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第14話


「つまり、高レベルの探索者なら新米探索者に引導を渡せると思ったってことでいいいかな?」


「インドウ?」


「…失格にできるってこと」


「そうですっ!」


「なんというか、どこから訂正すればいいかな…」


 うーん、頭痛い。

 クリーニング屋に併設したカフェの一角で少女の話を改めて聞き取った結果、そんなわけのわからない結論に辿り着いてしまった。


 前提として、いくら高レベルであろうと一個人が他人の進路や生き方を決めることなんてできるわけがない。そりゃ、よっぽど犯罪行為をしたとかなら探索者になれないなんてことはあるかもしれないが、それはあくまで法律や御上が決めることなのだ。個人の感情や判断で決めるものでは断じてない。


「なんでですか! 私達は孤児院で教わりましたよっ! 保証人から承諾を得なければダンジョンには潜れないって!」


「そりゃあ、お前らは未成年だしな。おれらみたいな保護者の許可がなくちゃダンジョンには入れねえわな」


「だったら、師匠からも言ってください! 私たちのPTは低レベルでうんこで将来性皆無だからダンジョンには一生潜れませんって!」


 師匠って呼んでるんのか。


「…うんこって悪口久々に聞いたよ」


 必死の訴えには悪いがほとほと呆れ返るほかない。

 それと彼女の言うPTとは孤児院の仲間たちのことだ。やはり、というか、なんと言うか、


「でも、他のメンバーは、伊藤さんは反対してるってことでいいんだよね?」


 当初の推測は当たっていた。

 彼女は伊藤さんと同じ孤児院出身者であり、PTのメンバーでもあるらしい。しかも、物心ついたころから一緒で仲が良いとのことだった。


「みんな、何もわかってないんです! ダンジョンに潜ったら、し、死んじゃうかもしれないのにっ!」


「ま、そりゃそうだわな」


 フォローにすらなっていない言葉を吐いたヌマさんを少女は鋭い目付きで睨んだ。

 確かに、言葉遣いや話の伝え方はめちゃくちゃだが言いたいことは十分に理解できる。というか、ある意味では常識的と言っても良かった。


 生と死が当たり前に天秤に掛かっている事実。

 それは未成年の彼女達が背負うというのはあまりに重いのかもしれない。


 けれど、それは十年以上も前の話だ。


「でもなぁ、お前は探索者にならなきゃどうすんだ?」


「う、それは…っ!」


「まぁ、お前自身はおれの下でコーティング屋をやるのもありだろ。普通のクリーニング屋でもいいか。でも、? 少なくともお前のPT連中は路頭に迷うか、下手すればそこら辺に突っ立ってなきゃいけなくなるんじゃないのか?」


 少女はぐっと堪えている。

 反論がないのはそれが現実だということも理解しているのだろう。


 政府は探索者を優遇している。

 補助金を増し増しにし、学校教育を徹底することでダンジョンへの門戸を広げているのがその証拠だ。

 テレビだってSNSだってなんだって探索者を取り上げるのもプロパガンダの一環なんだろう。


 それだけダンジョンの攻略や探索にはメリットがある。けれど、逆を言えば、関連する産業以外へのリソースを注がないということにもなる。

 ありていに言えば、社会的な後ろ盾もない孤児では、探索者以外に真っ当な職を得る機会もないということだ。


「まともな大学すら出てない孤児を雇う職種ってのは当然限られる。つまり、お前は探索者になれる友達をお前の好き嫌いで地獄に落とそうって言ってるんだぞ」


「……っ!」


「ヌマさん、言い過ぎですよ」


 思わず師弟の間に入ってしまった。

 いや、さすがに中学生の子供が泣くのを見過ごすのは気分が悪い。性質が悪いのは泣かせた方が全面的に悪いというわけでもないことだろうか。半べそをかく少女を見ながら、そう言えば名前すら聞いていなかったことを思い出した。


「君、名前はなんていうの?」


「…シズク」


「うん、シズクちゃんね。シズクちゃんの心配は当然だ。生きるか死ぬかなんて考えること自体しんどいよね」



「だから、ダンジョンに行こう。そこで教えられることは教えてあげるから。来週にでも時間を作ってほしい。もちろん、伊藤さんやPTのみんなも一緒にね」

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