解して欲しい。そう願いを込めてポプラを見つめる。
彼は俺の顔を真顔で見つめた後、ゆっくりと首を振った。
「あのな、俺が言わなくてもお前の家族は絶対気付くぞ」
幼馴染で昔から俺の一家を知っているポプラの言葉は重い。
そんなのはわかっている。寧ろ父も姉も配達に行く前から心配しまくってた。
だから尚更「ちょっとトラブルはあったけど、そこまで酷い目には遭わなかったよ」という形で報告したいのだ。
俺がディエに手を出そうとした誤解は解けた筈なので、このままならイオンも俺を呼び出したりすることは無いだろう。
ディエについて見かけたら方向転換して邂逅しないようにすればいいし。
そんな俺をポプラは気の毒そうな顔で見た。
浅知恵を必死に働かせているなと哀れむような表情に見えたのは俺の被害者根性のせいか。
「お前が泣き腫らした顔で歩いてるのを目撃したのは俺だけじゃないんだよ、多分今頃誰か話してるぞ」
「嘘だろ……」
「お前さ、自分の事平凡だと思ってそうだけど普通に目立つんだよ。髪のせいだけじゃなく、な?」
白髪に関してフォローを入れられたことに気付くがそれどころではない。
今すぐ家に帰らないと父と姉がイオンの屋敷に乗り込みかねない。俺は青くなった。
ついでに一つ気づいたことがある。
「お前、もしかしてそこまで計算して俺を引き留めてたんじゃ……」
「はは、考えすぎだろ」
嘘だ、絶対嘘だ。
わざとらしい軽薄な笑顔にそう思う。
しかしそ時間稼ぎなんてしてポプラに何の得があるのだろう。
そんな俺の疑問は口に出す前に回答が得られた。
「ちゃんと事情説明してくれるなら、俺も家についていってフォローしてやるけど?」
「おっ、お前……」
「どうする、アリオ」
完全に勝ちを確信した顔でポプラが俺に言う。
頭が良すぎる。
顔が良くてここまで頭が回るならそりゃ主人公からヒロイン何人も強奪できるよなと思ってしまった。
それに「恋と騎士と冒険と」恋愛ゲームなのだから、ある意味こいつがラスボス魔王ポジとも言える。
魔王からは逃げられない。そんな言葉が浮かび俺はとうとう観念した。
もういい。ここまでしつこく聞き出そうとするなら話してやろうじゃないか。
雰囲気を察したのかポプラが上機嫌に俺のつむじにキスして来た。欧米か。
こいつはいつからかこうやって身長差をアピールしてくる時がある。
流石に腹が立ったので殴った。