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第17話

「これで大丈夫、かな?」


 定時での帰宅後、ガワさんに借りた機材のチェックをしてみた。

 ドローンとアプリで完結する仕様。あまりにも操作が簡単すぎて、逆に不安になってくる。しかもAIによる自動撮影も可能で、アパートの狭い室内でも自由自在に飛び回っていた。しかも、音がしない。どうやって飛んでいるのか、傍目にはわからなかった。

 使わなくなった機材、とお願いしたがこれはこれで高価なもんだったりするんだろうか。いや、まぁ、高レベル探索者の上人気DTUVERなんだから相応の機材を使っているのは当然か。

 ガワさんの説明では充電なんかはいらないらしい。空気中のマナや太陽光を活用して充電しているんだとか。

 うん、試運転も上々。寝るまでの間おれの生活でも撮っててもらおうか。


「いや、誰が見るんだっつー話だな」


 さて、と考える。

 夕飯はスーパーで買った鶏肉と野菜を適当に炒めもの。さっき作って盛り付けも終わったし、さくっと食っちまおう。


 テレビでも点けようかと思ったが、この時間の番組はよくわからない。当然か、先週までは帰宅時間も9時10時だったのだ。午後6時のニュースなんてそれこそくだらなさすぎて見ていられる気がしなかった。


 であれば、DTUBEを見るか。

 スマホでばかり見ていたがたまにはテレビで見るの乙だろう。何よりこれから実際に配信を始めるんだから参考になるだろうし。

 以前までならだらだら過ごすからと遠慮していたが今日からは思いっきり見てやろう。


「定時帰りさまさまってね。しかし、次長ブチギレてたなぁ」


 鼻歌でも歌いたい気分だ。流石に一人暮らしだからやらないけれど。職場の視線もまるで気にならない。人間、腹を決めると他のことはどうでも良くなるもんなのだ。


「ん?」


 いつも見ているチャンネルから動画を再生しようとしたら、独特の通知音が響く。スマホを開くとSNSにメッセージが届いてた。


『やくそうコンプ。ダンジョン許可おりた』


 電報かよ。

 誰からきたのかはすぐにわかった。


 伊藤さんだ。


 ファミレスで会った時SNSのアカウントをお互い交換していたのである。


「『おめでとう、これで探索者だね』、と」


 正直電話のほうが楽なのだが、流石に夜に十代女子に電話する気にはならなかった。向こうだって、いきなりおっさんから電話が来たらそれこそ恐怖を感じるだろう。


『当然。ところで今週末ダンジョン行くの?』


「あれ、聞いてないのか?」


 てっきりシズクちゃんから聞いてると思ったが。あ、いや、短文でわからなかったが聞いたからこそメッセージを送ってきたんだろう。


「『シズクちゃんに言った通りだよ。土曜日を予定。場所と時間は近々伝えます』、でいいかなっと」


 送信。

 ふと、我ながら十代女子とやりとりをするのは犯罪臭がするなと思った。いや、まぁ、こういうやりとりを通じて飯のタネにしようってんだから慣れるしかないんだけれど。


 通知音。

 意外に返信早いなと感心していると、


『キモい。シズクちゃんとか言うな』


 そんなメッセージが来た。

 …意外にショック。

 キモいと言われたことはもちろん、そりゃそうだなと納得する自分に

 対しても衝撃だった。


 もう若くない。

 だからこそ時間は無駄に出来ないのだ。


 早速場所と時間を決める。すぐにメッセージを送り、とっと飯を食った。そのあとはもちろんDTUBEの研究である。


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