莉子side……★
「何でぇ? どーして何回連絡しても既読にならないのォ? おっかしいんじゃない、あの男!」
及川さんの彼氏、絋と接触したあの日から、幾度となくメッセージを送っているのだけれども、一向に既読にならなくてイライラが募り募っていた。
あの男、莉子が家を知らないと思って余裕ぶっこいているの?
「プールの帰りに後をつけたから、家は把握済み。向こうがその気なら、莉子から行動してやるんだから!」
大抵の男は彼女に黙って莉子に媚を売ってくる。ちょっと猫声で話しただけでその気になって、おっぱいを押し当てたらヘコヘコ腰振って抱きついて、最終的には何度もエッチをせがんでくるくらい莉子の虜になるんだから。
「莉子がいないと生きていけないって溺愛してる下僕くんもたくさんいるのに、何で無視するの? 有り得ない!」
身長は低かったけど、吊り目がクールな見た目麗しいモデルのような美形。あの人なら彼氏にしてあげてもいいなと思ったのに。
面白くない、面白くない……!
「そーいえば、あの人の家ってすごーくオシャレな豪邸だったよね? 一人暮らしなのかな?」
プールの帰りは及川さんも一緒に入って行ったけど、あれだけの揺さぶりをしたんだから、今頃修羅場になっているはず。きっと絋は一人っきりのはずだわ。
「あの歳であの豪邸なら、いい仕事についているか、もしくは実家がお金持ちなはず? そもそもナイトプールでデートってセンスあるし、素敵な彼氏よね♡」
莉子のほうが可愛いし、おっぱいが大きいし、エッチも上手だろうし、何よりも完璧美少女♡
会いに行ったら喜んでくれるんじゃないかな?
あ! もしかしたら今頃、莉子と付き合う為に及川さんと別れ話をしているとか?
だから連絡ができないのかなー?
「そんなの困っちゃうー! 莉子はみんなの莉子だしぃ♡ ふふっ、しょうがないから会いに行ってあげようかなー♡」
こうして莉子はアッシーくんを呼び出して、幸せたっぷりな気分で愛しのダーリンの家へと向かったのだった。
———……★
「あー、ココ! ついたぁ♡ 送ってくれてありがとうね、
絋のお家まで車を出してくれた大学生の林っちぃ。顔はソコソコ可愛いんだけど、イマイチ男らしさがないからアッシーくんとして傍に置いてあげているのだ。
短い時間だったけど、莉子と一緒にいれて嬉しそうな林っちぃにチューっとしてあげて、私は車を降りた。
「ふふふっ、ここが絋のお家ね? 普通に行っても面白くないから、テラスからビックリさせてみようかなー?」
ご両親がいた時はいた時で、外堀を埋める作戦を決行しようっと。門を潜って茂みに入って中へと侵入してみた。それにしても大きい家だなぁ。新築……ううん、リノベーション済み?
リビングらしい場所が見つかり、中を覗き込んでみると、ソファーでくつろぐ人影が見えた。もしかして絋?
「あー、絋だぁ♡ やっ………?」
ブンブンと大きく振った手が止まった。
え、え? え⁇
ちょっと待って! 何で他の女とイチャイチャしてんのォ⁉︎
膝の上に乗せて、チュッチュ、チュッチュ。え、おっぱい触ってる? 待ってよ、そんな女よりも莉子の方が気持ちよくて大きいから!
「何それェ! 人の男を寝取るなって! それは莉子の! 莉子のモノだからァ!」
バンバンバンとガラスを叩いていると、こっちに気づいた絋が嫌そうに顔を顰めた。気怠そうに膝の上に乗せていた女を下ろして、テラスの方へと歩いてきた。
ポケットにしまっていたスマホを手に取って、ボタンを押して——……。
「あの、警察ですか? すいません、家に不法侵入してきた不審者がいるんですけど」
「待って待って! 莉子だって! 何で110に通報してるの⁉︎」
その冗談は笑えない!
必死にスマホを奪い取ろうと彼に飛びかかったけれど、全く相手にならなかった。
「え……、莉子さん? 何でここにいるの?」
ソファーの辺りに立ち尽くしていたのは、因縁の相手、及川杏樹だった。
うそ、自宅に呼んでたの? こんな時間まで男の家に入り浸るなんて、やっぱりあざとい女は一味違うわね。
「鳴彦に水嶋、そして絋まで誑かすなんて、よっぽど男に飢えているのね、及川さん」
胸を強調するように腕を組んで、堂々と宣戦布告をしてやったけど、絋も及川さんも同情するように呆れた視線を向けてきた。
「いや……どう見てもアンタの方が飢えてるだろう? ほら、大人しく帰ってくれるなら通報は勘弁してやるから、さっさと行けって」
「は、はぁ? 待ってよ、わざわざ莉子が家まで来てあげたのに、何もしないで帰らせるつもり?」
「いや、来てあげたも何も、邪魔だし。他にも住人がいるから静かにして欲しいんだけど?」
住人? え、住み込みのお手伝いさんでも雇っているの?
「莉子さん、ここは私達が住んでいるシェアハウスなの。ホームセキュリティ利用してるから警備員が来るけど、大丈夫?」
「シェアハウス⁉︎ 待ってよ、そんなの聞いてないんだけど!」
「いや、聞いてないも何も言ってないし」
ってことは、この豪邸は彼の家じゃないってこと?
「待ってよ、絋! もしかしてアンタ、思ったほど金持ちじゃないの?」
「金持ち? いや、それどころか元社畜の無職だし。なぁ杏樹さん。この人、色々おかしいことばっか言ってんだけど?」
「おかしくない! 莉子はおかしくなんてないんだから‼︎」
むしろおかしいのはそっちの方だ!
せっかく年上の頼れるイケメンを見つけたと思ったのに無職だなんて有り得ない。及川さんってそんなダメ人間と付き合ってるの?
「最低……っ、仕事もしてないくせに女子高生を誑かしてんの? 幻滅なんだけどォー。及川さんも及川さんだよ? いくら顔がいいからって無職は有り得ないって。女の子とイチャイチャしてる暇があったら求人サイトでも眺めろよって感じじゃん?」
あー、もうテンションダダ下がり。
こんな男、落とさなくて良かった。こんなのと付き合ったら莉子の格が下がっちゃうじゃない。
——ううん、そうよ。無職の彼氏と付き合ってるなんて、及川さんってカモにされてるってことじゃない?
「アハハ、ざまぁ! どーせ顔に騙されたクチでしょ? 見る目ないわね、及川さん!」
散々貶して馬鹿にしていると、眉間に皺を寄せた及川さんが絋の腕にしがみついて、堂々と言い張ってきた。
「アンタみたいな人間に絋さんの良さが分かるわけがない! 絋さんはスゴく素敵なんだから……! アンタみたいな上部しか見てない人には絶対に渡さないから!」
えぇー、この人頭がおかしいんじゃない?
無職なんて、土下座されても付き合いたくなって。
「もう莉子の連絡先は消していいよォ? 莉子も絋の消しておくから。あー、及川さんも本当に見る目ないねぇ。ソコソコ可愛いのに、本当に可哀想ー」
その言葉に及川さんの目色が変わった。
怯えがちだった表情に狂気が満ちて、口元に悦が見え隠れした。
「——うん、そうなの。絋さんの良さは私だけが知っていればいいの。他の
背筋にぞくっと、殺気に近い感情が伝った。それと同時に目の前の彼女の色気が際立って、何それ……ゾワゾワして止まらない。
「何それ、その男……そんなに良いの? ねぇ、莉子にも教えてよ?」
「え、教えるわけないじゃないですか? 知らなくていいんです。莉子さんが仰るとおり、絋さんは見た目だけの無職のエロ男なんですから」
「いや、杏樹さん。オブラードは大事だからな?」
そんなはずがない。
そうよ、そもそも何にもない男に及川さんのような美少女が溺愛するわけがないんだから。絶対に何かある。
そう思って手を差し伸べたその時だ。
敷地内に数台の車が入ってきたと思ったら、ヘルメットを被った警備員が数名入ってきて、そのまま莉子の腕を掴んできた。
「なっ! 何なの、アンタ達‼︎」
「不法侵入があったと通報がありましたので、連行致します。しばらくの間、お時間を頂きます」
「や、やめて! 莉子はそんなんじゃ! 絋……! 及川さん! 助けて、お願い!」
「——警備の方々、夜分遅くにも関わらず、お勤めお疲れ様です。よろしくお願い致します」
こうして莉子は、無情にも警備員に連行されることとなってしまった。
———……★
セコム、利用したことがないので想像です💦