南国風民家の外観から、そんなに大きな家ではなかったので、俺は油断してた。
その家に足を踏み入れたら急に次元が司会が歪んだみたいになって、景色が変わったのだ。
そしてなぜか日本家屋風の家の玄関の土間部分に俺達は立っていた。
「おいおい、南国風の家がどうして入ったとたんに和風建築の家に変化するんだ」
「に、日本家屋? 昔風の?」
ハッテンベルガーは俺のシャツを掴みながら不安げに内観をキョロキョロして見てる。
「ワフウ? ニホンカオク? お二人とも、何を言ってるんですか?」
まずい、異世界現地人のニールが置いてけぼりになってる。
「あー、何故か建築様式が変わってるだろ? 極東の島国の家に見えるって話だ」
「極東の島国の家……ですか」
俺は振り返って扉から出ようとした。
しかし、何故か扉から引き戸に変化した戸が開かない。閉めた覚えもないのに閉まってる!
「扉が開かない……退路が断たれた?」
「僕達は帰れないのでしょうか?」
「な、なにかミッションをクリアしたら出れる形式かも?」
「ハッテンベルガー、例えばどんなミッションだ?」
「えーと子供が遊ばなくなって放置された人形が寂しがってるから遊んであげると成仏して、我々も帰れるとか……? あ! 自分で言ってて怖くなった! 夜中に髪が伸びる系の人形は怖いです!」
確かにその手の古い人形は見た目が怖いな。
「せめて仏壇か神棚にお備え物とお祈りする的ななことであればな……」
「あるいは……なにか鍵的なものがあったり、文字通りの鍵の可能性も」
前世で色々なゲームをしてきたのか、この手の探索の知識がありそうなハッテンベルガー。
「成る程な、戻れないなら進むしかないし、なにかヒントでも探してみるか」
すると、俺のシャツから手を離したハッテンベルガーが玄関先の土間から上に上がる時にちゃんと、靴を脱いでいた。
「おい、ハッテンベルガー、靴を脱ぐのか?」
不意の戦闘など、もしもの時に備えることを考えれば、靴は履いていた方が……いいのだが。
「だって綺麗な廊下を土足で入って汚したら罰として永遠に出られないってなったら困るじゃないですか! 私は畳のヘリや敷居すら踏まないように気をつけますよ!」
「なるほど……」
仕方ない、ここは礼儀正しくいくか。でも靴はリュックに入れて回収しておく。
「じゃあ僕も靴を脱いだ方がいいですね?」
「そうだな、お前だけ礼を失したから出れないなんてことになるといけない」
「お邪魔しまーす! どなたかいらっしゃいませんかー!?」
一応声をかける、ハッテンベルガー。
「お邪魔します……」
「オジャマシマス……」
よくわからないまま、ニールも俺に倣ってオジャマシマスとカタコト風の日本語で言った。
「パイセン、障子……開けますよ……入りますよ!」
最後の入りますは中に向けて声を張り上げたんだと推測する。
「ああ、しかし俺が代わりに開けてもいいぞ、ハッテンベルガー」
「返事はないですけど中で女性が着替えてたら困りますし、私なら一応女なので……」
この状態でそんなラッキースケベ現象とは遭遇しない気がするが、風呂とかは一応気をつけるべきか?
ともかくハッテンベルガーは障子を開けた。
すると、高そうな和風のテーブルの上に料理が並んでる大広間があった。なにげに修学旅行を思い出す。
「広い部屋です……ご馳走が並んでます……あ、お頭つきのお刺身……舟盛り……」
「これを食べると神様のお食事に手を出したとかで戻れなくなるやつかな」
どこかのアニメ等でみたような展開だ。
「ひい、私、お腹空いてても食べません」
「食べたらいけないのですか? もてなされているように見えますが」
「それが罠かもしれん。それとニール、ここの敷居と畳の淵のヘリは踏まないようにな」
俺は指を差してニールに敷居とヘリを教えた。
「はい、この木枠のところと緑の模様のとこですね」
「そうだ」
俺がうなずくと、急に猫の鳴き声がニャーンと聴こえ、背後を振り返ると障子を突き破って白い猫が現れた!! しかもオッドアイだ。
「ね、猫ちゃん!!」
「障子を破ったのは俺達ではなく猫だ。が、穴が空いたのが気になるな」
「でも和紙とか持ってませんし、補修したくてもできませんよね」
「あ、猫が……何処かに行きますよ」
ニールの言うとおり、猫は奥の襖の前で走って行って止まると、今度は襖にカリカリと爪を立ててる。
「開けてと言ってるのか? 押入れの中に何かあるのか? 入りたいだけか?」
「開けてみましょう……押入れに何もいない事を祈ってください」
「ハッテンベルガーさん、僕が開けるよ」
ニールがハッテンベルガーの肩をつかんだ。
「流石に押入れに裸の女はいないだろうしな」
俺がそう言うなり、
「ここにいたら確実に怪異ですよ!」
ハッテンベルガーが食い気味にレスを返した。