「しっかし、なんでスーツなんだ? 動きにくだけだろ?」
「動きやすさは求めてないんですよ。出来るだけ頑丈にして欲しいんです」
「ほう。するってえとPT組んでいくのかい?」
「ええ。まだ具体的な日程は決まってないですけど。でも、近いうちに行くと思います」
「なんだよ。俺も誘ってくれりゃいいのに」
「ヌマさんと行ったら死にますよ」
タブレットでオプションをつけていく。いやいや、薄給の身としては目も眩むような価格だが、今回は気にすることもない。
「なんだ、毒耐性だけじゃなくて麻痺耐性もつけとけ。どうせ補助金で払えるんだから」
「はいはい。便利な世の中になったもんですね」
「おれらに感謝しろ。おれらが税金納めてっから、駆け出しのひよっこや復帰組に恩恵があんのさ」
「だから復帰じゃないですって」
ダンジョンへ潜る探索者に対して政府は補助金を出している。
特に駆け出しの探索者や復帰組と呼ばれる過去にダンジョンへ潜っていた高レベルの探索者に対して装具や備品にかかる費用を全額補助しているのだ。背景にはその危険性のため人材不足に陥ってる現状がある。
そりゃそうだ。
準備が不十分な素人は論外として、高レベルの探索者であっても装備が不十分では一部の例外を除いて死にに行くようなものなのだ。だからこそ、こういったセーフティネット的な制度が必要になってくる。
「あの!」
おっさん二人がタブレットを覗き込んでいると若い少女が声を上げた。
さっきの金髪店員さんだ。
てっきり店長が乗り出してきたから奥にひっこんだと思っていたが、職務を全うするつもりらしい。
「ヌマさん、この子」
「ああ、孤児院からの推薦だ。こう見えて近いうちにデビューする」
「孤児院?」
「最近、そういうのが多いんだ。俺んとこ以外にもかなり来てるぜ。第一世代ってやつだ」
「…なるほど」
伊藤さんと同じ境遇の子か。
それなら髪の色やどこか垢抜けない姿にも納得がいく。
「あのっ!」
さらに自己主張を強めてきた。
どうやらなにか用があるらしい。しかも、状況から見ておれに対してなのはなんとなく察することができた。
いや、でも、おれ個人としては本当に心当たりがない。
となれば、伊藤さんの知り合いなんだろうか。
「君、伊藤さんの知り合い?」
「はうっ!?」
はう?
心底びっくりしたと言った表情。というか、どこか怯えているようにも見えた。
中年のおっさんが女子中学生を脅かしている状況。ああ、どう考えても悪党はおれである。普通に話しかけただけでこんな反応をされるのは心外だったが、まぁ、子供のことだからと口調を柔らかくすることを意識した。
「ごめん、知り合いじゃないならいいんだ。君と境遇が近い子と最近会ってね」
「あの!」
まさかの三度目。
少女は頬をうっすらと紅潮させ、決意に満ちた顔で言った。
「あなたが高レベルなのにダンジョンに行かずにふらふらしてキミさんのところで飲んだくれてる中年おじさんですかっ!?」
おやおやおや?
どうやら、今夜キミさんに奢るはずだったシャンパンはいらなくなったみたいだ。