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第12話 これが占いの結果かぁ


 それから数日経った頃だ。梅雨時期に入り、雨の日が続いて久々に晴れ間が見えていた。そんな天気の良い日、いつものように登校してみると異変が起きていた。


 千隼の机の上がぐちゃぐちゃになっていたのだ。ゴミが散乱し、その中心に置かれた花瓶に一輪の花が挿してあり、引き出しを覗けばゴミがパンパンに詰まっている。


 今までと違った状況に千隼がびっくりしていると直哉が叫んだ。



「誰だ! こんなことした奴!」



 クラスメイトは皆、黙っていた。顔を見合わせながら知らないといったふうに首を振っている。


 前の席の生徒に直哉は誰だと掴みかかっていたが、知らないよと言われてしまい誰がやったのか分からなかった。


(良からぬ知らせってこれか!)


 占いの良からぬ知らせというのがこれのことだろう。確かに良くはないなと千隼は他人事のように机の惨状を観察していると、陽平もやってきてはぁっと声を上げる。


 何にこれと怒った表情をしながらクラスメイトたちを睨みつけていた。



「千隼、心当たりある?」



 心当たり、風吹と関わっていることが二人以外に知られてしまった可能性がなくはない。中庭の目立たないテラスの奥とはいえ、最近はよく会って話している。


 勉強も教えてもらっているので、誰かしらに見られたということも考えられた。


 陽平も直哉もそれを考えたのか、「やっぱり付き合いやめなって」と小声でいわれるが、そんなことを言われてもまだ原因とは決まっていない。



「俺はあいつだと思うぞ。あいつに近づきたい奴はいるしな」


「おれもそう思ってしまうなぁ」


「そうとは限らないだろー。それにやってきた相手が悪いだけで先輩は悪くないじゃんか」



 そう風吹は悪くない。彼がそう仕向けたわけではない以上、悪いのはやった人物だ。そう千隼は言うも、二人は納得していない表情をしている。


(それに風吹先輩は悪い人じゃないしなぁ。話すの楽しいし、勉強教えるの上手いし)


 風吹の秘密を知っていることよりもそちらのほうが気持ち的に勝っているので、付き合いを止めるかと言われるとそんなことはないというのが答えだ。


(うーん、これはますます二人が風吹先輩を警戒するなぁ……)


 二人の視線に堪えきれず、千隼は「とりあえず片付けていい?」と話を変えた、このままでは勉強もできないしと。


 それもそうなので、陽平は「手伝うよ」と自分の席に鞄を置いて、直哉はゴミ箱を運んできてくれた。


 風吹のアドバイスを頼りにするのならば、恐れずに立ち向かえということになる。怖がらずにこの現実から逃げるなということだ。千隼は気をつけようとゴミを片付けながら気合を入れた。


   ***


「私への風当たりが強いね」



 風吹は千隼の話を聞いて苦笑する。すぐに知らせたほうがいいだろうと止める二人を置いて千隼は風吹と昼食をとっていた。


 中庭は千隼と風吹以外に誰もいなくて、不思議だと思ったが何かやっているのではないかとも思ってしまう。


 人除けぐらいのことはできるのかもしれないと。けれど、風吹が何も言わないので千隼も聞くことはしなかった。



「話を聞くに嫌がらせの類だろう」



 よくあるイジメのやり方ではあった。机に悪戯をしたり、物を捨てたり隠したりとそんなイメージはある。


 ただ、こんなあからさまなことをするのだろうかと思わなくはないのだが、犯人はもしかしたら分からせたいのかもしれない。


 千隼が「他のクラスメイトに見つかる可能性があるのによくやるな」と言うと、風吹は「協力者がいるだろうね」と返した。


 朝の出来事に関しても誰かしら知っている可能性はあり、知っていても言えなかった。誰も自分がターゲットにはなりたくないだろうからねと。



「あるいは地位の高い者が犯人でその権力を振りかざして黙らせたという可能性もある」


「カースト上位には敵いませんよ、僕は!」



 自分は一般家庭だ、地位もなければ金もないので抵抗するのも難しいではないか。


 成績が良ければまだよかっただろうがそうではない。困ったように項垂れる千隼に風吹は「私を使わないのかい」と呟く。



「私を使えば周囲は黙るよ、多分」


「え、風吹先輩をそんな道具みたいに扱いませんよ」



 風吹を利用できる人だとかそんな道具のように千隼は思っていなかった。


 二人の関係は何だと問われると、助手だったり、先輩後輩だったりといろいろあるのだが、少なくとも利用するしないといったものではない。


 千隼は風吹と話すのが楽しいと感じているし、勉強を教えてもらっている感謝はあれど、邪な考えなど全くなくて。風吹が元お狐様である秘密の共有があるだけだ。



「僕は利用するしないで風吹先輩と一緒にいるわけじゃないですよ。そりゃあ、妖怪とか幽霊に興味があってとか、好奇心で動いちゃってはいるんですけど」


 でも、利用するようなことはしませんよと言い切る千隼に風吹は目を瞬かせて、クスッと吹き出した。


 突然、笑うものだからびっくりしていれば、風吹は「そうか、そうか」と呟く。一人だけ何かを納得したように。



「な、何ですか」


「いや、冗談のつもりだったのだけど、こうも真剣にはっきりと否定されるとは思わなかった」



 キミならば否定するだろうことは何となく分かっていたけれど、そこまで真剣にきっぱりと言い切られるとは思わなかった。


 風吹は話す、少しは慌てるかなと思ったのだと。



「えー! だって本当のことですよ! と、いうか冗談に聞こえませんって!」



 風吹の表情からは冗談なのか本気なのか見分けがつかず、声音すら変わらないのだから特にだ。


 もうっと千隼が頬を膨らませれば、「すまないね」と謝られる。



「しかし、そうか。私と話をするのが楽しいか」


「楽しいですね。風吹先輩って嘘ついたりとか、無理して話題を振ったりしないですから。あと、非現実的なことを感じられますからねぇ」


「なるほど。理由はどうであれ、楽しいと言ってくれるのは嬉しいね」



 風吹はそう言ってタロットカードを一枚取り出すと額に当てて目を閉じた。小さく呪文を唱える。


 淡い光がぽっとカードに灯り、ゆっくりと消えていく。瞼を上げてなるほどと呟く。



「原因はキミの友人だろう」



 はっきりとは視えなかったが、その友人が何かしらの対応をしたことにより犯人が暴走していると風吹は視たことを伝えた。


 彼の妖力というやつを使ったようだったので千隼が訳を聞くと、「原因が私に関係していたら対処しないといけないからね」と返された。


 風吹に関することならば、それは自身が招いてしまったことなので責任をもって対処しなければならない。それが例え、相手の一方的な想いによるものだったとしてもだと。



「うーん。僕から話しかけているだけなんだよなぁ」


「それでもだ。それを許しているのは私だからね」


「えーっと……友人かぁー。陽平と直哉ぐらいなんだよなぁ。思い浮かぶの」



 仲が良いと言えるのは彼らぐらいなので、その二人に原因があるとすると何だろうか。


 誰かに嫉妬されたのか、喧嘩を売ったのかと色々と思い浮かぶも、悪い事をやってしまったようには見えない。



「二人は風吹先輩に疑惑持ってるんだよなぁ」


「そう思われても仕方ない。私が目立つことは自分自身がよく知っているからね」


「これってすぐに解決しそうです?」


「視えた感じではもう少しかかるだろうね」



 長期とは言わないものの、二日三日で解決するものではないらしい。転機が訪れるまでは恐れずに立ち向かうしかないようだ。


 そうは言ってもあれがまた続くというのは嫌な気分になるわけで。



「堪えるのかぁぁ」


「あんまり酷いようならば私の元に逃げてくるといい」


「昼休みお世話になります……」



 風吹の申し出を千隼は大人しく受け取ることにした。此処には生徒が殆ど近寄らないので、何かされる心配は少ないだろう。


 暫くは堪えないとなと千隼は気を引き締める。陽平と直哉に何かしら探りを入れてみることにした。



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