海岸で鳥の羽をむしって焚き火で焼いて塩コショウを振りかけて食う。
「ふむ! これは焼鳥!」
ハッテンベルガーがシンプルな感想というか、事実を伝えた。
「そのまんまだな」
「コクがあって美味しいですね」
「ああ」
「パパイヤみたいな見た目のこちらの果物はマンゴーみたいな味です! 当たりです! 甘くて美味しい!」
ハッテンベルガーはデザートの果物の味に満足そうだ。
「採りたててでみずみずしいからな」
「ええ、同感です、瑞々しくて美味しいです」
「はー、でも今、魔導カメラがあればサバイバル授業中の一軍男子二人の配信するだけで金が儲かりそうなのに」
魔導カメラとはその名の通り、動画撮影機能つきの魔導具のことだが、とても高価だ。貴族とは名ばかりの財政難なハッテンベルガーが買える値段ではない。
「先輩と知り合いで金儲けしようとするんじゃない、自分が出ればいいだろ」
「パイセン、ビジュアルレベルで考えてくださいよ、私は効率を求めます」
「効率厨め……」
「おーい! おーい!」
「ん? 森の中からおーいって声がしますね?」
ニールが背後の森を振り返って言った。
その時、風が吹いてざわりと木々が不吉に揺れた。
「パ、パイセン、怪異だったらどうします!?」
「それなら夏に出ろよ、一足遅い、もう秋だぞ」
などと俺は軽口をたたいてはみたが、
「普通に助けを求める他の生徒の可能性が……もしくは現地人の……」
「確かにその説もあるな」
「先輩、行きますか?」
「パイセン、見捨てますか? 見捨てるとカルマ値が溜まりますかね!?」
かなりのゲーム脳なハッテンベルガー。
「ちょうど腹ごなしも終わったとこだし、仕方ない、行ってみるか」
俺は焚き火を消して、立ち上がった。
「慈愛!」
「慈愛等ではないぞハッテンベルガー。好奇心かもしれんだろ」
「先輩、好奇心で仕方ないってセリフがでますでしょうか?」
ニールは真面目な顔で言う。
「どうでもいい、行くぞ、海からの声なら確実に怪異か魔獣とかの罠だが、森なら人がいる可能性の方が高い」
「でも……思えばなんで我々は今まで他の生徒と遭遇してないのでしょうか」
ニールは緊張感を滲ませた表情で歩みを進める。手には短剣を装備してるし。
「そこも不気味なんだよな」
流石にこれには恐怖を感じてるのか、ハッテンベルガーは俺の背後から怖ごわとついて来ている。
「森に入ったとたん、ガスってきたぞ」
我々は濃霧に包まれた。
「霧ですね……やはり怪異なんでしょうか?」
ハッテンベルガーは不安なのか、俺のシャツの裾を掴んだ。
『おーい! おーい!』
また聴こえた!!
「おーい以外になんか言え! 何か困ってるのか!? 具体的に言え!」
俺が声を張り上げると、おーいの声は止んだ。
その代わり、しばらく歩くと1軒の家があり、屋根は南国風に葉っぱで作られている。藁の屋根に似てる。
「ひい、なんで家が……現地人の民家でしょうか?」
「さあ……な」
「あそこに入るとどうなるんでしょうか」
ニールはそう言って謎の家の数メートル先で足を止めた。
「あっ、パイセン、マヨイガって知ってます?」
「迷い家は、某地方に伝わる、訪れた者に富をもたらすとされる山中の幻の家、あるいはその家を訪れた者についての伝承の名……だな」
日本の東北、関東地方の伝承の家がこの異世界にもあるのか?
「流石博識ですね、私、富なら歓迎ですけど、化け物が出るのは嫌ですね……」
そりゃそうだろうな。
「ちなみに、山や森の中で突然おじさんの声で「オーイ、オーイ」って声が聞こえたらそれは人間じゃないので即家に帰れって話だ。帰らないと死ぬ」
「な、何故死ぬんですか?」
「助けを求めてるのが人間なら普通「助けて」だろ?だからこれが普通の森や山なら無視でいいし、声の正体も確かめなくていい」
「では、やはり怪異なんでしたっけ?」
ハッテンベルガーはこの話の元ネタが思いだせないでいるようだ。
「声の正体は子熊で、助けを求めて鳴いているんだ。うかつに近寄ると母熊に見つかって殺されるってやつ」
「パ、パイセン、怪異でなく、熊なら戦えますか?」
「熊なら俺はいける」
「頼もしい!」
ハッテンベルガーが声をあげた後に今度は ニールが謎の家の方に声をかけた。
「家の中に誰かいますか!?」