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第五章:好奇心旺盛で未熟な妖怪

第26話 寮の裏山の噂

 いつものように学校の中庭へと向かえば、風吹が幽霊の透と何か話をしていた。


 何かを考えるような素振りを見せる二人に千隼は声をかけられず、その様子を眺める。


 タイミング悪かったかなと千隼が思っていれば、透と目が合った。彼があっと気づいたように声を上げて、風吹が振り返ると手招きをされる。どうやら、話を聞いてもいいみたいだ。


 定位置となっている風吹の前に座れば、テーブルにはタロットカードが並べられていた。


 占った後なのだろうかと見ながら、「どうかしたんですか?」と聞けば、「噂を知っているかい?」と、問い返される。



「噂?」


「寮の裏の山で人魂のようなものを見かけたというものだよ」



 寮の裏は小山になっているのだが、夜中に火の玉のような光が見えるという噂が広まっているらしい。


 人魂では、誰かが夜中にこっそり徘徊しているのではないか。そんなふうに話されているとは知らなかった千隼は首を左右に振った。


 今日は普通に授業を受けていたがクラスメイトはそんな噂をしていなかったなと。


 そう答えれば、風吹はまだそれほど知れ渡っていないということかと、また考える仕草を見せる。



「妖怪の仕業ですかね?」


「狐火の場合がある。あそこには源九郎のような狐の妖怪はいるからね」



 妖狐は尻尾の数で位が決まるらしく、三尾の狐まではあの小山に住んでいると。源九郎が話を聞きにいっているようで、今はその回答待ちということだった。


 そこまで考えることなのかと千隼は疑問に思う。小山に住んでいるのだからたまに狐火が見えてもおかしくはないのではないか。


 そんな疑問を察してか、風吹が「彼らは目立つことはしないんだ」と話す。



「あそこに住む妖怪たちは静かに暮らしたいという者が多い。人間と関わってもろくなことがないからね。一度ならまだしも、何度か目撃されているとなると少し不思議に思うんだ」



 確かに静かに暮らしたいという妖怪たちが、目立つようなことをするのはおかしい。


 一度ならば、不慮の事態が起こった可能性があるが、何度もとなると別の要因が関係しているかもしれない。


 でも、絶対に彼らがやっていないという確証もなく、透はそこを指摘した。



「この辺も幽霊や妖怪の出入りが頻繁にあるから、絶対にないとは言い切れないよ。とはいえ、人間が何かやらかしたっていう可能性もあるけど」


「透の言う通りではあるね。この辺りといったら学園生や警備員、学校関係者ぐらいだが……。新しく入ってきた妖怪の線も考えられる」



 ふむと考えるが答えはでない。と、そこへひょこっと源九郎が顔を覗かせた。どうやら聞き込みが終わったみたいだ。


 どうだったかと風吹に問われて、源九郎は「三尾狐のつぐみ姉さんからいくつか情報が」と答える。



「最近、妖怪が新しく入ってきたが、その中に数匹の妖狐が混じっていたようです。どれもまだまだ若く、子供のような好奇心を持っていたと」



 三尾狐によれば、子供のような好奇心を持っているあの子たちがやってしまったかもしれないとのことだった。


 子狐のような見た目をしていて、すばしっこいこともあり、捕まえるとなると難しいだろうとも注意されたようで、源九郎は「困ったものですよ」と溜息を吐いている、



「下手に目立って人間が山に肝試しになんてきたらどうするんだか、全く」


「夜中は難しくとも、日が暮れた部活帰りにこっそりやる生徒がでるかもしれないね」


「そこで幽霊や妖怪なんてみたら騒ぎになりますよねぇ」



 騒ぎになって学校側がお祓いなどをするとなると、大人しく暮らしている妖怪たちの迷惑になってしまう。


 悪い事をしているならばまだしも、そうでないのならばそっとしておくのが一番だと千隼は思った。



「しかし、まだその子たちだという確証がない」


「それなー。もう少し、情報がほしいよなぁ。妖怪側と人間側で」


「透が言うように情報が欲しい。妖怪側はこちらでどうにかなるが、問題は人間側か」



 妖怪側は透たちでどうにかなるが、人間側はそうはいかない。風吹は「千隼がいて助かった」と、噂について友人に聞いてみてほしいと頼む。



「千隼なら噂について聞いても怪しまれないのではないだろうか?」


「え? まぁ、噂のことを陽平たちに聞くのは大丈夫だと思います。怪しまれはしないけど、珍しがられるかも?」



 千隼は噂にあまり興味がないタイプの人間だ。なので、噂を話題に出すと陽平たちに珍しがられる可能性はあった。


 だが、珍しいと思われるだけで怪しまれることはないと千隼は思ったのだ。


 元々、好奇心が強いのは風吹に自分から関わったことで陽平たちも知っている。


 興味が湧いてさと言えば、誤魔化せるのではないかと。だから、自分なら自然と聞けるかもと千隼は答えた。



「そうだと助かる。私だとなかなか聞けないんだ」


「あー、風吹先輩が噂を気にするイメージはないですもんねぇ……」



 風吹の雰囲気などから見て、心霊系や噂などに興味を抱くようには見えない。


 何を考えているか読めないという印象を抱かれているので、噂のことを聞かれたら驚くのは想像できる。


 それに噂を気にしているのだと言いふらされかねない。そういった話には尾ひれがつきがちなので風吹は避けたいはずだ。



「僕に任せてください」


「ありがとう。ただ、無理はしないように」


「そこは気をつけていきます」



 変に聞きすぎて怪しまれるのはよくないものな。千隼は迷惑をかけないようにしようと気を引き締めた。



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