「あ、いた」
土曜の朝。
待ち合わせ場所に指定した駅の改札で立っていると三人の少女がやってきた。見覚えのある少女が二人。そして、見たことのない少女が一人。
「おはよう。まだ20分近くあるのにさすがだね」
「おはよう。それ以上に早く来てるくせに何言ってんの?」
礼儀正しいのかなんなのか。
相変わらずの伊藤さん節に思わず苦笑いが浮かんだ。シズクさんはどこか怯えたような表情を浮かべている。もしかするとなんでこんな早く来てるのとドン引きしているのかもしれない。
まぁ、女子高生の好感度なんてはじめから期待してないからどうでもいいんだが。
そして、
「はじめまして、ミキって言います」
最後の一人が自己紹介してきた。ミキさんね。
一言で言えば優等生だろうか。艶やかな黒髪は背中まで伸びている。ピンと伸びた背筋が凛とした雰囲気を醸し出している。靴も磨いているのかピカピカだ。よく見ればいくつも傷があるが、それは仕方のないことだろう。
「はじめまして、黒地です。すごいな、全身コーティング付きか」
「学校の制服だからね。そっちだって似たようなもんじゃん」
じっとこちらを見つめる伊藤さん。目に魔力が込められているのがわかる。どうやら、彼女は学習能力も高いみたいだなと感心した。
「ていうか、じろじろ見過ぎ。キモいんだけど」
「厳しすぎないか? おじさん泣きそうなんだけど」
最後の一言はいらないと思うんだけど。
まぁ、確かに中年のおじさんが女子高生をじろじろ見るのは犯罪臭が半端ないが。けれど、ここで確認しておかなければダンジョンに向かわせることなんて出来ないのだ。
「見て、わかるんですか?」
恐る恐ると言った雰囲気でシズクさんが言った。クリーニング屋で会った時と違ういのは服装のみで相変わらず分厚いメガネをしている。
「ん? ああ、こうやって魔力を目に込めてやるんだ。…あれ、授業でやってるわけじゃないのかな?」
「そうですね。どちらかというと
「デバイス…ああ、武器のことか」
カタカナ文字におっさんは弱いのである。…いや、さすがに知ってはいたがどうにも慣れないのだ。
「あ、それなら見ててください」
ものはためしというつもりなのか、ミキさんは鞄から20センチくらいの白い棒のようなものを取り出した。
「こうやって、えい!」
魔力が込められると同時、白い棒が光を放った。直後棒が伸び、見てくれもファンタジー全開の代物に変わる。
ヒーラーが主に使用するデバイスだ。
「最近のは随分ハイテクだな…!」
「普通じゃないの? 私の剣だって魔力でデカくなるよ?」
へー、と思わず感心した。
ダンジョンへはもちろん行ってないし、現場から随分と遠ざかっている。DTUBEを見てもダンジョン突入後に配信や動画は開始されるから、皆フル装備のままなのだ。
ダンジョンの探索中、武器を収納しておける余裕はない。一瞬の油断が命取りになることをDTUVERですら理解しているのである。
「あの、でも、それなら、黒地さんのデバイスはどう、なんです?」
シズクさんがびくびくしながら質問してきた。
ある意味至極当然の質問だろう。
隠すことでもないし、おれは素直に答えた。
「おれにデバイスはないんだ」
「強いて言えばこのスーツかな? 防御力は申し分ないし、みんなのタンクをさせてもらうよ」