「でも俺にも非があったと思うよ」
「は? どこがだよ」
ポプラの言葉に俺は顔を上げた。
彼は父親に虐げられていたディエを助けただけだ。
なのに告白を断ったからと言って嫌がらせをするのは逆恨みにも程がある。
俺の胸に生まれつつある憤りに気付いたのかポプラは、大きな手で頭を撫でて来た。
癇癪を起した子供を宥めるような仕草だ。
俺はこの国では成人扱いだし前世の記憶も含めれば彼より年上なのだが。
「下心無しに助けちまったからな」
「……意味が分からない」
「気まぐれに一回じゃなく、最後まで責任もって助け続けろとあの嬢ちゃんは思ったんだろうさ」
ポプラの指摘にどきりとする。
一回だけディエを助けたというなら俺もその条件に当てはまるからだ。
だから俺のこともイオンに対し悪く言ったのだろうか?
考えてもやっぱりディエの考えは理解出来なかった。
「……やっぱり俺には良く分からない」
「お前はそれで良いよ」
頭をポンポンと軽く叩かれ俺は軽く唸った。
「簡単に言えば彼女は目の前に差し出された餌を、急に引っ込められたと思って噛みついたんだろう」
「……益々わからん」
「俺を自分を攫ってくれる白馬の王子様だと思ったら、ただの通りすがりだったってことかな」
性別や年齢差を考えても俺はディエがポプラに嫌がらせした理由に共感は出来ない。
確かに彼女はゲーム内ではひたすら主人公の助けを待つヒロインだった。
逃げ出したいけど逃げられない。誰か私を救って欲しい。
そういうタイプの悲劇のヒロインで、儚げで可哀想な姿が人気でもあった。
しかし助けてくれなければ攻撃するとなれば話は別だ。
俺は首を傾げながらポプラに尋ねる。
「助けてくれると思ったのに助けなかったから許せない……って感じか?」
「まあ、そういう認識で良いよ。しかしディエ自体は無力でも彼女に惚れてる男が厄介過ぎるな」
「それはそう」
今度は心からポプラの言葉に同意出来る。
金と権力を持ち、更にディエの言葉を鵜呑みにするイオンの存在はタチが悪いなんてもんじゃない。
ゲーム内でディエを攻略する時もあの悪役令息イオンはそこそこ邪魔なキャラだった。
しかしディエに嫌われた場合の方がイオンは厄介な相手だと今更気づいた。
彼は婚約者の言いなりに権力を使って嫌がらせしてくると知ったからだ。
難しい顔をした俺にポプラが今度は質問してきた。
「見た限り怪我はしてないみたいだけど、貴族の屋敷で大体どんな嫌がらせされたんだ?」
「……親父のケーキを滅茶苦茶にされた、かな」
「他には?」
「部屋に入るまで散々歩かされたけど、敷地が広すぎるだけかも」
「ケーキか、気持ちとしては今すぐ怒鳴りつけに行きたいんだがな」
「いいよ、しなくて!」
ポプラの言葉に俺は慌てて首を振った。ケーキの代金は予約時に既に受け取っている。
ならイオンが買い取ったケーキを食べようが捨てようが壊そうが、俺には本来抗議する権利はないのだ。
感情的には全く割り切れはしない。
だからこそ貴族相手に身の程知らずに怒鳴ったりしたわけだが。
「俺だって感情的過ぎて失敗したと思ってるし」
イオンは心情的には怒鳴られても仕方ないことはした。食べ物を粗末にすること自体が許せない。
でも俺も自分のやったことが完全に正しいと思い込める程、感情だけで生きてはいない。
この世界には大きな身分差があるし、そうでなくても客と売り手だ。
前世だって、俺が作ったケーキを食べずに捨てた客は居たに違いない。
目の前で嫌がらせの為にそれをやるような人物はいなかったけれど。