「ああ、だからやばいって思ったんだっ! あれ、いくら魔力通してもアオイさんたちじゃ死んじゃうと思って」
我ながらようやく合点が入った。
やばいって思考で頭が埋まって、理由まで回ってなかったのだ。まぁ、その後にミキさんが吐き続けていたこともあって考える余裕もなかったんだが。
「いや、普通にやばいっすよ! 流石っすね、何事もなく帰ってくるなんて…っ!」
「何事もなくってわけじゃないんですけどねぇ」
主におれの社会的信用が失われてしまったんだが。
「こいつら、下層でもかなり用心深くて見つからないんすよ。接触する前に逃げられるし、一撃即離脱って感じで。それで俺の仲間も何人かやられてるし」
「やられた?」
「一発すごいのきませんでした? こいつの一撃、多分俺らでも貫かれますよ?」
なるほど、どうやらおれは運が良かった口らしい。
様子見の一撃でたまたま気づくことができ、そのままぶっ殺せたんだから。そう考えるとその後の惨劇もある意味帳尻合わせ的なものだと納得…できわるわけねえだろ…っ!
なんで上層に下層のモンスターが現れるとかありえねーハプニングが起きんだよ。しかもめちゃくちゃブチギレられるし。あー、思い出すだけでガチで凹む。そうなんだよな、おれって何かやろうとすると必ずトラブルが起きるのだ。仕事でも私生活でも。ほんと、嫌になる。
「あ、そういえばドローン飛ばしてたから映像あるよ」
「え、ガワさんから貸りたって言ってたやつですよね? 早速使ったんすか?」
「まぁ、今回のも編集して一回目の動画で出せたらと思ってたし」
スマホを操作し、保存した映像をクラウドからダウンロード。
普段使わないおかげで容量は問題ない。とは言っても、もう何回か同じような真似をすればすぐに埋まってしまうだろう。早急にノートパソコンを調達しなければ。
「これ」
「見せてください」
「多分、一時間後くらいかな?」
スマホを渡し、キミさんの言葉を待つ。
動画の再生とともに音声も漏れ聞こえてきた。そこで一つ驚いた。音声もきちんとクリアにとられている。アオイさんやミキさん、シズクさんの声や息遣いまでわかるとは。おれ自身の声も入っているのだろうが、やはり自分自身の声というのは録音だと別物にしか思えない。
音声と共におれ自身の記憶も蘇る。
アオイさんの絶叫が聞こえたと同時に、問題のシーンが訪れたのがわかった。ビールをもう一口。そろそろおかわりが欲しくなってきた。
「…黒地さん」
「はい」
キミさんにすごい目で見られている。
あれだなと察した。
ミキさんが思った以上に吐きすぎていてドン引きしてるんだろう。まぁ、おれですらびっくりするほどの吐きっぷりだった。女子高生にそんな醜態を晒させた大人に弁護の余地はないとも思っているのかもしれない。
うん、逆の立場だったら警察に通報してる。というか、自分が紹介した手前もあるので落とし前の一つつけさせるかもしれなかった。
やべえな、本気でおれ詰んでね?
とりあえず土下座だ。
謝罪は言われる前にやるからこそ意味がある。
「キミさん、本当に申し訳」
「この件おれに預けてください。彼女たちには俺から言っとくんで。ゴブリンロードの件も他言無用でお願いします」
「え、いいんですか? アオイさんたちブチギレてるって」
跪こうとしてやめた。謝罪する雰囲気ではないと思ったからだ。キミさんは大丈夫です、と繰り返し言った。
「そこら辺はおれから言って聞かせますから。やっぱり、黒地さんから教わった方が絶対にあいつらのためになりますし。というか、俺も指導し直して欲しいくらいです」
「いや、今更キミさんにおれが教えるなんて…」
「とにかく、あとは俺に任せてください」
キミさんはそれだけ言って、もういっぱいビールを持ってきてくれた。ちょうど他の客も来店してきてこの話はそのまま有耶無耶になったのだった。不思議なことに、キミさんは一杯目のビールどころか五杯目のハイボールまで全てタダにしてくれたのだった。
助かったんだろうか。
おれは少しだけもやもやしながらその日は家に帰路に着いたのだった。