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第40話

 今のイオンのスタイルは良い方に見えた。

 若干恰幅の良さは残っているかもしれないが、だとしてもマイナスにはならないだろう。

 俺のように筋肉の付きづらい体よりは女性人気がありそうな気がする。この国では逞しい男は安定して女性に好かれる。


 そして顔も多分美男子扱いされる類だろう。しっかりした眉と鼻に真っ青な形の良い瞳。

 何より金を持っていそうだ。整えられた輝く髪に高価そうで手入れの行き届いた衣類と靴。


 あのイオンなら理想の高いディエも一緒に歩いても嫌な顔をしないのではないだろうか。

 俺はゲーム内でディエ攻略に必要なパラメーターを思い出しながら考えた。


 ゲームと現実は違うのは当然わかっている。

 だとしても今のイオンはルックスが劇的に改善して身分は高いままでディエにベタ惚れしている。

 父親のせいで生活に苦労しているディエには白豚が白馬の王子様に変身したように映らないだろうか。


 そうなればイオンもディエも二人とも幸せだろう。 


 俺は一つだけ売れ残ったレアチーズケーキをショーケースから取り除きながら思った。

 いつもなら姉に上げるか半分こして食べるが今日彼女は外食するから腹に入らないだろう。


 チーズケーキが欲しいと言っていたイオンは、余り満たされた顔をしていなかった。

 単純に腹が減っていたのかもしれない。 

 そう考えつつもイオンの傷ついたような顔が澱みのように胸の隅に張り付き続けた。


  恐らく彼が最後に言い残した台詞のせいだろう。


『お前が痩せろと言ったから痩せたのに』


 こちらへ責任を問いかけ、更に責めるような意図を感じさせる言葉だ。

 確かに痩せた方が良いとイオンに対し発言した。それは事実だ。


 でも間違ったことは言っていないと今でも思う。

 あそこまでの肥満体なら彼が特殊な体質で無ければ間違いなく健康を損なう。


 ディエに愛されたいけれど叶わない彼に対し、外見の改善を提案したのだって間違いではない。

 少なくともディエがゲーム内でイオンを捨てて乗り換えた男たちは皆スタイルが良かった。


 そしてイオンは俺の提案を聞き入れて別人になるレベルの減量ら成功したらしい。

 今の彼は顔良しスタイルそこそこ良し家柄良しのどこから見ても勝ち組だ。


 なのに不幸せそうな顔で俺の店に来て不満そうな台詞を吐いて帰っていた。

 まるでダイエットしなければ良かったとでもいうような様子で。


 俺は商品を陳列していた棚を拭き掃除しながら考える。

 この店が人気になった切っ掛けは俺が考えた菓子やケーキだと父や姉は言う。


 特にカロリー控えめだったり美容に良いデザートの評判が良いと。

 確かにダイエットに成功したり肌荒れが治ったとお礼を言われたこともある。

 皆嬉しそうに笑って内側から輝いていた。美しくなったという自信が彼女たちから溢れていた。


 でもイオンは幸せそうじゃなかった。美男子の外見になったのに。

 体だってきっと軽く動かしやすくなっただろう。


 なのに不満げに俺を見て帰った。

 理由を幾つか考えてみる。


 まずダイエットでストレスが溜まっている。

 あそこまで短期間に激痩せしたからには食事制限も厳しく行ったたのだろう。

 けれど我慢できず俺の店にケーキを買いに来た。けれど用意されて無かったから不満を表明した。


 そこまで考えて違うだろうなと思った。

 だとしたらイオンの場合もっと感情的になって暴れるぐらいしそうだ。

 そこまで空腹だった場合当時店内にあった他のケーキや菓子に見向きしないのもおかしい。



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