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第14話 助けられるとは


 数日が経つが机は相変わらずぐちゃぐちゃで物は盗られ、寧ろ最初より悪化していた。特に直哉と何かした後だとそれが酷かった。彼と会話をしていれば、その日のうちに物が無くなるのだ。


 あからさますぎると千隼は思った。これはどう考えても直哉関連だろうと気づかないほうがおかしい。


 今日だって昼前まではあったはずのシャープペンシルが無くなっている。少し休憩時間に会話しただけではないか。


 千隼は駄目だこれはと直哉と陽平に昼食を誘われる前に姿を眩ませた。これで昼も一緒に食べたとなるとどうなるかわかったものではないと、そそくさと隠れるように中庭へと急ぐ。


 中庭には珍しく教師が一人いる。確か園芸部を担当している須賀という人物で、白髪混じりの短い黒髪をオールバックにしたダンディな彼は、授業の仕方や接し方が良いので生徒に人気であると聞いたことがある。


 中庭の花壇を手入れしている須賀教諭に挨拶をしながら千隼はいつものテラスへと向かうと、風吹が一人、サンドイッチを食べていた。



「風吹先輩~」



 千隼はぐてーっと座りながらテーブルに突っ伏した。そんな様子に風吹は大変だったねと頭を撫でて労ってくれる。


 労ってもらわねばやっていけないと、これでもかと今日あったことを千隼は早口に話す、それはもう勢いよく愚痴を交えながら。



「もう絶対に宮永修二だよ!」


「まぁ、そうだろう」


「風吹先輩でもわかることですよね!」


「話を聞くにそうだと私も思うよ」



 千隼のマシンガントークを聞ききった風吹は頷く。宮永修二を知っていたようで彼は厄介だよと彼は話した。


 昔から我儘で気に入らないこと、自分の思い通りにいかないと不機嫌になり、当たり散らしていたと界隈にいるものならば一度は耳にしたことがある。


 風吹も関わりはなかったものの、その噂は知っていた。



「我儘すぎるよ、あれは!」


「成長してからはだいぶ落ち着いたと聞いていたけど……。ふむ」



 違和感を抱いたように風吹は暫し考える素振りを見せてから、タロットカードを取り出してシャッフルをすると目の前に置いた。



「思い浮かんだ数字を」


「六」



 ぱっと浮かんだ数字を千隼が答えれば、六番目のカードが捲られて――風吹はあぁと納得したように呟いた。



「月の逆位置。……今日が転機になりそうだ」


「と、いうと?」


「危機回避、不安なことが解消されていくという意味がある」



 それは転機と呼ぶこともできると風吹はタロットカードを山に戻した。不安なことが解消されるということはこの嫌がらせもなくなるということだろうか。


 そんな急に解決するものだろうかと思わなくもないけれど、風吹は「すぐに動くと思うよ」と言う。



「あぁ、そうだ。無くしたシャープペンシルというのはどんなものだい?」


「え? 細めの黒地にグリップ部分に桜の柄があるやつです」


「なるほど」



 風吹に「無くしたのは昼前だね」と問われて千隼は頷く。彼はそれ以上は何も言わないので、何か考えがあってのことなのだろうと千隼は黙って購買で購入したパンを頬張った。



「二人は仲が良いのかい?」



 突然の問いに千隼は顔を上げれば、須賀教諭が立っていた。気さくに話しかけてくる彼に風吹は挨拶をしながら微笑んでいる。



「仲良くさせてもらっていますよ、須賀教諭」


「そうか、そうか! いつも薬師寺君は一人でいるから心配していたんだよ」



 友達がいるようで良かったと須賀教諭は嬉しそうに笑みを見せた。風吹は千隼と会話をする以前からここで一人いたようで、よく花壇の様子を見にくるので彼はその姿を見ていたらしい。


 千隼は「最近、話すようになって」と、後輩であることを伝えた。助手でもあるのだが、それは言わないで、友達ですと。



「えーっと君は……」


「一年の暁星千隼です!」


「暁星君か。薬師寺君をよろしくね」



 朗らかに笑いながら須賀教諭は言うとテーブルに置かれたタロットカードを見ておやっと呟く。


 これは注意されてしまうだろうかと、千隼がどきっとすれば彼は「珍しいね」とタロットカードを指さした。



「それはタロットカードかい?」


「私のです、須賀教諭」


「薬師寺君は占いができるのかー」


「今日の運勢を占いましょうか?」



 いいのかいと須賀教諭は興味津々といった様子でタロットカードをシャッフルする風吹を見つめる。


 カットしたタロットカードを山にして置き、須賀に思い浮かんだ数字を聞く。彼は七と答えたので七番目のカードを捲った。



「魔術師の正位置。何か計画などあるなら今日実行するといいと思います。何の小細工も仕掛けも必要としない。自信を持って行動に移すと良いかと」


「お、これは運が良いってことかな?」


「そうなりますね」



 須賀教諭はそうかそうかと笑い、ありがとうと礼を言ってまた花壇で作業を始めた。


 それを見送ってから千隼は風吹のほうへと目を向ける。彼は何てもないようにタロットカードをシャッフルし直していた。



「須賀教諭には助けられると思う」



 風吹はそれだけ言ってタロットカードを内ポケットに仕舞うとサンドイッチを口に運んだ。


 助けられるというのはどういうことだろうか。千隼は首を傾げてみせるも、風吹は「その時になれば分かるよ」としか言わない。


 その時が近いということだろうかと千隼は解釈して、気を引き締める。早くこの問題を解決するぞというように。


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