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第30話 友として傍にいたい気持ちはわかるから

「元お狐様……」



 裕二は約束通り昼休みに中庭へとやってきた。テラス席に座って風吹から簡潔に事情を聞いた彼はなるほどと頷いた。


 嘘や冗談だとは思っていないらしく、それはきっと木枯こがらしの存在があるからだろう。


 彼が風吹のことを妖狐様と呼んでいるのだから、疑う理由はないといったようだ。



「生まれ変わりだと思ってくれたらいい。本来なら千隼以外には言わないつもりだったけれど、妖狐と木枯が呼んでしまった以上はこの部分を隠すことはできないからね」



 嘘をつくというのは自分に残っている善性が許さない。その言葉に千隼は元神様も大変なんだなと風吹を見遣る。



「他言しないようにお願いしたい。できれば、記憶を消したくはないんだ。木枯が悲しむからね」


「妖狐の部分だけ消すってできないんですか?」


「できなくはないよ。でも、木枯と付き合う以上は私の本質を避けることはできない」



 妖怪と付き合うということは、彼らを取り巻く問題にも関わってしまう場合がある。


 この学園で起きた問題は風吹に回ってくるので、どうあっても切り離せないのだ。


 毎度毎度、記憶を消していては裕二の身体に不調を与えかねない。


 それに手間にもなるので、だったら本質を教えてしまい、協力者になってもらったほうが良いと判断したということだった。


 裕二は事情を把握したようで「人に言いふらすようなことはしない」と約束をしてくれる。


 木枯と友人関係でいたい気持ちがあるようで、協力できることには手を貸すと。



「風紀委員長であるおれならばある程度の融通は利くし、誤魔化すこともできるはずだ」


「それは助かる。実を言うと放課後の行動に制限があって困っていたんだ」



 この学園では放課後は部活動生以外は残ることが許されない。教室で少し喋っているだけでも「早く帰宅しなさい」と叱られるほどだ。


 自主学習するために図書室を利用するのは許可されているが、それでは学校内を調べることは難しい。


 幽霊である透や静代が見回ってくれているとはいえ、彼らには制限というのがある。


 妖怪や幽霊というのは逢魔が時である放課後から活発になってくるので、その時間帯に調べられないというのは痛手となってしまう。


 風吹の主張に裕二は「それならば、おれの手伝いをしていることにしよう」と提案した。風紀委員には部員制限があるので入ることはできない。


 たが、人手が足りないからと臨時で手伝いを頼んだことにすれば、見回りをする体で放課後の校内を散策することができるだろうと。


 それなら教員に見つかったとしても誤魔化すことはできるなと、千隼は良い提案だと思った。


 風吹もそうだったようで、「お願いしよう」とその提案を受け入れる。



「しかし、幽霊もいるのか……見かけたことがなかったが」


「木枯と一緒にいれば視えると思う。妖怪の力の影響というのは人の霊感を強めるから」


「おいらも一緒にいていいのか!」


「いてもいいけれど、もう迷惑をかけてはいけないよ」



 そこっと傍で見守っていた木枯がぱっと表情を明るくさせてテーブルの上に顔を出す。


 風吹に釘を刺されてうげぇっと鳴いたけれど、裕二と一緒には居たいようで「分かってるよぉ」と返事をしている。



「風吹先輩はともかくとして、僕は手伝いを任せても問題ないって判断してくれますかね?」



 この学園の風紀委員は条件がいくつか存在する。成績よりも生活態度が優先されるため、千隼は少しばかり不安だった。



「確かに三年と問題があったとは聞いたが、あれは先輩側に非があったと聞いている。風紀委員内で知る限り、君は問題児リストには入っていないので大丈夫だ」


「問題児リストってあるんだ……」



 校則違反や問題行動をしている生徒のリストというのは存在するようだ。


 これはもしかして直哉も入っているのではと千隼が心配していれば、裕二に「君は飯島直哉の友人だったか」と問われて、思わず背筋をぴしりと立たせてしまった。



「リスト入りしてますかね、直哉」


「注意人物ぐらいだな。自分から問題行動をするわけではないので、何かあったら注意する程度だ」



 君からも注意してくれと裕二に言われて千隼ははいと頷くしかない。相手から喧嘩を売られたからといって、暴れていい理由にはならないのだ。


 直哉と友人だからといっても、彼は注意する程度であって、要警戒人物入りはしていないとのこと。


 要警戒人物って誰だろうと少し興味が湧いたけれど、関わったら駄目なのは聞かなくても分かることだったので問わなかった。



「これからは斎藤くんとは協力関係だ。よろしくお願いするよ」


「あぁ、こちらこそ。本来ならば、木枯とは関わってほしくないだろうに、彼の気持ちを汲み取ってくれてありがとう」


「ありがとうごっざいます、妖狐様!」


「いいさ。ただし、千隼と斎藤くん以外の人間の前では妖狐様と呼ばないように」



 視えている可能性もあるからねと、風吹に注意されて木枯は「わかった!」と元気よく返事をした。


 裕二にすっかりと懐いてしまっているようで、彼の腕に飛びついて喜んでいる。そんな姿を見てしまうと、引き剥がしたくはない気持ちも理解できた。


(風吹先輩って優しいよな……って、うん?)


 千隼が風吹のほうを見遣れば、彼は裕二に懐く木枯を懐かしむように、けれど寂しげに眺めていた。


 それは何かを想うようで、千隼は気になったけれど、問う言葉が見つからず。黙って風吹のことを眺めるしかなかった。


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