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第16話 原因も発見する


 あっと千隼は声を上げそうになって黙る、風吹がちらりと目を向けてきたからだ。あれはもしかしてこの前、言っていた魑魅魍魎なのかもしれない。


 風吹はゆっくりと修二に近寄って、そっと肩に触れる。すると、黒い何かは逃げるように彼の肩から落ちて地面を這う。


 このままでは逃げられてしまうと千隼はそろりと近寄ってから、黒い何かを踏んだ。ふぎぃっと小さく鳴く声がして周囲を見渡してみるが、クラスメイトたちは修二と風吹の会話を注視している。


 黒い何かには気づいていないようだ。ほっと息をついてから千隼は一瞬だけしゃがんで、踏んづけていた黒い何かを掴んで背中に隠す。



「こら、授業が始まるというのに何をやってるんだ!」



 五限目の授業を担当する理科教諭がやってきて、叱るように声を上げる。あっとクラスメイトが騒めくも、風吹が「これには事情がありまして」と、教師に説明した。


 その丁寧な対応に教師もなるほどと話を聞いて、修二たちに目を向ける。



「騒ぎが事実ならば事情を聞かなければならないな。当事者たちは集まってくれ、担任の先生も呼んでこよう」



 そう言って理科教諭は皆に待つように言って教室を出て行った。あ、これは話が長くなるなと千隼は掴んでいる黒い何かを見遣る。


 もぞもぞと動いているのでこのまま手を離せば逃げてしまうだろう。掴んだまま対応するしかないようだ。


 うげぇと思いながらも、このまま逃がすわけにもいかないので、千隼は不自然にならないようにしようと、教師が戻ってくるのを待った。


   ***


「はーー……」



 担任の教師を交えた話し合いを終えた千隼は疲れた様子で教室へと戻った。あれから戻ってきた教師たちに詳しい事情説明をして、修二たちとの話し合いの場が設けられたのだ。


 結果として、修二たちはもう二度としないと約束をしてくれたので場は治まる。


 嫌な想いをしたのは事実ではあるのだが、問題が解決するならば早いほうがいいと千隼は思った。


 ただの約束だけでは再犯するかもしれないからと、教師は親のほうにも連絡を入れて、こちらでも厳重に注意するということになっている。


 この対応が良いものなのかは賛否が分かれるかもしれないが、千隼は納得していた。修二はクラスメイト全員に嘘つきだと知られてしまったのだから、暫くは何を言っても信じてはもらえない。


 この学園では噂が広まるのが早いので、周囲からの信頼というのは底辺まで落ちてしまっている。信用してくれないというのが一番の罰ではないだろうかと千隼は思ったのだ。


 放課後にまでもつれ込んだ話し合いを終えて、教室のドアを開けた千隼は目を瞬かせた。直哉が席に座っていたからだ。


 放課後だというのに居残っている直哉に「どうしたの」と千隼が問えば、彼は「謝りたかったから」と返す。



「俺が宮永に喧嘩を売らなきゃ、こんなことにはなっていなかっただろ」



 告白を断るにしろ、言い方はあった。それに喧嘩を買うことをしなくとも、ちゃんと場を治めることはできたはずだ。それができていなかったから迷惑をかけたと直哉は謝る。


 直哉も自分のしてしまったことを反省したようだ。そんな様子に千隼は気にしなくていいよと笑いながら自分の席まで行き鞄を掴んだ。



「友達だし、陽平と僕だったら、僕を標的にするのは納得できるしさ。陽平ってはっきり物を言うから相手にはしたくなかっただろうし」


「……お前さ、薬師寺様と仲良いみたいだけど、どういう関係なんだよ」



 突然、なんだと千隼が顔を上げれてみると直哉は不機嫌そうな表情をしていた。


 どうしてそんな顔をするのか千隼にはわからなかったけれど、質問には答えた方がいいだろうと口にする。



「えっと、お話して、勉強教えてもらったり、お昼ご飯を食べる仲かなぁ」


「……それさ、付き合ってるってことか?」


「いや、違うけど?」



 成り行きでというか主に自分から首を突っ込んで助手になっただけだ。そうとは言えないけれど、告白を受けたこともしたこともないので恋人ではない。


 そこははっきりしておこうと千隼が答えれば、直哉ははぁーっと深い溜息を吐きながら頭を乱暴に掻いた。



「まぁ、この学園だからそう見えるかもしれないけどね」


「それは……。あー、もういいや」



 直哉はそう言って自分の鞄を掴んで教室を出て行ってしまった。何かおかしなことを言っただろうか。千隼はそんな様子に困ったように首を傾げる。



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