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第22話


「すごい」


 感嘆の声。

 地下のはずなのに地上にいるような感覚になる広い空間。周囲が岩壁か何かで覆われているはずなのに、誰の目にも広大な空にしか見えない。周囲は密林を思わせる植物が生い茂り、どこからかモンスターの雄叫びまで聞こえた。小高い丘から見下ろす光景には誰もが思い描く冒険の世界が広がっている。

 目の前の光景をただただ受け入れるしかない状況を、彼女たちは人生ではじめて味わっているのかもしれない。…我ながらどこ目線の気持ちの悪い考えだなと反省し、周囲の状況を整理する。


 ここは霞城ダンジョンの攻略ルートである。


 通常ルートは、狩場と呼ばれる場所をいくつか巡ることを言う。ゴブリンやドワーフなどのモンスターを狩り、それで報酬を得るのだ。

 もちろん、そんなことだけでもらえるのは微々たるものだ。ただ、このダンジョンにはいくつか危険性の高いモンスターの生息地とされるエリアがあり、そこが稼ぎ場とも呼ばれている。


 攻略ルートは正にその生息地を踏破していくルートなのである。


「さて、と」


 リュック下ろし、中からドローンを取り出す。魔力の補充を確認し、起動。ほぼ無音で浮遊し、設定した通りにおれの周辺を映している。


「…あ、ええっ!? なんですか、ドローンですかこれ!」


 近くにいたシズクちゃんが反応した。

 物珍しそうに見つめ、ドローンの動きに一喜一憂している。そんな彼女自身をドローンも撮影対象として判断しているのか、さまざまな角度から映していた。

 小動物と戯れる少女そのものである。


「ちょっと、ドローンで動画あげる気?」


「え、配信するんですか?」


 圧倒的な大自然に呆けていた二人もドローン文明の利器に正気を取り戻した。けれど、はじめて見るらしく興味津々で動きを目で追っている。


「配信は今回はしないよ。ただ、動画の録画はする予定」


「変なとこ撮る気じゃないでしょうね」


「違う違う」


 アオイさんはどこまでも警戒心が強い。

 まぁ、リーダーとしての責任感が強いみたいだから当然かもしれない。さっきのやりとりだって、その思いが強いからこそのものだと十分に理解できた。


「そもそもさ、どうして探索者が動画をネットに上げ出したか知ってるかい?」


「え、再生数を稼げるからだろ」


「現代っ子だなぁ。まぁ、今はその目的の方が強いだろうな。でも、実は別の目的もあったんだよね」



「自分が生きた証として残したかったからなんだ。撮影が終わって無事戻れたら記念として、そして、もし万が一命を落としたら最後の瞬間として仲間が持ち帰る。動画の撮影ってのはそれだけ大事な行為なんだよね」



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