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幕間(二)人との付き合いは人それぞれだ

第25話 とある日の休息中


「あのさ、薬師寺様と付き合ってるの?」


「陽平、それ今週で何回目?」



 千隼がじとりと陽平を見遣れば、彼は「だってさぁ」と仕方ないじゃなかいと言う。何が仕方ないのかと千隼は突っ込んだ。


 朝のHRを終えて、一限目の授業までの小休憩時間の教室はだるそうにしている生徒が何人か目に留まる。


 そんな教室の奥、窓際の席に座っていた千隼に陽平は今週で何度目かの質問をしてきていた。


 千隼の隣の席である陽平は机に肘をついて頬杖をつきながら、「殆ど薬師寺様と一緒にいるじゃん」と付き合っているように見える理由を話す。


 それだけでは理由にはならないのでは。千隼は思うけれど、陽平は違うようだ。この学園ではよくあるということもあってかそう考えてしまうのだろう。


 誰と付き合おうと千隼は問題ないという考えではあるが、風吹とそういった関係になるかと問われると、答えに迷う。


 風吹は優しいし、気遣いができる良い人であるのは間違いないが、自分のような平凡な人間を相手にするだろうかと疑問を抱いてしまう。


 とは、本人には聞けないので陽平には「付き合っていないよ」と返すだけに止めた。陽平もぐいぐい突っ込むことはせず「そうかー」と諦めて引いてくれる。



「にしても、よく薬師寺様と仲良くなれたよなぁ。噂だとガード固めに見えるのに」


「邪な考えをもって近づかれたら誰だって警戒すると思うけど?」


「それもそうか。千隼はそんなの全くないもんなぁ」



 普通に接してくれる、そこが千隼の良いところだよな。陽平の言葉にそれは普通ではと千隼は首を傾げる。けれど、すぐにそういったことができない人間も多いと気づいた。


 それができていれば争いは起こらないのだから、風吹からすれば千隼のような存在というのは貴重だ。


(僕の前では気楽にしてほしいから、気をつけよう)


 人間というのはその気がなくとも、発言で傷つけてしまうこともある。そうならないように気をつけようと千隼は思う。



「あいつのせいで変なのに絡まれたっていうのに、まだ付き合いを続けるのかよ」



 むすっとしたように直哉が陽平の前の席に座った。荷物を無造作に机に置いて。彼は風吹に何か思うことがみたいで、こうして不満を見せてくる。


 確かに和樹のことは風吹と関わっていたことから目をつけられた。けれど、そのきっかけを作ったのは千隼自身なのだ。


 風吹に興味を持って話しかけたのも、彼の助手となったのも。だから、千隼は「悪いのは風吹先輩じゃないだろ」と言葉を返した。



「あのさ、何度も言うけどね。風吹先輩は何も悪い事をしていないし、きっかけを作ったのは僕なわけで。関りを絶つ理由はないよ」


「それは……」


「あんまり酷い事を言われると僕は嫌なんだけど」



 じとりと見遣れば直哉は言い返そうとする口を閉ざした。千隼の嫌だという気持ちが伝わったみたいだ。そんな反応に陽平が「千隼は気にしなくていいよ」と笑う。



「直哉は心配性なだけだからなぁ。放っておいていいんだって」


「陽平、お前」


「はいはい。ほら、直哉はさっさと一限目の準備をする」



 陽平に促されて直哉はぶつぶつと文句を言いながら一限目の授業のじゅんびを始めた。不良じみたことをする彼だが、授業だけはちゃんと受けている。


 そんな彼の様子を楽しそうに眺めている陽平の態度が不思議だった千隼だが、「気にしなくていいよ」と言われたので深く聞くことができなかった。


   ***


 昼休みに中庭のテラスへと向かえば、風吹がいつものように座っていた。その足元には源九郎、傍には静代がいる。


 透の姿は見えないが、彼は何処かを彷徨っているのだろうと思って千隼が声をかければ、風吹が優しく微笑みながら迎えてくれた。



「今日は源九郎と静代さんもいるんですね」


「あぁ、報告を聞いていたんだ」



 幽霊や妖怪が悪さをしていないか、困ったことはないか。そういったことを彼らには見張ってもらっているので、定期的な報告を聞くのだと教えてくれた。


 透はまだ見回りの途中らしく、夕方に報告をしに来るらしい。話を聞きながら千隼は風吹の前の席に座れば、静代がにこにこした笑みを浮かべていた。


 上機嫌といった様子に何か良い事でもあったのかと聞いてみれば、「そうなのよー」とテンション高めに話してくる。



「ずっと陰ながら応援していた子がやっと恋人同士になって!」


「好きだね、静代さん」


「恋愛小説とか漫画大好きだったからさぁ。人の恋愛話とか聞くとわくわくするのよねぇ。応援したくなってさ」



 見つからずに恋の行く末を眺めていられるというのは幽霊の特権なのかもしれない。


 二人の愛を邪魔するのは、幽霊だろうと妖怪だろうと許さないわとテンションが上がりに上がっている。


 そんな彼女の様子に源九郎が呆れたような溜息を吐き出していた。これもいつものことといったふうだ。風吹は「お節介はしないように」と釘を刺している。



「恋っていいじゃないですかぁ。千隼くんもどう!」


「僕? うーん、どうだろう」


「千隼にはそういった人はいないんだね?」


「え?」



 少しばかり語尾強めに問う風吹に千隼はえっと首を傾げる。そんな聞き方をされたことがなかったので驚いたのだ。


 けれど、風吹の表情は読めない。普段となんら変わらない表情なので、千隼は不思議に思いながらも「いないですけど」と答える。



「好きな人もかい?」


「恋愛的な意味でならいないかなぁ」


「これから好きなっていく可能性もあるということか」


「え? あー、それはあるかも」



 接していくうちに恋心を抱くということはあるはずだ。なので、そう答えれば風吹はふむと納得したように頷いた。


 今日はいまいち、反応が読めないなと千隼が風吹から静代に目線を移せば、彼女がそれはもうきらきらとした瞳を向けていることに気づく。そうなのね、そうなのねと一人、納得しながら。


 なんだろう、これは。千隼の頭の中に疑問符が浮かぶのだが、源九郎に「気にするな、小童」と言われる。



「静代の反応はいつものことだからのう。気にするだけ無駄だぞ」


「なるほど」



 静代だけでなく、風吹の反応も気になるのだが。千隼はそう思ったけれど、風吹が何でもないようにタロットカードをシャッフルし始めたのを見て、聞くことをやめた。


 普段の彼だったから、大丈夫なのだろう感じて。



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